見出し画像

賃金・物価スパイラル懸念漂うユーロ圏

来週以降、FOMC(13~14日)、ECB(15日)、日銀(15~16日)と日米欧中銀の政策会合が集中します。現状、金融市場ではFOCMと日銀で現状維持が見込まれる一方、ECBは+25bpの利上げが予想される状況です。前回同様の意思決定が続くという読みです:

唯一、政策変更を行うことになりそうなECBが司るユーロは金利先高観から買い優勢となりやすいというのが当面のイメージでしょうか。なお、ユーロ圏については前回会合直後、四半期に一度の予測専門家調査(SPF:Survey of Professional Forecasters)が公表されているので政策理事会プレビューをかねてチェックしておきたいと思います。

SPFではGDP成長率や失業率、そしてインフレ率などの展望に関して定性的な調査結果が示される。特にインフレ率はECBの注目する調査ベースのインフレ期待として注目されることが多いものです。これを見ると、今年(2023年)のインフレ予想(中央値)は前回調査の+5.9%から+5.6%へ低下し、今後1年先についても+3.6%から+2.8%へ低下しています:

これら下方修正の主因はエネルギー価格の落ち着きにあって、ユーロ圏ではロシアのウクライナ侵攻以前の水準まで下がった天然ガス価格の影響が色濃く出ています

より具体的に回答者のコメントを見ると、最近までは企業の価格設定行動(≒利益率(profit margins)の引き上げ)による影響が大きいとの声が目立っていましたが、先行きに関しては「当面は賃金がより大きな影響を持ちそう(wages would exert greater influence looking ahead)」とのコメントが紹介されています。従前はエネルギーや食料を扱う企業を中心に値上げが行われてきたものの、賃上げや成長率の停滞、そして資金調達コストの高まりによって値上げの動きも難しくなってくるとの見通しが示されています。

その代わりに、これまでは穏やかな影響しか持たなかった賃金がよりダイナミックな上昇を見せる兆し(signs of more dynamic increases)があると指摘されています。もっとも、現時点で多くの回答者はインフレ期待の減速が緩やかなものにとどまると考えつつ、賃金・物価スパイラル(a wage-price spiral)までは見込んでいないというのも調査結果として指摘されます。

総合すれば、不安視される賃金・物価スパイラルは「現時点で断言はできないものの、定量・定性の両面に照らして、その淵に立たされている懸念あり」というのが実態に近そうです。回答者のコメントではエネルギー価格にはアップサイド・ダウンサイド両面のリスクがあるものの、賃金についてはアップサイドのリスクがあるとして、やはり賃金が上離れする危険性が意識されているようでした。
 
未だ利上げ路線の棚上げは宣言できず
片や、SPFで確認される2年や5年といった長期に関するインフレ期待に目をやると、それぞれ+2.2%、+2.1%と前回から横ばいで安定しています。もっとも、前頁図に示すように、SPFにおける長期のインフレ期待に関しては目先の実績が跳ねている時でも相応に落ち着きはありました。調査ベースの長期インフレ期待は「今は高いがいずれ戻る」という思惑がこれまでの常態であり、それが今も続いているというのが実情でしょう。

しかし一方、ECBが伝統的に注視する市場ベースのインフレ期待(5年先5年物インフレスワップフォワード、5年5年BEI)は高止まりが続いています:

長期のインフレ期待に懸念が全くないわけではない、と言えるでしょう

以上のような状況からユーロ圏のインフレ期待を総括すれば、目先(短期)に関してはピークアウトが認められるものの、まだ水準として高く、長期に至っては市場ベースの高止まりが続いているという実態が見受けられます。

調査・市場ベースから得られるインフレ期待は「アップサイドに傾斜気味」というのがECBの胸中に近いと考えたいところです。その上で最新のインフレ実績(5月分)は総合ベースで前年比+6.1%、コアベースで同+5.3%と目標の+2%から見れば相当に距離があります。6月14日の政策理事会で夏以降の利上げ路線について棚上げを宣言できるほどの状況は整っていないと考えるのが妥当かもしれません。+25bpの利上げと共に従前路線の継続が確認されると予想したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?