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中小企業の採用の未来④【幹部候補生は育成計画と連携させ個別採用する】

終身雇用や年功序列に代表されるように、日本企業における働き方には独自の文化や特徴が数多くある。そもそも、雇用関係や採用慣行、ワークスタイルは、文化や社会慣習、法規制からの影響を強く受けるため、国・地域の数だけ特殊性を持ちやすい。米国なら米国独自の特性があり、英国には英国独自の特性がある。そのような日本独自の特性として、採用や処遇といった人事施策の画一性がある。例えば、大学新卒の採用では「総合職」と一括りにして扱い、現場の責任者として期待する人材も、将来の経営幹部候補として期待する人材も同じ枠で採用し、処遇が行われる。そして、長期にわたる雇用期間での働きぶりや本人の適性を総合的に判断し、社内でのキャリアが枝分かれしていくことが大多数だ。欧米企業のように、同じ新卒採用でも「現場の責任者」か「将来の経営幹部候補」かによって、採用の枠や仕事内容、育成や処遇を明確に分けることは少ない。
新卒採用に関する論者として著名な海老原 嗣生氏は、このような画一的な人事施策の在り方に対して疑問を投げかけている。海老原氏は、フランスにおける経営幹部候補の経済エリートであるカードルと非カードルのライフタイルを比較し、日本も総合職を経営幹部候補とそれ以外との複層型にすべきであると提案している。それでは、経営幹部候補となる学生を中小企業はどのように採用すべきだろうか?
経営幹部候補の採用は、採用ポートフォリオに照らし合わせるとTLパターンとなる。TLパターンでは、採用した人材に対して、個人が短期的な成果を発揮するよりも経験を積んだ後の長期的な(成長後の)成果が期待される。つまり、採用と育成の連携が最も重要視される採用パターンだ。

TLパターンでは「母集団」を形成しない
前回取り上げたTSパターンと同様に、TLパターンも希少性の高いタレント呼べるような人材を採用するときは、ターゲットを絞り込み、個別に口説くことが定石だ。知名度が高く、ブランド力のある企業の場合は、WEB広告や会社説明会などの通常の方法を用いても人材を集めることができるが、中小企業やベンチャー企業の場合は募集方法に工夫を凝らす必要がある。例えば、まだベンチャー企業だった当時のリクルートが東大や京大の優秀な学生を採用するために、採用担当者が大学の構内に張り付き、学生を口説いていたのは有名な話だ。
TLパターンにおける最大の課題は、どのような人材が経営幹部候補として妥当性が高いのか、要件定義を明らかにすることが難しいことにある。そして、要件定義を明らかにしないことには、対象となる学生群の絞り込みが難しい。そのため、経営層や社内のキーパーソン、経営者育成の専門家やコンサルタント会社と協働し、自社の将来を担う人材要件を明らかにし、対象が所属するコミュニティに直接働きかけるダイレクト・リクルーティングが求められる。
このように、タレント人材を採用する際に、ダイレクト・リクルーティングを主な手段として用いるということは世界的な潮流といえる。日本ではそこまで普及していないが、リンクトインのようなビジネス特化型のSNSを活用し、タレント人材を探し出すプロセスがグローバル・スタンダードとなっている。

育成と採用を連携させるためにマイルストーンを設定する
TSパターンとTLパターンの最も大きな違いは、採用と育成の連携である。特に、欧州企業では、グラデュエード・プログラムと呼ばれる、採用と育成を同時に行う取り組みが盛んに行われている。フランスやドイツに代表される欧州企業は、米国企業とは異なり、平均勤続年数も長く、正社員の大多数が新卒採用者で構成されているという大企業も少なくない。そのため、経営幹部候補の採用も新卒は重要な役割を持つ傾向にある。
TLパターンでは、経営幹部候補として成長するまでに十年以上の時間が必要となる。実際問題として、10年後の成長予測を採用時にすることは困難である。そのため、3年・5年・8年・10年と一定期間でマイルストーンを設け、評価や判断をすることが多い。その際、評価のために各マイルストーンでは何を評価するのか、各マイルストーンまでの期間にどのような仕事に従事し、どのような仕事経験や研修を通して成長して欲しいのか、ストーリーを企業側が作り上げる必要がある。つまり、TLパターンでは、採用と育成を連動させ、経営幹部候補生を育て上げるストーリーの構築が必要となる。

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