好業績を支えるアイリスオーヤマの人事システム
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好業績を支えるアイリスオーヤマの人事システム

「ものつくりニッポン」を支えるアイリスオーヤマ

かつては「ものつくりニッポン」と世界市場でも際立った優位性を見せていた日本の製造業も、今ではすっかり元気がなくなってしまった。特に最終消費者を顧客とした企業群も、今では韓国と中国企業に押され、一度は凋落したものの再起した米国企業にも置いて行かれてしまった。そのような中、2000年以降、急速に成長している最終消費者を対象とした企業がある。アイリスオーヤマだ。

アイリスオーヤマは、1958年に東大阪市で創業したプラスチック製品を製造する町工場をルーツに持つ。1972年に宮城県南部に新設した仙台工場が成功し、1989年には本拠地を東大阪市から仙台市に移した。そのとき、成長の原動力となったのが2つの大ヒット商品だ。1つは、プラスチック製犬舎だ。それまではベニヤ板で作られることが多かったためにメンテナンスと清潔性に問題があった犬舎がプラスチックとなることで、水に強く、清潔で掃除も簡単な犬舎となった。もう1つが、クリア収納ケースだ。それまでは中身が見えないようになっていた収納ケースが主流だったが、透明とすることで「しまう」ことよりも「探す」ことに主眼を置いた商品が大ヒットとなった。そして、仙台の優良企業として家庭用プラスチック製品の代表メーカーとなる。

また、現在は家庭用プラスチック製品だけではなく、様々な商材を扱う企業に成長している。このような多角化戦略の契機となったのが、2012年の家電業界への参入だ。当時、苦境に立たされて退職となった家電メーカーのエンジニアを大量に採用し、アイリスオーヤマの中で眠っているアイデアと元家電メーカーのエンジニアの技術が合わさってヒット商品を次々と生み出すことになる。大山健太郎会長は、ユーザーインの商品開発によって日本の家電業界を盛り上げることができれば、大きな社会貢献「ジャパンソリューション」になると考え、その戦略が大いに嵌った。

アイリスオーヤマの成長はとどまることなく、仙台市に拠点を持つ地方の会社にもかかわらず、このコロナ禍でも中途入社の志願者は月3000人を超えるほどの人気を誇る。

明快で透明性の高い人事評価

アイリスオーヤマの成長の原動力は、人材にあると言えるだろう。大山健太郎会長のアイデアを実行できる従業員の層の厚さと実力の高さが成長を支えている。例えば、アイリスオーヤマのネット直販は2001年スタートと20年の歴史を持つ。それを実現できたのは、2000年問題に対応するために早くからエンジニアを採用していたためだ。また、大ヒットとなった1,980円のLED電球も、たったの4か月間という短い開発期間で誕生している。当時は5,000円を超えることが当然だったLED電球を半分以下にコストダウンに成功したのだ。(正しくは、はじめの製品は2,500円であり1,980円となったのは8か月後のことである。)そして、家電業界への進出では、大手家電メーカーを退職したエンジニアを大量に採用することで実現している。

このように、アイデアを実現させる実行力を持つ従業員を作る鍵は、人事評価にある。日経新聞の記事にあるように、アイリスオーヤマの人事評価は非常に明快で、合理的だ。

記事にもあるように、アイリスオーヤマの評価は実績だけでなされず、「実績とプレゼン、360度評価」の3つを合算して行われる。プレゼンでは、経営陣が設定した様々な課題に沿って論文を書き、プレゼンターションを行う。また、上司や同僚からの360度フィードバックは、同じ職位全員の中で何位だったかまで個別に伝達される。

そのほかにも、昇進のときにもプレゼンを行うが、その様子を選抜される社員も聴衆として参加する。新商品のアイデアも経営陣の前でプレゼンし、ほかの新商品開発を行う部署のメンバーも聴衆として参加する。このように、重要な意思決定では、経営陣の前でプレゼンし、その様子を社員も見ることができる。

多くの企業で意思決定が不透明な降格処分も基準が明確だ。上記3つを合算して出たスコアが下位1割になるとイエローカードが与えられ、続くと降格になる。

このように、アイリスオーヤマの人事評価は非常に明快で、透明性が高い。意思決定が人事部の中でブラックボックス化することはない。皆が見るし、皆が参加し、皆に公表されるのが基本方針だ。

人事は流行の新しい制度をしなくても良い

さて、ここまで見てきて、人事制度に詳しい人からするとこのような感想を持つのではないだろうか。「やりきって成果を出していることは素晴らしいが、目新しい施策は目につかない」である。

人事評価を重要視し、業績だけではなく問題解決能力などの認知能力も評価に取り入れ、360度評価を教育目的ではなく評価目的で使用すること、低成績者1割の降格など、基本的に米国のGEがこれまでにやってきたことだ。しかも、少し前のGEがやってきたような内容が多い。ノーレーティングやピープルアナリティクス、エンゲージメント評価などの流行の人事制度は何も取り入れていない。しかし、流行に左右されないということが、人事で組織を強くする本質を得ているように思われる。

人事制度は、周りがやっていたり、先端だから導入するものではない。作り上げたい組織の在り方があって、その組織開発のために最適な制度が選択されるのがセオリーだ。そういった意味では、アイリスオーヤマの人事制度は作りたい組織を作るために選択され、最適化されている。例えば、360度評価を教育目的で終わらせずに人事評価として使うことは、経営学の理論としては当然のことだ。しかし、現実問題として、360度評価を人事評価として使うことに意思決定ができている企業は少数派だ。

また、人事評価をブラックボックス化せずに明確化と透明化を徹底することは、経営学の理論としては当然やるべき基本的な事項だ。しかし、それを基本的なこととして実際の運用に取り組むことができる企業もほとんどない。多くの企業が、どこかを妥協する。アイリスオーヤマは、妥協せずに、人事評価の明確化と透明化をしっかりと行っている。

妥協せずに人事評価の明確化と透明化をできているのは、作りたい組織の在り方が明確であるためだ。こういう組織を作ろうというところから逆算をすると、やるべきことと抑えるべきポイントが明確になり、妥協をしなくなる。この発想は、アイリスオーヤマの基本的なスタンスである「ユーザーイン(消費者に「なるほど」と思わせるアイデアから逆算して実行手段を考える)」と類似した思考プロセスだ。

人事制度は、流行のものや新しいものを取り入れなくても構わない。まずは、在りたい組織、作りたい組織とは何かを定め、そこから逆算してやるべき人事制度を選択し、設計していくプロセスが重要だ。そうして、抑えるべきポイントを明確にし、妥協しない運用をすることが強い組織を作ることになる。アイリスオーヤマの事例は、流行に流されずに、在りたい姿から逆算して考えることの重要性を私たちに教えてくれている。


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大分大学経済学部の講師をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発起業などの話題を取り上げていきます。※日経電子版キーオピニオンリーダー ※多様な意見を尊重したく、コメント返信は原則控えています。質問はTwitter(@IkariOita)へお願いします。