ネット小売業の躍進と共に増える返品商品の解決ビジネス
コロナ禍における店舗への来店客は、小売業界全体で落ち込んでいる。消費者 が、できるだけ買い物に出かける回数を減らそうとする傾向は顕著に表れており、全国スーパーマーケット協会の統計によると、全国のスーパー(約280社)の平均来店客数は、2019年までは平均1,900人だったのが、2000年は1,700人にまで落ち込んだ。
アパレルや雑貨品の店舗は更に落ち込みが大きく、ユニクロや無印良品などの大手小売業者は、オンラインで注文した商品を店舗で受け取れるような、実店舗とeコマースを融合させたビジネスモデルへと転換してきている。
総務省の「家計消費状況調査」によると、2020年の時点でネットショッピングの世帯利用率は48.8%、世帯あたりの月額利用額は33,353円。これまで、ネットで買うことを躊躇していた食品や衣料品のカテゴリーで購入額が伸びていることと、高齢世帯でもネットショッピング利用者が増えているのが特徴である。
ネットショッピングが「普通の買い物」になることに伴い、eコマース業界にとっては、返品対応が新たな問題として浮上している。全米小売業協会(NRF)の調査によると、米国の消費者が一度購入した商品を返品した総額(2020年)は、4,280億ドル(約47兆円)となっており、米国の小売業全体における売上高の約10.6%に相当する。返品総数のうち、5.9%は不正や詐欺によるもので253億ドル(2.7兆円)の被害額となっている。
一方で、消費者は柔軟な返品対応をしてくれるショップへの満足度を高めている傾向は顕著に表れている。返品ソリューションを開発する「DODDLE」が2020年に行った調査では、消費者の84%が、これからのショップ選びでは「返品対応を重視する」と回答しており、できるだけ簡単な方法で返品ができる仕組みを求めている。逆に、返品手続きで不快な経験をしたショップは二度と利用しないという消費者は8割を超している。
《消費者が求める返品条件の優劣》
○返品にかかる送料(無料であることを希望)
○返品適用となる期間設定(長いほど良い)
○代金の払い戻しにかかる期間(短いほど良い)
○カスタマーセンターの返品承認が、必要であるか否か
○返品方法が面倒、複雑でないこと
○返品手続きの可視化(荷物の追跡、受領、返金情報)
■Doddle’s US consumer insight survey 2020
そのため、オンライン小売業者の返品対応を代行したり、返金作業を効率化するリバースロジスティクス関連の事業は、年率5~10%で成長する有望市場と捉えられている。具体的な返品解決の手法は、商品のカテゴリーによっても異なることから、様々な切り口から参入していくことが可能だ。
【返品プロバイダーの役割と手法】
販売された商品の返品対応を効率化していく作業は「プロダクト・リターンマネジメント」と呼ばれている。米国で中規模以上のオンライン小売業者は、返品対応に社員のリソースを費やすのは非効率と考えて、返品作業の一部または全体を返品管理の専門業者(返品プロバイダー)に委託する業界構造が形成されるようになっている。
返品プロバイダーの仕事には、(1)顧客が円滑に返品手続きを行えるようにするシステムの提供とリバース物流ルートの構築、(2)返品された商品の再商品化や清算、(3)返品率を下げて採算性を向上させるマネジメント、という3つの役割がある。その中でも、世界の小売業者をターゲットとしたクラウドビジネスとしても成長しているのが(1)の分野である。
2015年に米ロサンゼルスで創業した「Happy Returns」は、老舗百貨店ノードストロームの返品プログラムを開発したチームが立ち上げたスタットアップ企業で、そのノウハウと手法を、大手のブランド企業や、shopifyなどのショッピングモールに出店する中小業者向けにも提供している。
Happy Returns社の返品ソリューションは、顧客がワンクリックで返品手続きを行えるアプリの開発と、対面で返品対応ができる提携窓口(リターンバー)を全米2500ヶ所以上に整備することによって構築されている。
従来の返品方法は、商品購入先のサイトで返品申請をした後、プリンターで出力した配送票をダンボールに貼り付けて、郵便局や宅配便の窓口に持ち込む方法が主流だったが、近頃はプリンターを持っていない家庭が増えていることから、紙の配送票を使わない返品方法が求められるようになっている。
Happy Returnsのソリューションは、それに対応したもので、スマホアプリから返品申請をした後、最寄りのリターンバーに商品を持ち込んで、アプリ画面上のQRコードを提示することで返品手続きが完了する。商品を梱包する必要もなく、確かにショップの倉庫まで返品されたのかも、アプリ上から追跡することができる。リターンバーとなっている返品窓口には、地域のショッピングセンターや中小店舗、FedExの営業所などがある。
米国では、オンラインで購入した商品を返品できるルートとして、最寄りの店舗を利用したい消費者層が一定数ある。これは面倒な梱包作業を省いて、商品をそのまま持ち込める「バルク返品」を望むためとみられている。また、オンライ小売業者にとっても返品対応は対面で行ったほうが不正な返品客を排除できるメリットがある。このように、商品はオンラインで購入して、返品は店舗窓口で行う形態は「Buy Online, Return In Store (BORIS)」と呼ばれている。
そのため、米国に複数ある返品プロバイダーの中でも、返品窓口のネットワークを広げている業者の価値が高まっており、PayPalは2021年5月に、Happy Returns社を買収している。オンラインショッピングは、消費者が商品を手に取って買い物ができないのが欠点だが、寛大な返品ポリシーを設定することで、注文件数が増えることは統計からも明らかになっている。
緩すぎる返品ポリシーは「売上高-返品損失」による利益を下げてしまうが、返品ポリシーを厳しくしすぎると、他店に顧客が逃げてしまい、売上が伸びていかない。商品の単価と粗利益率によっても、適正な返品率のレンジが存在している。
■JNEWS関連情報
○購入前試着型eコマースの普及と消費者の返品特性
○返品商品が清算されるアパレル業界の再流通ビジネス
○使い捨て消費を変革する消耗品容器の循環ビジネス
○コロナ禍で成長するアパレル古着の回収再販ビジネス
JNEWSはネット草創期の1996年から、海外・国内のビジネス事例を専門に取材、会員向けレポート(JNEWS LETTER)として配信しています。JNEWS会員読者には、新規事業立ち上げなどの相談サポートも行い、起業の支援を行っています。詳細は公式サイトをご覧ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?