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相続実家を維持する空き家管理サービスの成長市場

現在の日本では年間で136万人以上が亡くなり、その資産を親族が引き継ぐ相続は年間で50兆円の規模がある。資産の内訳は、相続税の申告が必要な人の場合で、預金や有価証券などの金融資産が41%、不動産が46%、その他の資産が11%となっている。

金融資産の割合が高いほど、相続をする子供にとって都合は良いが、一般世帯になるほど、「実家」の不動産が資産の主体になってくる。しかし、築30年以上が経過した家は、中古住宅として売却することが難しいし、建物を壊すのにも数百万円の費用がかかる。しかも、更地にしても立地や土地の形が良くなければ買い手が付きにくい。

固定資産税も、更地のままだと、建物があった時よりも高くなるため、空き家のまま残されるケースが大半だ。その活用策としては、賃貸物件として収益化できるのが理想ではあるが、他人に貸すには高額リフォームをする必要があるため、所有者が帰省時や週末のみに使う二次的住宅(セカンドハウス)としているケースが4割を占めている。

現代のライフスタイルとして、都会にメインの住居があり、故郷にある実家をセカンドハウスとして活用するプランは、現実的なものとなっているのだ。

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しかし、通常は東京近郊で生活する人にとって、遠方の実家を定期的にメンテナンスすることは難しいため、空き家の管理を代行してくれるサービスへの需要が高まっている。人が住んでいない家を放置しておけば、窓ガラスが割れていても気付かなかったり、雑草が荒れ放題になり、隣家に迷惑をかけてしまう。それを目視でチェックしたり、定期的に清掃するサービスは、個人のスモールビジネスとしても手掛けやすい。

もともと「空き家管理サービス」は、海外赴任などで家を長期不在にする人を対象に成り立っていたが、相続による空き家の増加により、地方都市での需要が拡大している。 

【空き家管理サービスの仕組みと採算】

 全国各地では、地元の不動産業者などが空き家管理サービスを手掛け始めている。サービスの内容は、1回あたり30~60分の巡回をして、郵便受けの確認、建物外部の目視点検、室内の換気、水回りの通水、簡易的な清掃、庭木や雑草のチェックなどを行うものである。点検後には、写真や動画でレポートを遠方の物件所有者に送信することで、サービスの付加価値を高めている。料金は点検項目によっても異なるが、月1回の巡回で10,000円前後が相場だ。

たとえば、大東建託が行う空き家管理サービスは、戸建住宅の外部のみを点検するコースが5,000円、内部と外部を点検するコースが10,000円となっている。ただし、大がかりな清掃や除草作業などは別料金になる。

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大東建託の空き家管理サービス

また、ダスキンでも、2017年4月から「空家点検サービス」を新事業として立ち上げている。こちらは他社よりも屋内清掃を充実させる形で、月1回の巡回プランで13,000円(税別)の料金を設定している。

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ダスキンの空家点検サービス

空き家管理サービスは、新規の依頼があると継続的な取引となり、契約数が増えれば安定収入が見込めるため、不動産会社、警備会社、ガス会社、住宅メーカーなどが次々と参入しはじめている。背景にあるのが、2015年に「空き家対策特別措置法」が施行されたことである。この法律により、適切な管理が行われずに、防災上の問題が生じていたり、近隣の環境や景観を損ねている空き家の所有者に対して、国が改善の指導や勧告、命令を行えるようになった。また、地方独自で空き家管理の条例を制定する自治体も増えている。

親が亡くなり、住人が居なくなった実家は、維持費用だけを考えれば、早々に売却処分してしまうのが賢いのかもしれないが、昔の思い出を大切にしたい、故郷を完全に捨ててしまいたくない、という思い入れのある人は、一定以上の割合で存在している。そうした心情も背景にして、空き家の維持管理サービスには今後の成長が見込まれている。

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