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株式市場が牽引するカーボンニュートラル経済の特性

 人類は、水、森林、空気、食料など、様々な資源を消費しながら生活をしているが、その量は地球が再生できるスピードを上回ると、自然環境は枯渇、朽ちていくことになる。それをわかりやすい数値で示したものが、国際的な環境シンクタンクのグローバル・フットプリント・ネットワーク(GFN)が公開している「アース・オーバーシュート・デー(Earth Overshoot Days:EOD)」という指標である。

この指標は、地球が1年間で再生できる資源を、人類が毎年の何月何日までに使い切ってしまうかを数値化したもので、1970年の時点では12月30日となっていた。 つまり当時の人間は、地球から(資源の)借金は年間1日のみで済む生活をしていた。

しかし、便利な生活が普及する中で、1980年には11月4日、1990年には10月10日というように自然資源を使い切るまでの月日は年々短くなり、2021年のオーバーシュート・デー(EOD)は7月29日と算定されている。これは、地球が1年間に再生可能な資源を、およそ6割の月日で使い切っていることを意味する。

2020年は、パンデミックによるロックダウンが世界各都市で行われたことで、EODは約1ヶ月間戻ったが、これは一時的な改善効果に過ぎず、2021年には再び後退している。

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Past Earth Overshoot Days(2021-2021)

地球の消耗を減らすには、世界が一丸となって環境問題に取り組んでいく必要があることは周知の通り。環境問題の改善は、企業にとって直接的な利益を生まないテーマであり、行動への腰が重かったのは事実だが、環境対策への姿勢が、株価にも影響を与えるようになってきたことで本腰を入れ始めている。

【株価を左右するESG投資の特性】

上場企業の中では、環境(E)、貧困や差別などの社会問題(S)、健全な経営を目指すガバナンス(G)についての取り組みを報告するESGレポートを開示する動きが加速している。その背後には、大株主の機関投資家の中でも、最も資金力が大きな年金基金団体の存在がある。

年金基金は、国民や従業員の老後資金を預かり、株式市場などで運用しているため、会社の利益面だけを見るのではなく、E、S、Gへの取り組みを重視する投資姿勢が求められるようになっている。投資判断にE、S、Gの項目を組み込むことは「責任投資原則」(PRI、Principles for Responsible Investment)として国連が2006年から提唱しており、世界で2400近い年金基金や投資会社がPRIポリシーに署名をしている。

世界の年金運用資金の総額は20兆ドル以上(約2200兆円)と言われているが、世界最大の年金基金団体は、日本の国民年金と厚生年金の積立金を管理する「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」で、約170兆円の資金を運用している。

GPIFは資金のおよそ5割を株式で運用し、日本株式を約2200銘柄、外国株式を約2500銘柄を保有している。さらに、GPIFと同様のESG投資スタンスは、国内にある他の年金基金団体も踏襲しはじめていることから、日本の上場企業がE、S、Gの責務を果たすことは、株価を維持していくためにも重要な課題になっているのだ。

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GPIFのESG投資についての取り組み

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世界トップ20の年金基金の資産総額(ウイリス・タワーズワトソン)

ブルームバーグの分析によると、2025年に想定される世界の資産運用残高140.5兆ドルのうち、ESG投資による運用は3分の1以上を占める53兆ドルになると予測している。ESGをテーマにした資金の運用先は、関連企業の株式、ESG指数連動型の投資信託、グリーンボンド(環境債)やソーシャルボンド(社会貢献債)のようなESG債券などがある。

年金基金を中心とした機関投資家がESG投資を積極的に行えば、関連銘柄の株価は上昇していくため、個人投資家も追随して、ESG市場全体への資金流入量が増えていく。ESG投資の動向を地域別にみると、2020年の時点では欧州が12兆ドル、米国が17兆ドルに対して、日本は2.8兆ドルと少なく、世界のESG投資市場に対して8%のシェアしかない。しかし、日本の経済力と投資マネーの規模からすると、少なくとも30%超までには、環境保全や社会貢献型の投資が増えていく可能性がある。

年金基金を主体とした機関投資家の今後の投資スタンスを理解することは、個人投資家にとっても、今後の株価上昇を期待できる優良企業を探し出すためのヒントになるだろう。

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