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上司の言葉「生きるために働け」…その真の意味とは?

ずっと忘れられない上司の言葉があります。
あれは私が入社2年目の時、新卒で働くことになったIT企業の上司から言われた一言です。
「生きるために働くんだ…働くために生きてちゃいけない。でも目的と手段が入れ替わってる人が多い」
つぶやくように、それでも力強く伝えてくれたこの言葉が10年経った今でも忘れられずに心に残っています。

当時、私たちのプロジェクトはトラブルや山場を迎えていて忙しい毎日にいました。若手は残業も多く、寝るだけに家に帰り、余裕もないまま出社する…そんな時間を過ごしていました。
社員の中には見るからに元気をなくし、心配になる姿も。
そんな中、30年以上働いてきた上司が見かねてかけたのがこの言葉でした。

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仕事で忙しい時間を過ごしていると、つい「仕事でミスなく」「仕事をちゃんとやれるように」「仕事…仕事…」と、まるで自分の人生の目的でもあるかのように頭の中が仕事でいっぱいになってしまいます。
余暇を楽しむ余裕もなく、休日は疲れ切った体を休めるだけに時間を使い、それでもボロボロの中で奮い立たせて会社に向かう。
そんな時間の過ごし方は本当に充実した人生といえるのでしょうか?

私たちは何のために働くのかというとそれはもちろん「生きるため」です。
現代では食に飢える心配がほとんどなくなってきましたが、元々は食べるために狩りに働きに行き、畑を仕事としていたのです。私たちは本来、食べるために仕事をしているのに、モノからお金と変わり、仕事への価値観も広がって、だんだん「働くために生きている人」が増えていると思っています。


実は私も新人の時は「他の同期よりもいい経験を積みたい」とか「上司からいい評価をもらいたい」という欲があって、仕事を中心とした日々を過ごしていたことがありました。
9時半から10時まで働いて、2時間かけて深夜に帰宅…そのまま7時には家をでる生活。でもこの上司の言葉を受けて「まずは生きるための仕事だ」と割り切って、自分を追い詰めすぎないように、そして自分の人生も仕事と同じぐらい大事にしようと見つめ直すことができました。

その後、私は突然起業を決意し、自分の下着ブランドを立ち上げることになりました。一見、上司の教えと違うのでは?と思う行動ですが、私はむしろ「自分の人生は何が楽しいだろう」と考えた時に、好きな仕事を生き生きとして過ごすことだと気づいたのです。
仕事に追われるのではなく、自分がなりたい自分でいるために仕事を追いかける…そんな生き方が自分に合っているように思いました。

会社を辞めてまずしたことが「派遣社員」になることです。
自分のスキルを活かせるのであれば、どんな仕事でも挑戦しようと思いました。「生きるための仕事」を見つけるためなので、少しでも働きやすい条件で生活費を稼ぐことにしました。残りの時間は自分の人生の幅を広げるための仕事と分けて考えるようにしました。

by Photo AC

ゼロから下着ブランドを立ち上げるのはたくさんの苦労がありましたが、自分の好きなことだったので多くの困難も乗り越えることができました。
そうやって、派遣社員やフリーランスなどで月に約20万円の生活費を稼ぎながら好きな仕事に熱中することで気づけば下着ブランドだけで食べていけるようになっていました。
「生きるための仕事」でありながらさらに自分の好きなことで、毎日わくわくして過ごせる人生を手に入れることができたのです。

「働くために生きている」という人が多い背景には労働時間に縛られ、プライベートとの時間にメリハリが持てないという意見も多くあります。
AIやデジタルの進化がスピードあげる今こそ、労働時間だけに囚われない価値基準や評価制度が求められるようにも思います。

上司から初めてこの言葉を聞いた時は、単に「仕事より自分の時間を大切にしろ」という意味だと思っていますが、年齢を重ねるにつれて本当の意味が分かるようになってきました。
「生きるために働け」。
この目的をしっかりと意識することで仕事で最低限達成するためのゴールが明確になり、それ以外のことは自分の中で優先順位をつけながら自分のペースで追及することができるのです。
出社が不安になるほどストレスがある仕事なら転職を考えてもいいし、都会に疲れたなら畑で食べ物を育てることもできる…忙しいと選択肢が狭まってしまいますが、まずは生きることが目的です。

私は現在、会社員として下着ブランドの運営をしています。
仕事への熱量は高く、ブランドとして成し遂げたいことや、自分のスキルを磨きたいことが沢山あり、周りからみれば「仕事人間」と思われるような生き方をしています。仕事以外の時間もアイディアを考えることがありますし、旅行中にいい情報があれば急いでスマホにデータを残し、仲間に共有することもあります。
ただ私にとっては、仕事の奴隷では決してなく、より豊かな人生を考えた時に挑戦したいことを仕事として働いている感覚です。
10年前の上司の言葉は、忙しさや様々な価値観に溺れそうになる私たちに、少し肩の力を抜かせてくれるような気がします。

小島 未紅
1991年東京都出身。株式会社iiy執行役員。新卒で大手IT企業に入社。エンジニアとして働き3年目に下着ブランドの立ち上げを決意し、2016年に起業。運営ブランドBELLE MACARONは女性視点の心地よさとデザイン性をもつ「24hブラ」がSNSで共感を集め、最高日商2000万円を記録。ブランド体制などをきっかけに2024年にブランドクローズを迎え、現在は下着ブランド「CHARM MAKE BODY」のブランドディレクターに就任。


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