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打倒マクドナルド?非接触のハンバーガーブランド「ブルースターバーガー」の挑戦

外食全体は厳しいが、強さを誇る食事業態

東京都の「時短営業要請」により、外食業界は再び厳しい状況に追い込まれてしまいました。

ただでさえコロナの影響が甚大で、外食企業の多くは瀕死の状態が続いていますから、果たして更なる荒波を乗り越えることができるかどうか、この業界に身を置くものとしては心配がつきません。

ただし、皆さんもご想像のとおり、居酒屋などの「アルコール業態」ではなく「食事業態」は、コロナ禍においても、かなり堅調な売上を維持しています。ゼンショーホールディングス(「すき家」など)、日本KFCホールディングス(「ケンタッキーフライドチキン」など)、王将フードサービス(「餃子の王将」など)といった企業は、この7〜9月期で黒字を残しているのです。

中でも特筆すべきは、日本マクドナルドホールディングスの強さです。マクドナルドの店頭ではお客の行列をよく見かけますし、その中にウーバーイーツの配達員が多数いることも、東京ではすでにお馴染みの光景になってきました。日本マクドナルドは、2020年10月の月商が対前年比で11.2%のプラスですから、その好調ぶりは驚異的です。おそらくこうした状態はまだしばらく続くことでしょう。

ハンバーガー界の新生「ブルースターバーガー」

さて、マクドナルドが牽引するファストフードのハンバーガー業界で、新しいブランドが立ち上がりました。それは、ダイニングイノベーショングループが東京・中目黒にオープンさせた「BLUE STAR BURGER(ブルースターバーガー)」です。

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ちなみに、ダイニングイノベーショングループを率いるのは、焼肉チェーン「牛角」の創業者である西山知義氏です。牛角をこれだけのチェーンに育て上げて売却し(現在、牛角はコロワイドグループ)、最近では「一人焼肉」というコンセプトで人気の「焼肉ライク」を展開するなど業界の風雲児である西山氏。その西山氏が満を持してスタートさせたのが、「ブルースターバーガー」なのです。

特徴的なのは、独自のモバイルオーダーシステムを導入しており、注文から決済、そして受け取りまでの全てを「非接触」で行うことです。また、完全キャッシュレスであることもイマドキです。こうしたテクノロジーを生かしてコストを抑えることで、「グルメバーガーをカジュアルな価格で楽しむ」という世界を実現しようとしています。

お客はまずスマホやタブレットにダウンロードしたブルースターバーガーのアプリから注文を行います(店内の端末からも注文可能)。

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受け取り可能時刻が記されるので、その時間を目処に店舗を訪れます。出来上がった商品は店内ロッカーの指定された箇所に置かれるので、それをピックアップすれば完了です。なお、「テイクアウト専用」の店舗なので、原則として店内で食べることはできません。

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マクドナルドへの挑戦状

ブルースターバーガーがマクドナルドを強く意識していることは明らかです。何と言ってもその名前が象徴的です。マクナルドのシンボルカラーは言わずとしれた「赤」ですが、ブルースターの「青」はそれに対抗しているわけです(「コカ・コーラ」と「ペプシ」そして「共和党」と「民主党」。赤と青の対決というのは、非常にわかりやすい構図ですね)。

そしてその価格も「対マクドナルド」と言えます。ブルースターバーガーでは、ハンバーガーが170円、チーズバーガーが190円、フラッグシップである「ブルースターチーズバーガー」が290円と、非常に手頃な値段に抑えられています。

なお、マクドナルドはハンバーガーが110円、チーズバーガーが140円、人気商品のダブルチーズバーガーは340円。そしてモスバーガーはと言うと、ハンバーガーが204円、チーズバーガーが232円、店名を冠したモスバーガーは343円です。

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マクドナルドの価格を強く意識し、そこに合わせにいっていることが見て取れます。ちなみに、ブルースターバーガーは公式サイトにおいて「原価率68%」という数字を掲げて、「高品質・低価格」であることをアピールしています。一般的には飲食店における原価率は30%が目安とされますから、この68%という数字がいかに「異常」であるかはおわかりいただけると思います。

さらに西山氏は、国内における店舗数の目標を「2000」と掲げていますが、2020年10月末時点での店舗数はマクドナルドが2914、モスバーガーが1266です。この数字を見ても、西山氏の目標は「打倒マクドナルド」であると言えるでしょう。

飲食店における人の価値は何か?

私も実際にブルースターバーガーを食べてみましたが、ここでは「グルメ」を語るつもりはありませんので、それは他の記事に譲ることにします。私が非常に興味を持ったのは、ブルースターバーガーの展開にあたって、ダイニングイノベーショングループ、そして西山氏が「飲食店における人の価値」をどう考えているのかという点です。

ブルースターバーガーにおいては、注文や決済はオンラインで完結し、受け取りもロッカーを介して行われますので、原則としてお客とスタッフにコミュニケーションはありません。店内には数名のスタッフがいますが、彼ら彼女らが行っているのは調理や包装などに限られます。

同店ではすでに様々な高性能の調理システムが導入されているはずですが、今後更にそうした流れは加速していくでしょう。アメリカではすでに全自動でハンバーガーを調理するロボットも登場しています。すると、生産性向上を目的とすれば、ハンバーガーの調理に人を割くことは合理的とは言えません。ブルースターバーガーも、最終的には「限りなく無人店舗」になる未来を予感させます。西山氏が参考にしたとされる中国の最先端ファストフードではまさにそのような傾向が強まっているのです。

一方で、例えばスターバックス。スターバックスが接客スタッフの採用から教育に非常に力を入れていることはご存知の方も多いでしょうし、実際に店舗を訪れると、そのホスピタリティを感じる方も多いのではないでしょうか。

あるいは、サラダ専門店として店舗数を増やしている「クリスプサラダワークス」というブランドがあります。クリスプもセルフオーダーやキャッシュレスなど、最先端のテクノロジーを活用していますが、同時に「接客」にかなり力点をおいています。

クリスプ代表の宮野浩史氏が書いたこちらの記事は非常に興味深いので、やや長いですが、一部を引用します。

私が最後まで飲食店の競争優位性として価値が残ると考えているのが「人」です。例えば夜遅くにスーツ姿のお客さまが来店した時に「まだ仕事だったんですか?大変ですねぇ、、遅くまでお疲れ様です!」といった他愛も無い会話を店員さんがしてくれるだけで、その店のビールが400円でも600円でも気にならなくなってしまうかもしれません。(中略)
そして、飲食業界にはそんなちょっとした人の笑顔をつくるのが好きで上手な人、魅力的な人がたくさん集まっているのに、私たちはその人たちの価値を正しく評価できていません。表面的な生産性や効率といった、本来は機械の方が圧倒的に得意なことを人間がわざわざやっているのはあまりにも勿体ない。
だったら機械がやれる仕事は全てテクノロジーを使って機械に任せて、人は人にしかできない価値を提供すること、つまり料理でも内装でもなく、人が生み出す顧客体験こそが飲食店の価値の源泉になる、と考えています。
さほど遠くない未来に、コンビニで私たちと同じクオリティ(もしくは消費者がわからないくらいの差異)のサラダが3分の2くらいの価格で販売される日は必ず来るはずで、その時には価格でも利便性でも味でもコンビニにはどうやっても勝てないわけですから、その時までに私たちにしかない競争優位性を確立しなければなりません。

「飲食店における人の価値」とは何なのか。この問いには正解があるわけではありません。限りなく属人性を廃して、むしろ飲食物の価値を最大化するというのもありでしょう。あるいは、人の持つホスピタリティを極限まで高めようとする考えにも一理あります。

今回ご紹介したブルースターバーガーは、私には前者を希求しているように見えます。そうした戦略を持ったブランドが市場においてどこまでメインストリームとなるのか。そして目論見通りに急成長して、マクドナルドの対抗馬になるのか。今後の進展に注目していきたいと思います。


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食べ物・飲み物まわりのプロデューサー。(株)カゲン代表取締役。飲食店や商業施設のプロデュース、食品飲料の企画開発、飲食ビジネスのスクール主宰、執筆・講演など、「食」のフィールドであれやこれや。著書に『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』(ともに新潮新書)。

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コメント (1)
2018年11月から、吉野家にはバーチャル会食のサービスがあるようです。
コロナ対策としても活用できそうですね。

「【吉野家】東京↔大阪間でバーチャル会食ができる唯一の店に行ってきた!」『オモコロブロス!』2019年1月31日
https://omocoro.jp/bros/kiji/184997/
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