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若者は守られてきた、のか

「最近の若者は」という出だしで何かが論じられると、思わず身構えてしまうことがある。そこに続く言葉が、「心が弱くなった」「マナーがなっていない」となることが多いからだ。

そんな大きな主語でくくられた批判の前に、少し立ち止まって考えたいことがある。

子どもの貧困などが深刻な問題となっていることは、これまでも度々指摘されてきた。数字で見れば改善されている、と報じられてはいるものの、データが存在する最初の年である85年(私自身が生まれる前)の子どもの貧困率は10・9%、15年は13・9%ということを見ると、80年代の水準まで下がっていないことが分かる。

そして子ども時代の貧困は、大人になっても、あるいはその次の世代になっても連鎖してしまうことも深刻だ。私がかつて取材した、同い年のホームレスの男性も、母親が生活保護を受けていた。彼は20代前半にして、路上生活を余儀なくされた。

詳細は下記の記事を参考にしてほしい。彼を追い詰めていったのは「お金がない」状態というよりも、むしろ「お金がない」という状態を誰にも相談できない、誰にも解決してもらえない状態に追いやられてしまったことだった。

彼は飽くまでも、同じような壁に苦しむ多くの若者たちの、一人だ。

経済的な問題だけに留まらない。それと密接に関わる問題でもあるが、今、10~30代までの世代で一番多い死因が自殺とされている。

私は大学生時代、あしなが育英会という団体でボランティアをしていたことがあった。自殺で親御さんだけではなく、兄弟姉妹を亡くした同級生も少なくなく、彼ら彼女たちが少しずつ語ってくれる言葉をつなぎ合わせていくと、経済的に困窮したことや人間関係、切っても切り離せない元々の生い立ちなど、自殺に至るまでにいくつもの要因が複雑に絡み合っていることが分かった。

そして最後には「ごめんね」と言い残す人が多かったように思う。「生きていたら迷惑かけるから、ごめんね」「自分なんかいない方がいいね、ごめんね」。自殺は“自己責任”という安易な言葉で切り捨てられるようなものではなく、それしか選択肢がなくなるまで追いやられてしまった状態だった。

もちろん、経済的に”守られた”環境で育ってきた人たちもいるはずだ。私の友人もその一人だった。裕福な家庭、大きな家に住み、けれども家の中はぼろぼろだった。毎日のように父親に殴られていたものの、「こんなに”恵まれた家庭”に育っているのだから、文句を言ってはいけない」と、むしろ自身を責め続けながら育った。

海外の事例だが、これを参考にしてほしい。例え経済的に困窮していなかったとしても、習い事をする機会があったとしても、”恵まれている”かいなかを、単純な二元論で語れないことが分かる。

あるとき目にした自殺対策のポスターに、こんな言葉が書かれていたことがある。「弱かったのは、個人でなく、社会の支えでした」。この社会に、それぞれの世代がばらばらに存在しているのではなく、密接に関わりながら生きている。責め立て合う前に、共に向き合いたい現実がある。

一方で、これまで社会の中で引きずられてきた、もしくは見過ごされてきた「生きづらさ」を少しずつ変えていこうと声をあげてきた人々がいることも確かだ。

これまで「そんなの我慢できない方が悪い」「大袈裟だ」と問題にされてこなかったセクハラやパワハラなどに、少しずつ声があがるようになった。

以前は、セクシャルマイノリティーの方々に、心ない言葉が飛び交いがちだった。今はそんな言葉に対して「それはおかしい」と少しずつ、声があがるようになってきている。

よりよく生きるための意思が、少しずつ声となり、行動となり、そして形になってきたのだ。

日本に暮らす同世代、もしくはもっと下の世代には、”バブル期”の記憶はない。「働くほど生活が良くなる」というモチベーションがあった時代とは状況が違ってきているものの、長時間労働が美徳、という旧態依然としたものは根深く残っている。飽くまでも肌感覚で感じていることではあるが、そんな「ねじれ」が生きづらさを作ってきた一つの要因でもあるように思う。

「働け、生産しろ」一辺倒の豊かさのあり方を、少しずつ変えていくときにきているはずだ。

例えば電車の中で赤ちゃんがぐずったら、母親を責めるのではなく、「大丈夫ですよ」「元気な子ですね」と声をかけ合える社会でありたいし、そんな「余裕」を皆で築き上げていきたいと思う。

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安田菜津紀(フォトジャーナリスト)

フォトジャーナリスト。東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で貧困や災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。J-WAVE「JAM THE WORLD」水曜日ニューススーパーバイザー。TBS「サンデーモーニング」コメンテーター。

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