見出し画像

料理芸術の鑑賞対象(ソフト-料理人の所作 2/2)

前稿では、料理人の所作の美しさについて検討してきた。しかし、所作のような無形物は、絵画、彫刻のような有形物とは違う。そこで、そもそも所作が芸術の鑑賞対象になるのかということが問題となる。本稿では、この問いに対する答えを検討していきたい。

所作の芸術性

歌舞伎、能、ミュージカルを考えてみてほしい。これらはいずれも舞台上で行われる所作である。これらは舞台芸術として、その芸術性を認められている。ここでいう芸術性とは、表現者と観客が同じ時間と空間を共有しつつ、その場で作品の実体が生み出されていく形態の芸術を指す。その際に、表現者が作品実体を提示していく場所が「舞台」である。したがって、舞台芸術とは、必ずしも劇場で行うことが成立の条件とされているわけではない。

このように考えていくと、料理人の所作は芸術であるといえる。

1.表現者である料理人と客が同じ時間と空間を共有している

2.その場で作品の実態が生み出されていく

といずれの要件も満たしているからだ。

ミニマリズムの美

寿司を握る際の料理人の所作の美しさは、余計な動作をそぎ落とすミニマリズムの美にある。ミニマリズムの美で代表的なのが、日本庭園の枯山水だ。

例えば枯山水では、岩と砂だけを用い、砂に広がる模様で波紋や水の流れを表現する。その根底にあるのが、水を使わずに表現してこそ、水の本質をより鮮明に伝えられるという考え方である。

水墨画もまた、ミニマリズムの美を追求した芸術の一つである。

プロセスをそぎ落とし、本当に必要なもの、所作を残すことで、物事の本質が見えてくるわけだ。

シックス・シグマとの共通性

シックス・シグマとは、1980年代に米国モトローラ社が開発した品質管理法である。統計分析手法、品質管理手法を体系的に用いて製品製造工程などの各種プロセスの分析を行い、原因の特定やそれへの対策を行って、不良率の引き下げや顧客満足度の向上などをしていく。

ここで行うことは、ばらつきが発生しているプロセスに着眼し、そのプロセスの平均値向上を試みるよりも、ばらつきを抑えることだ。平均値が向上しても、品質のばらつきが大きく品質不具合が発生してしまっては、品質不良が原因で発生する損失COPQ(Cost Of Poor Quality)を減らすことができない。品質のばらつきを小さく抑えることによって後工程における不具合を減らし、COPQを低く抑えるのである。

この行動のばらつきを抑えることで、無駄のない所作が生まれるのである。このように、無駄のない動きは、職人芸として十分に芸術性を帯びるものになる。寿司の料理人の所作、水墨画、モトローラの品質管理、これらはいずれもミニマリズムという哲学の下、芸術鑑賞の対象物に十分成り得るといえる。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

7

牧田 幸裕 名古屋商科大学ビジネススクール 教授

名古屋商科大学ビジネススクール 教授。専門は、経営戦略、マーケティング、デジタルマーケティング、ラーメン。日経COMEMOキーオピニオンリーダー

COMEMO by NIKKEI

日経が推す各業界キーオピニオンリーダーたちの知見をシェアします。「書けば、つながる」をスローガンに、より多くのビジネスパーソンが発信し、つながり、ビジネスシーンを活性化する世界を創っていきたいと思います。 はじめての方へ→ https://bit.ly/2DZV0XM 【...
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。