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欧州のローカルを参照するとしたら、どの国を見る?

Twitterが米国の大手メディアの複数ジャーナリストのアカウントを凍結しましたが、このことに対するEU側の反応について以下の記事があります。

欧州連合(EU)・欧州委員会のヨウロバー副委員長(価値観・透明性担当)は16日、EU法はメディアの自由の尊重を求めているとイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)に警告した。

ヨウロバー氏はツイッターに「恣意的な(アカウントの)凍結は懸念される」と投稿した。最近成立したEUのデジタルサービス法について、同法が「メディアの自由と基本的権利の尊重を要求している」と指摘した。ヨウロバー氏はツイッターに「恣意的な(アカウントの)凍結は懸念される」と投稿した。最近成立したEUのデジタルサービス法について、同法が「メディアの自由と基本的権利の尊重を要求している」と指摘した。

さらに「レッドラインは存在する」として、それを踏み越えれば法律に基づく制裁につながると強く警告した。EUとツイッター社の対立につながる可能性もある。
EU、マスク氏に警告 記者アカウント凍結で制裁も

この記事を冒頭に紹介したのは、今さら言うまでもないですが、欧州と米国は違うとの事例の一つとしてです。そして、EUがさまざまなルールを先導してつくり、今や世界の多くの国の行政やビジネスパーソンたちが、いわばモデルとして参照するか、場合によってはそのままコピペをするようになっています。

さて、ここでちょっと話をずらします。

日本の地方のスモールサイズの都市やコミュニティのソーシャルイノベーションに関わる人たちが欧州にあるモデルを参照するときに、何を目安にみるとよいか?について考えてみたいです(いや、別に参照モデルは不要というのが、ほんとうは良いと思うのですが)。今後のルールづくりの思想の源泉の一端があるはずだからです。あくまでも仮説ですが、わかりやすいと思われる3つの指標を例に挙げてみましょう。

参考までに、この動機は下記にあります。

グローバルに広がったデジタルプラットフォームは多々ありますが、例えば体調がすぐれないとき、それを利用して隣人に薬屋に行ってもらえるようになっているとは言い難い。1万キロ離れたところに相談にのってくれる「友人」がいるのに、です。ローカルとデジタルプラットフォームのペアにはまだまだできることが多いのです。特にリモートワークが普及した現在、住むところを中心にした、この近距離空間のデジタルプラットフォームのあり方はより重要度が増しています。

英語があまり通用しない国々にみるべきものがある

日本の人が中学から英語を勉強しているけれどもなかなか英語が使えないとのエピソードは、耳にタコができるほど聞いてきました。ある記事では、20-30%くらいが英語を使え、問題なく話せる人は10%という数字を記しています。

その真偽のほどはわかりません。ただ、この割合はローカルのデジタルプラットフォームの事例を参照する際の目安になります。

https://en.wikipedia.org/wiki/English_language_in_Europe#cite_note-EU-1

なぜなら英語が通用しやすい国のモデルは、国外へのスケールアウトの可能性が「あり過ぎる」からです。海外市場の開拓であれば、英語が通用しやすい国の人たちのマインドや戦略が参考になりますが、ローカルに根付いたものを考える時に参考になるのは、上のグラフのおよそ30%以下の国でしょう。フランス、ラトビア、ポルトガル、スロヴァキア、イタリア、ポーランド、ルーマニア、スペイン、チェコ、ブルガリア、ハンガリーがあります。

ぼくの印象でいえば、同じ20-30%でも欧州のこれらの20-30%の方がより英語の意思疎通ができるとは思いますが、そこはあまり深追いせず大雑把にいえば、上記の国々にあるデジタルプラットフォームの動向をみるのが一つの指標になるだろうということです。

人口サイズがあまりにかけ離れている国は対象になりにくい

また、日本とあまりに人口が違う国も上述と同じことが言えます。小さな国は国内だけでは経済がまわりずらく、どうしても国外との関係があることを「常態」としてとらえやすい。ビジネスだけでなく、そのほかの面でも似たような傾向を示すはずです。スイスやベルギーのような多言語が一般的な社会は、その意味で多くの条件が異なってきます。

また、ちょっと知り合いの何人かを経由すれば、政府の高官に会える環境にあるかどうかも、人口サイズに関係します。500万人程度なら、首脳と面談する機会を狙うのも圧倒的に敷居がさがります。ヒエラルキーがありながらも、結果的にフラットな風景と近似のものになるわけです

https://www.worldometers.info/population/countries-in-europe-by-population/

もちろん日本のように1億人を超える国はEU圏内にはありません。ですから、「なるべく人口の多い国」を候補にあげます。ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポーランドあたりまでではないでしょうか。英国は英語の国ですから、ほっぽっておいても国外に通じやすく、逆に国外の人も気楽に入ってきます。したがって除外しました。

これらの国でドイツは英語の通じやすいところに入っているので、ドイツは次候補的な存在になります。とすると、第一候補群はフランス、イタリア、スペイン、ポーランドになります。

農産品の地理的表示も参考になるかもしれない

やや意外な目安かもしれません。しかし、大都市ではなく、ソフトウェア産業や大量生産の工業地域でもない地域でローカルの価値を見いだそうとするとき、農産物への評価は見逃せません。その土地の自然環境から生活文化にいたる固有性が、ここに集約されているからです

EUは2020年の発表で、地理的表示(GI)のついた農産品のビジネス規模は75百億€です。GIの農産品はGIのほぼ半数です。また、GIはEUの定めるものだけでなく、国のもの、あるいはスローフード財団のような私的団体による制度と何種類かあります。

GIは固有の材料や製法を規定しています。スローフード財団のGI制度の特徴としては、EUや国のGIは中堅レベルの企業でないと認定されずらい(ある同業者組合などに入り、それなりの金額を毎年おさめないといけないので)場合、GI該当地域であってもGIラベルが貼れない不利が生じることがあります。こうしたケースをスローフード財団のGIは救えるようになっています。即ち、それだけ土地に固有のものが存在感を放っているのです。

このようなGI制度における農産品の数はギリシャ、イタリア、フランス、スペインが多い。ワイン、生ハム、オリーブオイル、チーズなどですね。

すなわち地中海にそった地域の産物です。

これらの3つの目安に入っていればよいというわけではないが・・・

3つの目安に入っている国はスペイン、フランス、イタリアです。当然ながら、この3つの目安に合致すればリファーすべきモデルが必ずみつかるというものでもないです。どちらかといえば、いろいろと不透明な部分が多く、つまりはロジカルな記述をベースに情報のかなりの内容が分かる・・・というのとは反対の国々です。

だからこそ、逆に日本の人たちに参考になるのです。

第三者の目を意識した英語での記述も多い小さな国の事例とは違う観点で、第三者の目を意識しない公用語を中心にしたそれなりのサイズの国の事例を知ることで、日本の事例もまんざら悪くないと確信をもてるのです。そうすると、EUのルールづくりをあまりに祭り上げる必要もないと気づき、自分たちも積極的に一緒に組める糸口がみつかるはずです。

米国や中国などサイズも国力もまったく違う国、スカンジナビア諸国のようにサイズや英語普及度がまるっきり違う国、これらに学ぶべき点があるのは当たり前ながら、それらを過大評価して自分たちのことを過小評価しないのも精神衛生上でも大切です。

その点、ローカルのデジタルプラットフォームは良い観測地点の一つになるはずです。

写真©Ken Anzai



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