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経営戦略と連動した「学び直し」が重要(人材版伊藤レポートにおける「学び直し」)

「学び直し」への関心が徐々に高まってきています。
人的資本経営の観点からも「学び直し」は重要であり、人材版伊藤レポートでもその旨が示されていますが、人的資本経営の推進のためには、目的意識なく「学び直し」を進めるのではなく、以下の記事にあるような「経営戦略との連動」を意識した学び直しが求められると思います。

今回は、人材版伊藤レポートを踏まえた人的資本経営推進の観点から学び直しについて見てみたいと思います。
※人材版伊藤レポートの説明についても記事を書いています。一番下に参考をリンクを貼りますので、是非ご覧ください。

経産省ではもっと前から学び直しに注目

まず人材版伊藤レポートの内容に入る前に、経産省では平成30年から「学び直し」の重要性を発信していますのでご紹介です。

経産省産業人材政策室(当時)が公表した「人生100年時代の社会人基礎力」では、人生100年時代の社会人基礎力を伸ばすためにはリカレント教育が重要である旨を示しています。
今となっては古いものですが、結構まえから学び直しの重要性は示されていました。

https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20180319001_3.pdf

人材版伊藤レポートでも「学び直し」は重要視

「学び直し」は人材版伊藤レポートでも重要なものとして位置づけられています。
人材版伊藤レポートでは、人材戦略は経営戦略によって異なるものであることを前提としつつも、各社に概ね共通して求められるであろう「3つの視点・5つの共通要素」(3P・5Fモデル)を示しており、共通要素③として、「リスキル・学び直し」を挙げています。

この3P・5Fモデルをさらに具体化した人材版伊藤レポート2.0では、「リスキル・学び直しのための取組」として、以下を挙げています。
⑴ 組織として不足しているスキル・専門性の特定
⑵ 社内外からのキーパーソンの登用、当該キーパーソンによる社内でのス キル伝播
⑶ リスキルと処遇や報酬の連動
⑷ 社外での学習機会の戦略的提供(サバティカル休暇、留学等)
⑸ 社内起業・出向起業等の支援

私はこのうち、特に「⑴組織として不足しているスキル・専門性の特定」、「⑶リスキルと処遇や報酬の連動」が特に重要であろうと思います。

経営戦略実現のための学び直し

まず⑴の「組織として不足しているスキル・専門性の特定」についてです。
これは、もう少し言葉を足すと「形成戦略の実現のために組織として不足しているスキル・専門性の特定」となります。

なぜなら、人材版伊藤レポートの目的は、経営戦略と人材戦略の連動であるからです。
実際に、人材版伊藤レポート2.0では、「リスキルが人材戦略の一環として、経営戦略の実現を助けるためには、その実現に当たって不足するスキル・専門性を特定するプロセスが欠かせない。」としています。

人材版伊藤レポート2.0を策定するにあたり行われた研究会でも、次のようか意見が出ています。

自社は事業モデルを変化させながら成長を続けている。経営戦略の変化が自然に個人と組織のリスキル・学び直しを促してきた結果としてリスキリングがなされている。リスキリングが先に立つのではなく、経営戦略による事業目標があって、それに不足するスキルを磨く。すなわち戦略が先に立つ。

人的資本経営の実現に向けた検討会 第3回議事録

したがって、無目的に「学び直し」を進めるのではなく、あくまで経営戦略の実現のために「学び直し」を進めるべきであるとしています。

処遇の低さは中途採用の問題だけでなない

次に、⑶の「リスキルと処遇や報酬の連動」についてです。

冒頭引用した日経記事では、「処遇が低いから中途採用は難しい。だから社内で育成する」という趣旨の内容が書かれています。
しかし、処遇の問題は、人材獲得の問題にとどまらないでしょう。すなわち、「学び直し」を受けた人材が社外に出てしまうという離職の問題でもあるはずです。

したがって、「学び直し」は処遇、評価との連動が不可欠になります。
「学び直し」の結果としての処遇が労働市場に見合ったものとなれば、人材獲得の場面での課題も解消されているであろうと思われます。

経営戦略ありきの「学び直し」は悪か

時折、「人への投資や学び直しを企業価値向上目的や経営戦略目的で進めるのはいかがなものか」という意見も聞かれます。

しかし、教育訓練投資は企業が行うことが推奨され、望ましいとしても、そうした責務があるのかということは一度立ち止まって考える必要があるでしょう。
いくらステークホルダー資本主義といっても、シェアホルダー(株主)の利益を無視してよいわけではなく、私企業(特に上場企業)が、(環境や人権等への配慮は忘れてならないですが)営利を追求することは決して悪いことではないと思われます。

また、経営戦略と連動した学び直しは、成長産業への人材の流動を促す効果も期待できるので、働き手にとってもメリットがあるはずです。

そもそも、経営戦略と関係しない基礎的、普遍的な教育訓練は、一次的には学校、大学等の教育機関や教育訓練機関が実施すべきものであるはずで、そうした公的な機関がなすべきである教育訓練までもを、純粋な私企業に求めるのはいささか酷ではないでしょうか。

※最近の一言
7月終わりころから飼っているカブトムシが頻繁に転ぶようになってきました。もうすぐ寿命かもしれませんが、大事に育てたいです。
ちなみに長男の関心はとっくに恐竜にシフトし、カブトムシは朝にチラ見するだけです。



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