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この時代に本を出す意味とは? 話題の著者2人に出版戦略を聞いてみた

発信を続けていれば誰にでも様々なチャンスがやってくる今の時代。
私もこれまで「フリーランス・クリエイターの働き方」的なノウハウ記事を継続的に発信してたからか、ありがたいことに3年前ぐらいから出版社さんから本の出版のお話を定期的にいただくのですが、
「処女作でヘタ打てない」プレッシャーから及び腰になり、気付けばこれまで出版依頼を見送ってしまっておりました。
重版のプレッシャーとAmazonレビューが…怖い……!!!!(小心者)

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あと、それこそnoteとかオンラインプラットフォームでコンテンツを収益化できるこの時代に、あえて本の出版という手段を選ぶ意味とは……!?

実際に出版をされている知人の方にぜひお話を伺ってみたいと思いSNSで呟いてみたところ、大変豪華な著者の方々に名乗りをあげていただき、、

おひとりは、話題の本「ハウ・トゥ アート・シンキング」を出版された若宮和男さん(uni'que CEO)。現在ははやくも二冊目である「正解がぐんぐんわからなくなる!アート思考のドリル(仮題)」を執筆中。

もうお一人は初めてのご著書である「転職2.0」を2月に出版される村上臣さん(LinkedIn日本代表)。
私の前職であるヤフー株式会社の執行役員でもありました(かつて自分がヤフーを辞める日にもお肉をご馳走になりました、感謝……)。

これは心強い。自分と同じように、出版のことがわからなくて踏ん切りがつかない方にも非常に参考になるであろうお話だったので、せっかくなので記事にさせていただきます。

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ヒアリング会はZoomでこっそりと行われました

(なお偶然ですが、自分も含めた3人ともこちらの「日経COMEMO」キーオピニオンリーダーです)

編集者と二人三脚で走れることの重要性

若宮:出版社の力って大きいですけど、あくまでその本を通じてどうしたいかによる気がしていて。僕は一冊目は「実業之日本社」という、どちらかといえば小説とかがメインでビジネス書のジャンルではまだそれほど強くない出版社さんから出版のオファーをいただいたんですが、それこそCOMEMOの記事を読んでラブコールをくれて。出版社としても新規事業的にビジネス書に力を入れていく第一弾として白羽の矢が立ったみたいです。

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若宮和男さん(uni'que CEO)

市原:あれ、「実業」というからにはビジネス書の会社なんだと思いこんでましたが、違うんですね……!

若宮:そうなんです(笑)。創業120年以上の老舗出版社で創業当時は「実業」がメインだったようですが…。でも、処女作としてはすごくありがたい環境で、編集さんと二人三脚でこちらがやりたいことを存分にやらせてくれた。「本の順番ぐちゃぐちゃにしたいです」とか変な提案も一緒に考えてくれる感じで。まさにゼロイチで新規事業をやってるみたいでした。

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市原:向こうも新規事業をやる機運のうえ、惚れ込んでオファーをしてくれているわけですから、コミットメントが高かったんですね。処女作だと重要ですね……。

若宮:「一緒にイベント仕掛けていきましょう」とか、売り方も含めて二人三脚でやれたし、「アート思考を本にするってどうやるねん」「教科書化できることじゃない」とか、前段の悩みから一緒に考えられるのが僕はよかったですね。編集さんにやる気があって、どれだけチャレンジしてくれるか、社内の人をどれだけ説得に走ってくれるか、という指標は処女作だったら特に重要かなと思います。

あとは意外と盲点なのが、Webメディアを自社でもってる会社はめっちゃ強いです。ダイヤモンドとか東洋経済とか、著作のプロモーション記事を「著者が語る」みたいなシリーズでどっと出せば、それだけで初版は軽くはけちゃう。だからすごく熱意があって、メディアパワーも持っている方から連絡がきたらそれが一番良いでしょうね。

どこから出すかをチョイスするに当たっては「実売のメリット」と「相性」その2本柱が重要で。事業にたとえると編集者って資金面でも応援して一緒に走ってくれる投資家みたいなものだと思っているので、はじめての本でこちらから企画書を持って売り込むときは一緒に仲間になってくれる人が見つからないと厳しい気はします。

キャリアやブランディングを刷新するための出版戦略

市原:村上さんはこれまでずっと出版依頼を断ってらっしゃったんですよね。ヤフーの執行役員時代から「モバイルの革命家、若き執行役員」的にかなり対外的にも注目されてましたもんね……。

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村上臣さん(LinkedIn日本代表、前職はYahoo! JAPAN執行役員CMO)

村上:前職時代から本の企画は色々と売り込みがあったんだけどね。オープンイノベーションとかIoTとか、モバイルとか。当時はIoTが自分の中で伝えたいことがあって検討したこともあったんだけど、ニッチすぎるトピックだったのでやめました。ビジネス書の合格点って実売が1万冊ぐらいのラインと言われているので、特定の技術トピックで1万冊いくのは結構厳しいかなと。

市原:そうか、特定少数向けの先端技術書だとそのへんのハードルが高いですね……。

村上:若宮さんの言う通り、何をゴールにするかによって大分違ってきますね。僕の今回の目標は明確で、「誰もが楽しく働ける社会」をつくるための方法論を伝えたい。あと、今までの「モバイルの人」というキャリアやイメージを刷新して、「働き方の人」に変えたいんですよね。

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市原:そういうことだったんですか……!確かにヤフー時代は「村上さんといえばモバイルの人」でしたが、今はLinkedInの日本代表として働かれてますもんね。

村上:そうそう、今はLinkedInにいることもあって、外部で執筆する記事も働き方に寄せて書いていたり。日経の方のお力も借りながら本紙にも出たり「働き方の人」としてのブランディングができてきたので、今回の本でそれを完成させようと思ってます。

市原:それまで企画を見送ってきたのに、今回承諾したのはなぜなのでしょうか?

村上:単純に企画が良かったのと、コロナ禍で時間ができたこと(笑)。ちょうど4月ぐらいからスタートだから。未だに編集者には一度も会ったことがないんです。フルリモートでここまできました。

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今回の企画は出版社からの持ち込みで、SBクリエイティブの編集者からある日突然LinkedIn経由で企画書が送られてきました。担当の編集さんがすごく情熱ある方で、これからの時代を見すえた転職の新しい形を提案する本を構想し、非常にしっかりとした企画書にまとめてくれていたんです。それで全然面識のない人だったけど話してみようかな、とスタートしました。
今回はとにかく実売を積むのが目的だから、とにかく売る戦略を徹底してますね

市原:ブランディング&今後のビジネスのため、とかなり目的を振り切っているんですね。「働き方の人」として生きるために、出版を使うと。

村上:そうだから自分の印税も全部広告費にまわすし。出版社にも「印税も予算として考えていい、だからお前らは儲けてくれ、三方良しでしょ?」って言いながらやってる。

市原:出版社にとってとんでもなく良い著者じゃないですか……!!!それは経営者の方ならではのモデルかもしれないですね。普通の著者だったら印税で食わないといけないので。
ビジネス系かつ経営者の方の出版でも、いろんな事例がありますね。ある種の広告的に出版を活用するケースもあると。

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若宮:本ってやっぱり出したあとの広がりがすごいです。講演やワークショップとかの依頼も入ってくるので、実は本の実売よりも、その後に入ってくる研修依頼とかの方が収入としては大きかったりしますね。

市原:本を出すと「〇〇の人」「〇〇の著者」というブランディングができるのはでかいですね。若宮さんも「アートシンキングの人」というブランディングが本を出すこと確立されましたもんね。

若宮:市原さんも「フリーランスの〜」という切り口でよく記事を書いていますが、完全にライフハック系に倒すよりはアーティストとしての文脈を残しながらの方がその後の仕事に繋がるのかなと思います。

市原:確かに本業もフリーランス向けのマーケターとかコンサルとかではないので、アーティストとしての面を残しつつ企画した方が良さそうですね。

どのような執筆スタイルをとるか。レバレッジ派 vs 思考が湧き出るままに書く派

市原:本業がすごくお忙しいと思うんですが、時間はどのように捻出されていたんですか?

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村上:時間は、通勤をしなくなったことによる砂金みたいなものを集めて。とはいえ結構時間はかかりましたね。ライターさんを使わないと無理だった。

まずは編集者さんと僕で、本の構造から徹底的につくることをしたんです。作り方は色々あると思うけど、僕の場合はザ・ビジネス書なんでロジック破綻があったらいけない。他の様々な転職本から何が売れているか分析して、どういう形だったら新しい形で受け入れられるかを戦略を立てて、それを軸に自分ならではのオンリーワンと言えるロジックを2人で考えて。それが労力としては半分ぐらいだったかな。

市原:もはや本を書くというよりは、「新規事業をつくる」みたいな感じですね。

村上:公開はできないけれど、こんな構造図もつくってたのよ。結構ふわっとした転職本も多い中で、自分としてはこれを読んだ人が、実際にアクションに落とし込めることを大事にしたかった。だから読者のアクションフローも整理して、フレームワークをつくっていきました。

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※マル秘資料のため、モザイクをかけております

市原:こっ、これは素晴らしい……!!!この時点で、本の骨組みはもちろん、売り方、宣伝の仕方まで座組が決まってますね。さすが経営者……

村上:この骨組みをもとに章立てを考えて、ライターを入れて、各章わーっと書いていく、という感じで進めてました。完全にチームを組んで、余った時間をうまく使ってやっていく感じ。

市原:めちゃくちゃレバレッジがきいてますね。
若宮さんはご自分で執筆されるスタイルなんでしたっけ。

若宮:僕は一言一句自分で書きましたね……。書きたいことが先に出てくるタイプなので、書いちゃった方が早いなと。僕はこういうのを「自分が伝えたいように伝えたい」みたいなタイプだったので、インタビュー受けて確認原稿がくると細かい表現が気になってしまって、逆に手直しで時間がかかっちゃう。

↑毎回ものすごい熱を感じる若宮さんの執筆記事

市原:その結果、若宮さんらしい文章になっていましたね。若宮臭が漂ってくるというか……。

若宮:あとはターゲットというか、どんな人に一番に読んでほしいかも大事ですよね。世の中にアートシンキング本は色々あるんですが、僕は基本的に起業している人や企業の新規事業担当者など、基本ビジネスパーソン向け。市原さんの場合は、アーティストに手にとってほしいのかとか、誰に取ってほしいのかによって違うと思うので、そこは考えたほうが良さそうですね。

村上:やっぱりそれもゴールイメージが何かによりますよね

市原:アーティスト向けだとかなりマーケットが小さくなりそうですけどね……。売るのが目的ではなく、好きな本を徹底してつくりたいのならばそういう方向性もありだろうし、なるべくマーケットを読んで全力でヒットを飛ばしにいくならまた違うやり方になるだろうし。

若宮:マーケットの規模は大事ですが、瞬発力的に部数が小さくても長く、深く、ここの人たちのためになりたい!と思って書く本も全然あっていいと思うので。

村上:そう言ってもある程度は合格点を取っておかないと、次がなくなるっていうのはあるから、バランスですね。出版社によってそれぞれの合格ラインっていうのがあるから、フルパワーで今頑張ってる

市原:その辺りの話を伺うにつけ、なかなかプレッシャーがかかりそうだなとビビるのですが、いかがでしょうか……?

村上:プレッシャーはあるけど、やりきるしかないよね。できることはやって、基本的に信頼貯金を引き出す感じにはなる。

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市原:なるほど……クラウドファンディングをやるときと近い感じがありそうですね。その人の社会的資本や信頼貯金を全投入すると……

村上:貯金を引き出す感じだから、また貯めないと(笑)。気持ち的にはそういう感じだね。

若宮:僕は1%の熱狂というか、「ハマる人はハマるけど、ぽかんとする人はぽかーん」でいいやと思ってました。「数を売るよりなるべく自分の手触り感があるように」という方向だったので、なんだったら編集さんから「こういう構成にした方が売れると思います」と言われても、「嫌です!」って断ってたぐらいで。次に出す本は、もう少し裾野を広げた感じでと思っているので、ステップで考えてますね。


アート思考って読者をアートに興味をもって欲しくて書いているんですが、ヘタな出し方するとアート業界の方からは「アートの消費」と捉えられて嫌われる懸念もある。だからなるべく自分の言葉で丁寧に語りたい、という特殊事情もあったりしました。

市原:雑な質問ですが、本を書いてみてよかったですか?

若宮:本出したほうが良いのはありますね。本業とのシナジーがものすごい生まれるので。著書とは全然関係のない趣旨のイベントに登壇しても、話がアート思考的な考え方にどこか根ざしていると、それで興味を持って本を読んでくれたりもするし。本がきっかけで企業から講演や審査員などのご依頼を頂くことも多いです。

市原:勝手に自分のことを宣伝してくれるブツが色んな所で売られるのはいいですね。

若宮:ワークショップ引き受けたら、「この本に書いてます」って言うと教科書的にみんな買ってくれたりもするんで。そういうループがぐるぐる回っている感じです。

市原:いろんな方がいろんな目的で本を出されてるんだなと……。この2名の豪華メンバーに今日は伺えてよかったです。村上さんが次のご予定ということで一旦ここで切り上げさせていただきますが、本当にありがとうございました!!









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