リモート勤務で浮き彫りになる、年齢と性別による賃金格差の解消
コロナ危機を転機として在宅勤務制度を導入する企業は増えているが、そこで新たな存在感を示しているのは20~30代の若手社員ではないだろうか。この層は、リモートワークに必要な各種ツールを使いこなすことが得意で、柔軟なコミュニケーションの方法にも長けている。
振り返ると、年功序列の古い社内組織で、20~30代の若手人材は給与条件でも冷遇されてきた。若いうちは給料が安くて当たり前、パートや契約社員の立場では、どんなにがんばっても正社員よりも高給を得ることはできない、という風土が日本企業には根付いている。年齢やパート社員と正社員という立場の違いだけで、時給換算した賃金水準はなんと3倍以上に格差が生じているのだ。
しかし、社内全体でリモートワークを実行してみると、年齢や役職よりも「仕事の成果」が際立つように、各社員の年収を時間単価に換算し直して、職種別にみた労働生産制が高い・低いという評価がしやすくなる。
米国では、以前から年収よりも時間単価でみた人事評価をする習慣があり、経営者は「PayScale」のような給与サーベイを利用して、職種別にリサーチされた報酬の平均値から、各社員の妥当な時間報酬単価を導いている。反対に、従業員の立場でも、自分に該当する職種やスキルレベルの平均報酬相場を調べて、経営者に待遇改善の交渉をすることもある。
たとえば、男女間の給与格差についても、PayScaleの統計データでは明らかになっている。女性は出産・子育てや親の介護から職場復帰する際に、職場でのポジションが低くなり、給料が減額になる確率が高く、同じ実力の男性社員が1ドルの賃金を稼ぐのに対して、女性社員は0.81ドルしか稼げない。
これを40年続けると生涯年収は男女の違いだけで、47万ドル(約5170万円)もの格差が生じてくる。※男性の平均年収を61,700ドル(約678万円)、女性の平均年収を49,800ドル(547万円)で計算した場合。
PayScaleでは、コロナウイルスの影響を受ける職場(学校、航空会社、医療機関など)でも男女の賃金格差を調査しているが、やはり女性は男性よりも給与面のハンディがある。看護師のように、女性が最前線で活躍している職種でさえも、女性看護師の賃金相場は男性看護師よりも低いのが実情である。そのため、コロナ不況による人員整理でも、女性がレイオフ(解雇)の対象になりやすいことが懸念されている。
しかし、リモートワークで行われる仕事については、性別や年齢の属性とは関係無く、与えられたミッションに対する達成率で給与が変動する特性が強い。
もう一つの興味深いデータとして、ビデオ会議用の卓上ロボットを開発する「Owl Labs」が行った、リモートワークの賃金格差についての調査「Equal Pay for Equal Work 2020」によると、フルタイムでリモートワークができる人材は、リモートワーク未経験の人材と比べて、年収で100,000ドル(約1100万円)以上を稼いでいる人の割合が21%高い。
また、子どもがいる男性リモートワーカー(父親)で年収で100,000ドル以上を稼ぐ者は、同じく子どもがいる女性リモートワーカー(母親)と比べて3倍以上となっているこれは、一見すると男女格差のようにみえるが、女性(母親)は子育ての負担が大きく、在宅では仕事のパフォーマンスが上げにくいためと考えられている。その裏付けとして、子どもがいる女性は、子どもがいない女性と比較して、リモートワークができる可能性が8%低いこともわかっている。
このように、リモートワークでも賃金の実質的な格差は開くのが実態だが、それは年齢や性別の条件で決まるものではなく、「在宅勤務でどれだけのパフォーマンスが発揮できるか」という実力勝負の世界だ。毎日通勤していれば、年功序列で職場のポジションと給与が上がっていくという従来の常識は、リモートワークの中では通用しない。
これまで時給換算で3000円以上の給与を貰ってきた40代後半から50代のサラリーマンは、少なくとも時給相場が1000円台の若手社員よりも高いパフォーマンスを出さなければ、リモートワーク時代の中では、生き残りが難しくなっていくだろう。
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