
○○文化の裏側を読み解く #カルチャートレース シートV1.
マーケティングの役割は、顧客を動かし、売上・利益に貢献することだけなのだろうか…
セゾングループを築き、西武百貨店、パルコ、無印良品など日本のカルチャーを育てたブランドを生み出した堤清二さんについて、このようなに書かれている。
1990年代以降、グローバル資本主義が地球を席巻し、「数字化できる利益こそが至上の価値」という考え方が企業社会を支配して着た。消費文化もその影響を受けた。
だが堤が提示したのは、数字だけで人間の幸福や楽しみ、よろこびを評価する価値観に対する明確なアンチテーゼである。
ここ数年、マーケティングと文化の関係性を読み解く方法を体系化したいと考えてきた。
文化はトレースできるのか?
マーケティングのフレームワークは世の中に溢れているが、文化を読み解くフレームワークは見かけることが少ない。
文化と聞くと、何となく大切そうであるが曖昧である。
市場であれば、市場規模と業界構造を定量的かつフレームワークを使って分析をすることができる。
一方で文化はフワッとする。
一般的に、企業戦略を分析することはできるが、文化を分析することが難しく、印象論で語られることが多い。
といった背景から、どのように文化が形成されていたのかを読み解く #カルチャートレース V1.を作成してみたので公開をしてみたい。


ここから、文化をどのようにトレースする=理解を深めていくのかを解説していく。
1. 文化事象(テーマ)と特徴を記載する

a. 記載内容: 文化として観察したい事象の名前を記載する。
a. 記入例: 若年層の飲み文化、推し活文化、など事象に関わるものであれば何でも
b. 記載内容: その文化事象の主要な特徴やトレンドを簡潔に記載する。
b. 記入例: 「若い世代はお酒を飲まない・ノンアルブーム」
2. 歴史(成り立ちを理解する)

文化は歴史を再編集することから生まれる。
次に、文化が形成された歴史を理解していく。
2-1. 起源
記載内容: 文化が生まれた背景や起源となる出来事を記載する。
記入例: 「大正時代末期(1920年代)に初のノンアルコール文化が誕生」
2-2. 転換点
記載内容: その文化が広がったきっかけとなる出来事や転換点を記載する。記入例: 「2020年前後、コロナ禍の健康志向の高まりによりノンアル市場が拡大」
歴史は繰り返すとよく言われるば、文化には一定のサイクルがある。
文化形成の起源と転換点となっている要素を考えてみることで、文化を点ではなく線で捉え、どのような価値観の揺り戻しがあるかを理解できるはず。
3. 構造(社会の中の位置付けを理解する)

文化は単体で成り立っているわけではなく、複数の事象との関係性の中で成り立っている。文化の各要素のつながりを考えていく。
3-1. 類似
記載内容: 同様の文化や関連する事象を記載する。
記入例: 「ウェルネス意識の高まり、フィットネス環境の増加、リスク回避志向、多様性の尊重」
3-2. 対立
記載内容: 文化が対抗・対立する既存の概念や社会的な価値観を記載する。
記入例: 「サラリーマンの飲み会文化へのアンチテーゼ、アルコールによる『強制感』への対抗」
カウンターカルチャーとよく表現されるが、文化は対立・アンチテーゼから生まれると考えている。類似と対立の両方の事象を読み解くことで、文化が生まれた構造が深く理解できるはず。
4. 要素観察(文化の詳細・裏側を理解する)

文化とは、価値・行為・制度の3つの要素に分解することができる
4-1. 価値(人が意味を感じること)
記載内容: 文化に関わる人々が認識している価値観を記載する。
記入例: 「セルフケア・ウェルネスを重視する価値観」「個人の判断を尊重する価値観」
4-2. 行為(価値を象徴する行動)
記載内容: 文化の価値観が具体的にどのような行動として現れるかを記載する。
記入例: 「特別な時だけ飲酒する『イベント化』」「自分好みの飲み方を選択する『スマドリ』」
4-3. 制度(習慣化に伴うルール)
記載内容: 文化が継続・発展するための制度やルールを記載する。
記入例: 「0%、0.5%、3%のアルコール度数の選択肢がある」「スマドリバーの拡張」
特定の事象が、人の生活行動に自然と浸透している理由を3要素に分解して読み解いていくことで、曖昧な文化を捉えやすくなるはず。
5. 文化象徴の場(文化が現れる場所)

記載内容: 文化が具体的にどのような場所で発生し、象徴的な場があるかを記載する。これはリアルな場だけではなくSNS空間のようなバーチャルな場も含めて考える。
5-1. 発祥・象徴の場
記入例:「ノンアル専門のバー(SUMADORI-BAR SHIBUYA、Listen Bar)」
5-2. コミュニティ形成の場
記入例: 「若者専門の居酒屋(とりやろー、とりあえず、新時代)」
5-3. 価値を代替する場
記入例: 「シーシャバーやサウナ」
文化の普及は人が集い、一緒に話をしたり創造したりする聖地がある。キリスト教徒は教会に集うように、その文化の聖地を見つけてみる。このことで文化をよりリアルに捉えやすくなるはず。
6. 文化の裏側を理解した上でフィールドワークへ
文化の構造を読み解いた上で、最後に書いた文化象徴の場にフィールドワークへ行くことを推奨してみたい。

文化は言葉で理解できるものではなく、身体感覚で理解し、自分なりの文化解釈をしていくことが大切だと考えている。
文化は答えを見つけるのではなく、文化が生まれる場に出て、話をして、ともに考えたり、創ったりする姿勢が大切だと教わってきた。
人類学者のティム・インゴルドはこのように言っている。
「私が考える人類学は、データや被験者を解析して結論を付けるタイプの研究とは異なる。人々『について』研究するのではなく、人々『とともに』学んでいく姿勢だ。良いも悪いも、なぜその人がそういった物の考え方をするのか、理解しようとする準備はあると伝えたい」
自分だったら文化をどのように解釈するか?
そして、文化を読み解いてみた上で、自分はどんな文化をつくっていきたいか、つくっていけると良いのかを考えてみると、より生活したり、街を歩いたりするのが面白くなるのではないだろうか。

カルチャートレースを通じて、関わる文化を理解することを楽しんだり、文化に対して良い影響を与える方法を探索する人が増えたら嬉しい。
文化を読み解く参考書籍
最後に、シートをつくる上で参考にさせてもらった書籍をご紹介したい。
カルチャートレースシートはV1.なので、皆さんのフィードバックを踏まえて更新していきます。