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シニアもイキイキと働ける社会へ

 僕が就職したのは1990年(平成2年)。それから32年が経過している。

 "Japan as No.1"(1979, ヴォーゲル著)という書籍がヒットし、その後到来したバブル経済期においては、日本企業が米国の不動産や映画会社などを買収するなど「世界を買い叩く」勢いで日本経済は力強く世界の中で存在感を示していた。

 僕が新卒で入った日本興業銀行は、Moody's, S&Pという世界の二大格付機関からAAAを獲得し、合計6A(AAAとAAA)と言われていた。そして6Aを得ていたのは当時、世界で興銀と農林中金の2つだけだった。それがどうすごいのかわからなかったが、興銀に入って早々、先輩が研修で自慢していたのが印象的で、よく覚えている。そう、他の先輩は「興銀が潰れる時は日本が崩壊する時」とうそぶいてもいた。

 高度経済成長期からバブル経済期にかけては、とにかく会社に入って一生懸命働けばいい暮らしが待っていた、というのが「常識」だった。少なくとも、親父の世代の会社員たちは、満員電車に揺られながら、長時間残業を厭わず一生懸命働いていた。それは一生懸命働けば、未来は明るいという「常識」をみなが信じていたからだろう。

 僕が就職活動していた1989年の頃は、日本経済が最高潮にスパークしていた。その年、ソニーはコロンビアピクチャーズを買収し、12月29日の大納会で、日経平均株価は38,915円と史上最高値をつけた。

 1990年に入り、あれよあれよという間に状況は変わっていった。1990-1991年あたりでバブル経済は崩壊し、その後国内GDPの成長はピタッと止まり、大手各社が採用を一気に絞り「就職氷河期」が到来した。終身雇用が当たり前だった雇用スタイルは当たり前でなくなり、「いい会社に就職すれば将来は”安泰”」などという発想は、完全なる幻想に過ぎなくなった。

 銀行では、バブル崩壊、就職氷河期、アジア通貨危機からのジャパンパッシング、住専問題、相次ぐ経営破綻などなど、取り巻く環境がひたすら厳しくなる一方だったから、2000年を迎える頃には、この世の春を謳歌していた銀行業界は、一気に「不況業種」となっていった。

 働く人たちのモチベーションは、じわじわ下がっていっているように見えた。しかし、そこに気づく人もいれば気づかない人もいた。そしてその状況変化に嫌気がさし、転職したり起業したりする人もいれば、とはいえ、会社が倒産しない限りは、今日からいきなり食うに困る、という状況にもならないから、会社に止まる人も多かった。転職したところで、同じような状況の業界も多かった。そして業界によって温度差はあった。

 個人的には、2000年頃には、「こりゃ終身雇用なんて幻想だな」と感じていたし、周囲の友人たちも、そう気づいていた。自分たちは、自分の人生を会社に捧げる「就社」をしていたんだ、それじゃいけないよな、という話をし始めていた。

 ところが、終身雇用が崩壊した、と一般に認識されたのは、令和に入ってからだ、という記事を読んだ。2019年5月に、経団連社長やトヨタの社長が、終身雇用は限界だ、とコメントして世の中で共通認識になったと。

 確かにこの時、終身雇用なんてとっくのとうに崩壊している(と、僕は思っていた)のに、なんでメディアは大騒ぎしているんだろう、と感じた記憶がある。

 つまり、僕たちが終身雇用の崩壊を感じてから、経営者たちがそこに真正面からコメントするまで、20年の時間を要している、ということだ。そこはまだら模様で進んでいく、ということだ。

 大雑把に世代で切って考えてみる。僕は現在55歳。僕より10年以上シニアの方々は、終身雇用の崩壊をあまり感じずになんとか「逃げ切れた」世代だと思う。

 その下、つまり僕を中心に上下10年、45歳〜65歳のゾーンは、まだまだ体は動くし、働けるものなら働きたい。老け込むにはまだ早い。しかし、「終身雇用」や「いい会社に就職すれば、未来は安泰」という考え方を刷り込まれてきたので、いまさら会社から放り出されても、という状況になっている人は多いのだろう。

「会社が守ってくれた」という中でずっと働いてきて、急に「自分で自分の人生を考えて」と言われても、困る世代なのだ。

 その中で今さらながらではあるが、「リスキリング」でキャリア自律を、という動きになってきているのがこちらの記事での取り組みだ。

 もちろん、会社がこんなことせずとも、自分で自分の人生を考えて、作り上げていこう、モチベーションは自分で燃やせ、ということかもしれない。先ほどの区分けでいうと、45歳以下のゾーンの人々は、そう考えている人が多いだろう(もちろん、危機意識の有無、自律・自立ができているかはどの世代でも人によるが)。

 以前の投稿で「リスキリング」の「リ」は不要で、常に「スキリング」つまり学び続け、成長し続け、社会に貢献し続けようぜ!と述べたものの、

 そうしてこなかった世代の人たちにそれをいきなり言ったところで、現実にはそうならない。もちろん社会が、会社が悪いのだ、と言うつもりもない。しかしそういう時代背景もある中、結果的にあまり自分のキャリア(人生)をどうするか考えず、なんとかなるだろう、と思ってきた人は、現実に多いのだ。

 ベテランに「あとひと花咲かせようぜ!」と取り組み始めているのがこの記事で読める。

 シニアはシニアなりに得てきた経験がある。例えば、大企業では調整能力しか身に付かなかった、という方がいる。しかし調整能力は、とても大事だ。今、大学の学部を創設し、浸透させていくプロセスでは、僕も銀行やプラスで身につけてきた調整能力は強烈に役立っている。全ては、無駄なんてない。だから、世の中に対して出せる価値は、いくらでもある。

 大事なのは、こういったシニアの人たちのモチベーションだ。モチベーションをアップさせるには、未来が明るいと、その人その人なりに感じ取れる社会にすることだ。

 誰でも、どんな世代でも、イキイキと働ける社会にしていこう。
そのために、シニアも輝けるように。若者のキャリア自立をメインの仕事にしている僕ではあるが、全世代、イキイキと輝いて仕事ができるようになれば、きっと日本は、もっと明るくなるんだと思う。

 そこに僕なりに、貢献していきたい。

 (photo by Aflo)

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