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「望まない」のではない。「望めない」のだ。

人口動態の3月までの速報値が公開された。
大前提として、出生数は何をどうしたって減るのであり、それはもはや確定された未来であって、いちいち速報値に一喜一憂するのも今更どうなんだという話もあるが、新聞は必ずこれをネタとして持ってくる。

まあ、それはいいとしても、いろいろ正確ではない話が織り交ぜられているのはよろしくない。

国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が4月に公表した将来推計人口で、23年の日本人の出生数は最も実現性が高いとした中位推計で76万2000人。専門家からは23年に同推計をも下回るとの声が聞かれ始めた。

最も実現性が高い中位推計?

推計には、高位推計、中位推計、低位推計とあるが、別にそれは条件を別にした場合の最大値と最小値の幅を示しているわけであって、中位推計が実現性が高い値として出しているものではない。実現性が高いかどうかというものをこの記者の勝手な思い込みである。

歴史的に推計の結果としての実現性を測るのであれば、低位推計がもっとも現実と合致している。以下の記事で書いた通り、1997年の低位推計は少なくとも約20年間の2018年頃までは、その経年推移を含めて誤差なくぴったりと合致している。
実現性という意味で推計を語るのではあればそれは低位推計とみるべきだろう。

社人研の2023年の出生数推計では、確かに中位推計で76万2000人だが、低位推計では70万人を切る67.8万人となっている。あながち全然遠い数字ではなく、ぶっちゃけ2023年は70万人を切るという予想の方が妥当なところだろう。

そもそも、推計している社人研だってこの中位推計はいかがなものかと思っているだろう。推計するのはAIではなく、官僚である。そこには当然政治家の思惑が入ってくる。通常もっと早く発表されるはずだった推計を4月に後ろ倒しにしたことですら政治の意図がある。2023年冒頭に「異次元の少子化対策」なんてものをぶつまけて批判殺到した時期と同じ時期にしてほしくはなかったのだろう。大体において、中位推計とは政治家に忖度したものになる。官僚とはそういうものだ。だから外れる。よって、見るべきは低位推計であり、中位推計ではない。

記事にはもうひとつ間違いがある。

藤波氏は少子化について「30代後半でも出生意欲の高かった団塊ジュニア世代が40歳を超えた16年ごろから、若者が経済的な理由で結婚や出産を望まない傾向が続いている」と分析する。

「望まない」のではなく「望めない」のである。自らの意志で別に非婚や子無しを選択した人ばかりではなく、半数近くは不本意未婚・不本意無子である。そして、その要因には若者の経済的環境の悪化がある。そこを見誤ってはいけない。「望まない」若者の自己責任にしたい意図があるのかどうかは知らんが…。

政府の少子化対策を徹頭徹尾「的外れ」と私が指摘しているのも、まさにそこで、子育て支援一辺倒だからだ。出生数が少ないのはそこではない。金がなくて子が産めないのではなく、金がないから結婚すらできないのだ。

そういう記事をプレジデントで書いた。ぜひ読んでもらいたい。

児童のいる世帯とそうじゃない世帯の年収構成を比較すると、明らかに年収が高くないと子を産めない状況が顕著。が、これは決して「高所得層が結婚して子どもを産んでいる」のではなく「ただでさえ少ない高所得層しか結婚も子育てもできなくなった」ということだ。

これとあわせて政府の少子化対策をみると的外れ感が明確になるでしょう。根本的に全体が貧乏になっているし、本来メインであるべき所得中間層が税金や社保などで負担増で疲弊。その親世代の疲弊を見て、子たち若者らは希望を失うという悪循環が生れている。

有体にいえば、政府の対策は、今恵まれた層に対してさらに支援が拡充されるだけであって、単に格差の拡大とタワマン族のマウント意識を高めるだけ。

これに関しては、こういうツイートも多く寄せられる。

読んで頂きたいのは私も同じだが、決して政府の政治家も官僚もこれを知らないわけではないということも言っておきたい。知った上で「見なかったことにしている」のである。加えて、御用学者や御用シンクタンクに金払って、データの切り取りによる公式資料を作らせて「子育て支援拡充すれば少子化は解決する」などという大嘘をつくのである。

一方で、その財源に社会保障費の増額などを抱き合わせて、結局「やさしくしておいて後で殴る」DV夫みたいなことをしている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/148d0905db058ae6a8dd8b039a985eb49d9def9c

この記事のヤフーコメンテーターコメントも書いたが、「月500円なら仕方ないか」と思わせて、少額のステルス値上げをずっと続けられている。2000年から2022年での家計調査に基づく社会保障費の月額増額は年平均で870円ずつ毎年あがって、22年間累計にすれば月約2万円あがったことになる。年にしたら24万円もあがっている。そのあがった分はそっくりそのまま消費支出の減額とほぼ同額です。
つまり、社保料をあげればあげるほど消費が低迷し、景気があがらず、よって給料もあがらないという悪循環につながっています。

良し悪しは別にして、結婚も出産も子育てももはや消費行動の一部です。ない袖はふれないから、婚姻数が減るし出生数が減る。
社保負担だけの問題ではないですが、少子化の本質的なここの部分を無視し続けてきたことが現在の状況を生んでいるともいえる。この期に及んでもまだ同じ事を続けるのであれば、これは少子化対策ではなく、まさに「少子化大促進政策」でしょう。

この2コマ漫画が実にわかりやすい。

ツイッター界隈では、飽きもせず「現金給付を」と言い続ける声の大きい界隈がいるが、あんなものは自分らの団体にとって利益を誘導しているようなもので、本当に害悪(全部とはいわないが)。

財務省はバラまいたら、その分は必ず回収する。必ず殴ってくる。それを忘れてはいけない。

大体、政府による支援というのは現金のバラマキだけではない。何度もいうように、「飢えた人に魚を配るのではなく、魚の釣り方を教える」べきで、求められるのは政府による一過性の公助の提供ではなく、「自助の支援」である。

四の五のいわずに、若者の半数が年収300万円にも到達しないこの貧困国みたいな状況をまずなんとかしてほしいのである。

長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。