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カジノ解禁で開発される統合型リゾート施設のビジネスモデル

日本でもいよいよ、カジノを含めた統合型リゾート施設(Integrated Resort : IR)の誘致合戦が本格化しはじめている。開業の候補地として挙がっているのは、北海道(苫小牧)、東京(台場)、神奈川(横浜)、大阪、千葉(幕張)、和歌山、長崎、沖縄などだが、その中から最終的な開業地が数ヶ所に絞り込まれることになる。当初の計画では、東京オリンピックに合わせて2020年の開業を目指していたが、地元住民の反対などで計画は遅れ、開業地が決定して施設が完成・オープンするのは、2023~2025年頃とみられている。

IR施設が完成すれば、海外の富裕層が大量に訪れるため、地域にとっては大きな経済効果が期待されているが、実際にはどんなビジネスビジネスモデルが展開されるのだろうか。

【カジノ統合リゾートのビジネスモデル】

日本には、カジノビジネスのノウハウが無いため、カジノの他にも、ホテル、映画館、劇場などが併設された統合施設の運営は、海外のリゾート企業に任されることになり、日本はそこからカジノ税(カジノ収入の30~50%)を徴収する構造になる。また、統合型リゾート施設の周辺では、新たな雇用が生まれることも期待されている。

日本が計画している、カジノ統合型観光施設は、シンガポールのモデルに近いと言われている。シンガポールの国土は狭く、目玉となる観光資源は少ないため、外国人旅行者によるインバウンド収入を獲得する目的で、カジノが運営されている。

2005年にカジノの解禁が公式に決定し、2010年からマリーナベイ地区とセントーサ島の2ヶ所で、カジノを含めたホテル、物販、飲食、コンサートホール、劇場などがある統合リゾート施設(IR)が開業している。マリーナベイ地区のIR施設「マリーナ・ベイ・サンズ」だけでも、投資額は 約5,000億円の巨大プロジェクトであり、シンガポール政府との間で開発契約を結んだ、米国のラスベガス・サンズ社が、施設の建設から運営までを担当している。

マリーナ・ベイ・サンズは、豪華ホテル(5つ星)の中で様々なレジャーやエンターテイメントを楽しめる構造になっており、ビジネスの大規模な会議や学会を開催することも可能。

ホテル内にあるカジノ施設には、現地のシンガポール国籍者は入場税(100シンガポールドル:約8,000円)を払う必要があるが、外国人は無料で入場することができる。カジノは年中無休、24時間営業で、約1500台のスロットマシン、600台のゲームテーブルがある。来場者の大半はアジア人のため、場内の雰囲気は米ラスベガスとは異なるものだ。

このようなホテルを母体とした統合リゾート施設では、宿泊料金や飲食サービスによる売上だけでは大幅な赤字で、収益の大半をカジノから賄う構造になっている。マリーナ・ベイ・サンズを運営している、ラスベガス・サンズ社の決算資料でも、売上高の7割以上をカジノによって稼いでいることがわかる。

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サンズ社の資料によると、カジノでプレイヤーが勝てる確率は、テーブルゲームは平均すると総ゲーム数に対して15%前後、スロットマシンのホールド率(Win回数÷ハンドル回数)は3~7%に設定されており、顧客が長時間のプレイをするほど、トータルでは胴元が儲かる仕組みになっている。そのため、カジノで大損をしないためには、冷静さを失わずに、短時間で切り上げるのが良い。

最近では、カジノ付きのリゾート施設を訪れる富裕層の中でも、カジノはあまりやらずに、他のレジャーや娯楽で楽しむ人達が増えている。これは健全で賢い遊び方だが、施設側にとってはカジノの遊戯時間が減少すれば、従来のビジネスモデルが成り立たなくなってしまう。

そのため、世界のカジノ施設はどこも VIPメンバー制度を設けている。これは「コンプ・プログラム」とも呼ばれるもので、ゲームに賭ける金額やゲーム時間の条件をクリアーすると、飲食代やホテルの宿泊費など、各種のサービスが無料になる特典が用意されている。

カジノの利益率は決して高いわけではなく、顧客がゲームに投じる賭け金に対して、賞金として払い戻す還元率は90~95%に設定されていて、日本の競馬や宝くじよりも還元率は高い。還元率が95%ならば、賭け金に対する粗利益は 5%となり、その中から、他のレジャー施設から生じる赤字分を補填した上で、人件費、ゲーム機のリース代、そしてカジノ税も国や自治体に払わなくてはならない。

カジノは公営ギャンブルとしての性質が強く、最も儲かるのは国や自治体であり、数千億円規模の投資を行うカジノ運営業者が抱えるリスクは大きい。実際に、ドナルド・トランプ氏が1990年に開業したカジノ施設「トランプ・タージマハル」は、豪華な設備の維持に資金繰りが追いつかず、わずか1年で倒産。ラスベガスの大手カジノグループ、シーザーズ・エンターテイメント社も、2015年に経営破綻している。

米国富裕層のカジノに対する興味は冷めてきているため、カジノ業者にとってはアジアを新たな市場として、中国人富裕層を主なターゲットにしなくては生き残れないのが、リーマンショック以降の状況である。そうした中、日本のカジノ統合型リゾート施設は、ギャンブル好きのアジア富裕層をどこまで集客できるのかに、事業の成否がかかっている。

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