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「電気使用制限に違反したら罰金」ってなんだ?!と思ったあなたへ。

そうですよね。そう思いますよね。エネルギーというのは、必要とされるときに必要な量が供給されることが必要です。今暑いからor寒いからエアコンをつけたいのであって、「今電気が足りないから5時間後なら使用して良いよ」と言われても意味がありませんし、使う量を制限されるということは工場の生産活動など、何かを諦めなければならない訳です。電気の使用を制限され、それに違反したら罰金とは、「どんなあくどいお代官だ?!」と怒りを覚えた方がほとんどではないでしょうか。
政府、電気使用制限を検討 今冬、違反した企業は罰金(共同通信) - Yahoo!ニュース
私も、3月の福島沖地震の影響があるにせよ、政府は電力確保のために全力を尽くしたのかを問いたいと思っていますが、今回は、「そもそも、なぜこんな事態になっているのか」をできるだけ簡単にご説明したいと思います。

来冬、電力需給はひっ迫する

2023年1月。あと7か月ほどで東京電力管内は電力危機に見舞われる可能性が高いです。別に私に予知能力があるわけではなく、5月27日に開催された経済産業省の委員会でそうした見通しが示されています。(リンク先のP6)

第50回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会資料

4月に示された見通し(上記の左側の表)では、東京エリアは、「マイナス1.7%」だったのが「マイナス0.6%」と若干緩和していますが、それでも約200万kWの供給力が不足していると見込まれています。また、4月時点の予想と比べて、西日本は来年1月の予備率が低下してしまっていますが、これは、関西電力の原子力発電所(高浜3号機)の工事終了時期が見通せなくなったことによる影響とのこと。なお北海道や沖縄は、他の地域との連系が非常に少ない/無いので、予備率は他の地域より多めに見ておく必要があり、そもそも確保すべき予備率は「最低でも3%」より高く設定されています。

電力を大量に貯蔵する技術はまだ存在せず(揚水発電を除く)、電気は在庫を持つということができません。瞬時瞬時で、使う量と全く同じ量を発電する必要があるため、最も多くの電力需要が見込まれるときにあわせた発電設備を保有しておく必要があります。予想された最大需要電力よりも暑さ/寒さが厳しくなって電力需要が見込みよりも増えた場合や、発電設備のどこかにトラブルが生じた場合に大停電になりかねないので、多少の発電設備の余裕を確保しておくことが必要です。その割合が「予備率」であり、非常に厳しい気象条件の時(猛暑、厳冬)でも最低限3%を維持することとされています。これまで経験した気象条件等を踏まえて厳しい条件を設定していたとしてもそれが十分とは限りません。また、設備トラブルの可能性も織り込んでおかねばなりませんので、3%程度の余裕を確保しておく必要があるのです。そして、その予備率がマイナスということは、もはや余裕はない、ということです。
なお、世界が平和で落ち着いているときには、燃料は安定的に輸入し続けられるというのが前提でしたので、設備の予備率(発電所の量)を気にしていればよかったわけですが、昨今は燃料調達にも不安が出てきました。また、設備量が不足してきたので、以前は夜間の電池を昼間に回すといった時間差利用を可能にしたり、再エネの細かい変動を調整することを期待されていた揚水発電に、いざという時の発電量を依存する状況になっています。

今年3月22日の需給ひっ迫の時(詳細はこちら)にでんき予報で「(筆者補:発電所の)使用率106%」といった数字をご覧になった方もいると思いますが、ああやってバッテリーに貯めたエネルギーを吐き出さないと供給力が足りなかったのです。ただ、バッテリーは、貯めたエネルギーを吐き出したら終わりです。いずれにしても、これまで通りの予備率確保だけしていればよい状況ではなくなっています。

なぜこんな状況になっているのか

皆さんには「どうしてこんなことに?!」という印象かもしれませんが、なるべくしてこうなっています。
まず、原発の停止です。福島第一原子力発電所事故前には電力供給の約3割を賄っていた原子力発電所をほとんど停止させていますので、東日本大震災前と比較するとその分供給力が失われている状況です。ただ、これは震災以降常態化しており、ここ数年起きているというわけではありません。
もう一つが火力発電所の休止・廃止の増加です。気候変動対策の観点から火力発電所を廃止させるという議論はこれまで盛んにされてきましたし、今もその方向性に変わりはありません。なにせ2030年には2013年比▲46%、2050年には温室効果ガスを実質ゼロにするのですから。こうした温暖化対策による政府の方針だけでなく、実は経済合理性によって多くの火力発電所が休止・廃止を余儀なくされています。それには、大量に導入されつつある再生可能エネルギーが大きく影響しています。

第46回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会資料

日本は再エネ後進国と批判されることが多いものの、実は、再エネ大国です。再エネ発電設備(kW)の導入量でいえば、世界第6位、太陽光発電の導入量は第3位です。国土面積当たりの太陽光発電導入量はダントツで世界1位です。
東京電力管内には既に1770万kWの太陽光発電設備が導入されていますので、晴れればその発電量はかなりの戦力になります(東電管内の電力需要はだいたい冬は最大で5000万kWくらい)。もし太陽光発電がその能力を100%発揮したら、ピーク時の電力需要の35%程度を太陽光が賄ってくれることになります。しかし夜あるいは天候が悪いとそれが戦力外になってしまいます。調整役の電源が必要なのですが、太陽光発電が発電するときにはそちらが優先されるので、調整役は「恒常的には稼げない発電設備」です。メンテナンスコストをかけて発電所を維持しても、あるいは、莫大な投資をして建設しても、投資回収できるかどうかわかりません。
自由化された市場では、稼ぎの悪い発電所は事業者にとってお荷物。いざという時に必要な設備を持つという損な役回りは誰かにやってもらい、自分は身軽になりたい、ならねば競争に負けてつぶれてしまいます。
こうして多くの火力発電所が休止・廃止されていけば、いざというときにどこを探しても必要な供給力が確保できない、ということになります。それを防ぐためには、稼働率が低下した発電所を、休廃止せずメンテナンスコストをかけて維持しておく必要があるのです。

発電事業を自由化して競争原理を導入する一方で、再エネを政策的に補助して大量に導入しそれを優先的に利用するようにすると、こうした問題が起こることは、欧州各国等の経験でも明らかでした。そのため、政府も無策だったわけではありません。事業者がメンテナンスコストを確保して、火力発電所を維持することができるよう、4年後の発電設備のkWに対価を払う「容量市場」を創設しました。要は「いざという時に備えて、発電所がいてくれることに対してお金を払う」という制度です。この入札は既に行われていますが、最初の支払いがされるのは2024年です。いざという時の設備を維持するというのは、いわば社会としての「保険」のようなものです。必要なこととはいえ、コスト負担に対する抵抗する向きもあって容量市場の創設が遅れた一方、限界費用での市場への投入は2012年から始まっているので、固定費回収不足が進展してしまいました。(この辺急に難しくなってごめんなさい。ご関心ある方はこちらをお読みください)
 
再エネを拡大するなら、「再エネが発電しないときの発電所の維持」が肝だったのですが、固定費回収不足と温暖化対策としての早期廃止方針が国から強く出され、火力発電所は減少の一途です。原子力政策は10年停滞したままですし、それで「停電は何があっても避けよ」と言われても、そんなに都合よくいきません。

休止した火力発電所の復活や、需要家側の対応(いざという時、2時間前の通告等決まった条件に応じて、電気の使用をやめてもらう)など、ぎりぎりまで手を尽くすことになりますが、この冬(その手前にも厳しい夏がありますが)は、不測の事態を覚悟しておく必要があるでしょう。

これまでの電力システム改革が何を見落としてきたのか。検証が求められます。


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