見出し画像

もう「バズ」はいいんじゃないでしょうか

結局のところ、バズは何も生まない

「無限の彼方へさあ行くぞ!」。いや、そっちじゃなくて。「バズる」のバズです。いや、私だって「バズりたい」という色気がないわけではないです。このnoteだって、バズってくれればそれに越したことはありません。ツイッターやnoteのアイコンを叩いて、「うわ、ありえねー!」とのけぞるほどの通知を見るのは、何というか快感です。承認欲求が満たされます。

ただ、それだけなんです。いっときの快感を覚え、承認欲求が満たされる。ただそれだけ。これまで何度か、ツイッターやブログがバズったことがありましたが、それで何かが変わったかというと答えはノーです。もちろん有名になれるわけでも、プロフィールにリンクを貼っている本が売れるわけでもない。それどころか、フォロワーだって大して増えやしません。

広告やプロモーションがバズって、それで無名だった商品が一躍ヒット商品になったという例は、私の無知も手伝って聞いたことがありません。一時的に普段より売れた、ということはあるかもしれません。もともと売れていた商品が、さすが◯◯!と讃えられるケースはいくつか思いつきます。でも、それがきっかけで無名からヒット商品に躍り出たというケースは寡聞にして知りません。

数万単位のエンゲージメントがついた=バズったツイートたち

単語を覚えるには「反復」して「色々やってみる」のが大事

これは何でなのだろうか? と考えてみました。私の仮説としては、次の3つの理由からです。

  1. トレンドではなくファドになって終わるから(フリークエンシーの問題)

  2. 接点がそれ一つしかないから(タッチポイントの問題)

  3. 何ともリンクしていないから(リンケージの問題)

これらについて詳しく説明する前に、まずは人の記憶について重要なポイントを、ここで少しおさらいさせてください。

英単語を覚えるにはどうしていたでしょうか? 王道の手段は「単語帳」でしょう。単語帳が単語を覚えるのに役立つのは、「反復練習」ができるからです。何かを記憶に定着させるには、一定の期間に一定以上の回数、それに接触する必要があります。これを広告の世界では「フリークエンシー」などと呼び、例えばテレビCMなどは、あえて繰り返し何回も見てもらえるよう多めに出稿するのが一般的です。

また、単語帳は「読む」前に「書く」必要があります。めくるたびに声に出して読んでみて、耳でその音を聞くこともできます。そうして色々な接点でその単語に接することが、記憶の定着をさらに助けてくれます。広告でも複数の「タッチポイント」からアピールすることで、より効率的に商品を覚えてもらえると考えられています。だからテレビCMをつくるときは、一緒にポスターやYouTubeの広告をつくるのが一般的なのです。

当たり前ですが、単語には「意味」があります。また名詞・動詞・形容詞などの「品詞」があり、ビジネス関連の言葉、などといった「分類」があります。これらとのリンクが一切ない状態だと、よしんば覚えることはできても、後で引き出すことができません。例えばTralfamadoreという単語を覚えてみてください。何回も繰り返し書いたりして、ここで頑張ってこれを覚えても、このまま何ともリンクを貼っていない状態だと、今後この単語を思い出す可能性はほぼゼロでしょう。

これはカート・ヴォネガットの小説に出てくる架空の星の名前です。固有名詞であって、実際には存在しない架空もので、惑星の名前です。こうしていくつかの情報とのリンクが貼られていれば、例えば「物語にでてくる架空の場所といえば?」と聞かれたとき、「タイトゥーン」や「竜宮城」などとあわせてこの「トラルファマドール」も思い出すかもしれません。

広告でも「リンケージ」といって、特定のシーンやワード、ジャンルなどに、商品やブランドの名前を紐づけてもらうことが意識されます。「不動産なら東急リバブル」とか。その広告自体と商品やブランドのリンケージも大事です。あのぐっさんが出てるのは東急リバブルのCMだ、という繋がりです。

それらができてはじめて、広告は効果を発揮します。「不動産を探したい」などと思ったときに、「それなら東急リバブルかな」と思い出してもらえるのです。どこにもリンクを貼られずに、頭の中でただ宙に浮いているだけでは、覚えるだけ覚えてもらってもほとんど意味がないのです。

バズが結局何も生まない理由を考えてみる

ひるがえって、ふたたびバズが結局は何も生まない理由です。

  1. トレンドではなくファドになって終わるから(フリークエンシーの問題)

  2. 接点がそれ一つしかないから(タッチポイントの問題)

  3. 何ともリンクしていないから(リンケージの問題)

「流行」という英語には「トレンド(trend)」と「ファド(fad)」があります。トレンドは「傾向」というもうひとつの意味が示すとおり、右肩上がり(下がり)で長い間続いていくものです。「少子高齢化」などはこの「トレンド」です。それに大して「ファド」は、線グラフにするとコブや三角コーンのような形になる、ごく一時的な盛り上がりです。バズは言うまでもなくファドなのですが、これだと広告でいうところの、「十分なフリークエンシー」をキープすることができません。つまり、何回か繰り返して聞く、とう状態が作り出せないのです。

2つ目のポイントです。例えば先ほど画像でお見せした私のツイートを、そう言えばツイッターで見たことがある、という人はいらっしゃいますでしょうか。仮に何人かいらっしゃったとして、どこか別の場所でも見た、という方は一人もいないでしょう。これは広告でいうと、タッチポイントが不十分な状態です。別の日にテレビで取り上げられたりすれば、少しは「バズったツイート」として記憶に定着するのでしょうが、そんなことはそれこそ滅多に起こりません。

最後にリンケージです。私がツイートをきっかけに自分のビジネス書を買ってもらいたいのあれば(そういう訳でもないのですが)、「ビジネスパーソン」「ビジネス書の作家」として見た人の頭にインプットしてもらう必要があります。ただ、先ほどのツイートはいずれもビジネスとは関係ありません。まあ関係ないこともないかもしれませんが、あれらを見て私とビジネス書を関連付けて頭に入れる人は皆無でしょう。そもそも、私の名前や顔写真を注意して見る人もほとんどいません。わざわざプロフィールを見る人などもっと少ないでしょう。そうなると、このツイートを見たとて、私のビジネス書に興味を持って行動してくれる人などいるはずもないのです。

バズ狙いはほどほどに

私は小学生の頃から「欽ちゃんの仮装大賞」が大好きだったので、あるとき学生時代の友人が出ているのを発見して大興奮しました。その友人は、その時全国のお茶の間に声を轟かせたわけですが、その後有名人になったわけでも、それがきっかけでビジネスを軌道にのせたわけでもなさそうです。

バズったのに有名にならない、商品が売れない、フォローワーすら増えない、というのはこれと同じなのかもしれません。「仮装大賞」に出てインタビューもされたのに、有名にならないし、商品は売れないし、フォローワーも増えない。それはそうでしょう。一時的に友達から連絡が殺到し、快感を覚えたり、承認欲求が満たされたりするかもしれません。でもそれだけです。

バズというのは、バズった当人としては、あるいは仕掛け人としては、「仮装大賞」の晴れ舞台よろしく一世一代のイベントなのかもしれません。しかし、見る人としては、いまや毎日といっていいほど繰り返されている日常の一部です。「きょうのわんこ」みたいなものです。

一生懸命商品をプロモートした結果として、あるいは自分でも面白いと思うコンテンツを作れた結果として、たまたまバズったらそれを楽しむ。バズにはそのくらいの心がけで向き合うのがいいのではないでしょうか。「無限の彼方へさあ行くぞ!」などと力んでも、あまりいい事はないのです。

<お願い>

noteを気に入っていただけたら、ぜひ書籍もご覧になってみてください!

マーケターのように生きろ: 「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動

#COMEMO
#NIKKEI

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?