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脱サラしてプロ漁師になるという生き方

やり甲斐のある働き方への関心が高まる中、脱サラをして漁師になる若者が水面下で増えている。発端にあるのは、従来は世襲制だった漁業権の扱いが、漁業の高齢化により緩和されてきていることだ。

日本の漁業を排他的なものにしてきた仕組みとして「漁業権」がある。プロの漁師として自立するには、漁場毎に設定されている漁業権を取得しなくてはいけない。これは、限りある水産資源の乱獲を防ぐ目的で、都道府県が発行する漁業免許のようなものと考えてよい。

漁業権は申請すれば誰でも取得できるものではなく、地元の紹介者を介して漁業組合に所属して、年間で決められた回数を超すだけの漁に出るなどの実績を積まなくてはいけない。そのため、よそ者が漁業権を取得することは難しく、漁師の仕事は実質的に「親から子」への世襲制となっていた。

しかし近年では、漁師の高齢化が進行して、農水省の統計よると、50歳以上の漁師が6割を占めるようになっている。各漁協では、後継者不足の深刻な悩みに直面していることから、世襲にこだわらずに、外部からも「脱サラをして漁師になりたい人材」を受け入れる動きが出てきているのだ。

国も、新人漁師の育成には力を入れており、新規の漁師志望者を募集したり、漁師の技術を習得させる活動に対して補助金を出している。

全国漁業就業者確保育成センターの「漁師.JP」は、未経験の漁師希望者を受け入れている、全国の漁協や漁業会社の求人案件を掲載しているサイトで、漁師の仕事内容を紹介するイベント「漁業就業支援フェア」も各地で開催している。

希望の求人案件が見つかれば、漁業研修制度(国の補助金事業)に参加して、漁師の仕事が自分に向いているのかを、実地研修の中で確かめることができる。そこで自信が持てれば、“見習い漁師”として有給で正式に雇用される流れになる。

何年かは“師匠”とする漁師の元で技術を学びながら、漁協内の人間関係も深めていくことで、引退する高齢漁師から漁業権を譲り受け、プロの漁師として自立すことができる。早ければ2~3年程度で自立することも可能だが、漁協のある地域へ、正式に住居を移す(移住する)ことが条件になる。

《プロ漁師になるまでの流れ》

 ○漁協の求人案件に応募
 ↓
 ○見習い漁師として雇用される(有給)
 ↓
 ○漁の技術を習得した後に、師匠・先輩漁師からの推薦を受ける
 ↓
 ○漁協組合員として正式加入
 ↓
 ○引退漁師から漁業権の譲渡
 ↓
 ○独立漁師として自立

漁師は自然と素直に向き合う仕事であり、人間関係のストレスは少ないため、脱サラして漁師になった人達の満足度は、サラリーマン時代よりも高いのが特徴。あとは、好きな仕事で収入を伸ばしていくことが課題だが、そこと、水産業界の流通構造を変革する商機とがリンクしている。

野菜などの青果と比べても、魚の流通経路は複雑になっているため、漁師が出荷する値段と、水産市場を経由して、切り身などに加工されて消費者に販売される小売価格とでは、4倍~5倍の差が生じている。つまり、漁師が1キロあたり 250円で出荷した魚は、消費者の食卓に届くまでには1,000円以上になる。

2018年には、70年ぶりに漁業法が改正されて、法人としての漁業参入がしやすくなった。そこで鮮魚の水揚げから、全国の料理店や一般家庭までの産直販売を行うような形で、流通改革を起こす企業が出てくることも期待されている。

「儲かる漁業」の仕組みが確立することで、漁師も高収入を稼げるようになり、若者の中からも漁師を目指す者が増える。そうした相乗効果を生み出すことで、刺身や寿司など、日本独自の食文化も守られていくことになる。農業に比べると、漁業に着目する起業家は少ないが、日本の水産分野には変革を起こせる領域が豊富に潜んでいる。

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