顧客接点を強化し、ビジネスの成長を生む「コミュニティマーケティング」の可能性
近年、マーケティングの環境は急速に変化しています。消費者のニーズは細分化し、オンライン活動の拡大やSNSを中心とした双方向コミュニケーションの進化により、従来のマスマーケティングの効果が減少しています。
さらに、サードパーティクッキー規制の強化、広告ブロッカーの普及、データ保護規制の厳格化に伴い、広告の効果は低下し、顧客獲得コストは増加しています。加えて、消費者の接触チャネルが多様化する中で、ブランド体験に一貫性を持たせることが難しくなり、ブランドエンゲージメントの低下も指摘されています。
このように、マーケティング環境が変化する中で、次のマーケティングのアプローチに関して様々な議論がされています。
今回は、マーケティング環境の変化の中で注目しているコミュニティマーケティングについて考察したいと思います。
ブランドと顧客の接点の希薄化 - マーケティング環境の変化
現在、マーケティング環境は大きく変化しています。
最初に書いた通り、従来型のマスマーケティングの効果が衰退しています。
また、サードパーティクッキーの動向を始め、データ規制の厳格化、広告ブロッカーの普及により広告効果は低下し、顧客獲得コストも増加しています。
そして、人々の活動がオンラインを始め、多様になっていることもあり、ブランドが提供する顧客体験に一貫性を持たせることが難しくなっており、ブランドエンゲージメントも低下していると言われています。
1. マスマーケティングの効果低下
かつてブランド構築の要であったマスマーケティングは、現在の断片化したメディア環境では効果が薄れつつあります。デジタルチャネルの普及や、個別化された体験、ニッチなターゲット層を重視する流れにより、消費者の期待も変化しています。消費者は、特定のニーズや関心に合わせたコンテンツを求めるようになり、画一的な戦略はもはや通用しなくなっています。
2. 厳格化するデータ規制と広告ブロッカーの普及
GDPRやCCPAといったプライバシー関連の規制強化により、企業が消費者データを収集・活用する際の制約が増しています。同時に、広告ブロッカーの普及は、侵入的で無関係な広告に対する消費者の反発を反映しています。このような状況は、マーケターに倫理的で価値を重視したアプローチを求めています。
3. シームレスな顧客体験の提供における一貫性の欠如
シームレスな顧客体験は今や重要な差別化要素ですが、多くのブランドが一貫性の確保に苦戦しています。これは、オンラインとオフラインの接点が断片化していることや、データ統合の不十分さ、チーム間の連携不足に起因することが多いです。こうしたギャップは顧客の不満を招き、ブランドロイヤルティを損ない、顧客との長期的な関係性から得られるの価値の低下につながります。
このように、マーケティングを取り巻く環境はどんどん変化しており、結果としてブランドと顧客の接点が希薄化している状況になっています。そうした中、顧客接点の希薄化に対してのソリューションとして注目されているのがコミュニティマーケティングなのです。では、コミュニティマーケティングの可能性についてお伝えしたいと思います。
コミュニティマーケティングの可能性
まず、これまでのマーケティングの変遷も含め分かりやすい図を見つけたので紹介します。
これまで、多くの有名ブランドは、マスメディアを活用した広告や広範なリーチによって消費者に認知されてきました。そして、広告を届ける対象を絞り込む「パーソナライゼーション」により、マーケティング効果を高めてきました。しかし、デジタルチャネルはコストが増加し、情報が飽和し、騒がしい環境になっています。このため、マーケティング担当者やブランドは、ターゲットとつながる新しい方法として、マーケティングファネルをサポートしながらもこれらの問題を回避できる「コミュニティ」の活用を模索する動きが広がっています。
コミュニティマーケティングによる効果・メリットは様々あり、Wixのメディアによると下記のリストが挙げられています。
コミュニティマーケティングにはビジネスに対し様々なメリットがあることが注目されていますが、今回はこれらを大きく4項目にまとめてみました。
1. 顧客関係の強化
コミュニティを通じて顧客との信頼関係を深めることで、ロイヤルティを高め、顧客リテンション率(継続率)の向上、つまり離脱の防止に寄与するのです。また、満足度の高い顧客がブランドアンバサダーとなり、口コミなど推奨を通じてブランドの影響力が拡大します。
2. データとインサイトの活用
コミュニティ内での会話やフィードバックを通じて、顧客の本音や潜在的なニーズを把握できます。これにより、マーケティング戦略や製品開発の精度を高め、顧客視点に立った具体的な施策を実現します。
3. マーケティングとコンテンツの拡張
コミュニティから得られるアイデアや顧客の声をもとに、新しいコンテンツやキャンペーンを生み出せます。また、過去に作成したコンテンツやイベントのアーカイブや記事コンテンツをコミュニティで再活用することで、ROIの向上も期待できます。
4. 収益の向上と安定
そして最後に、コミュニティを中長期的な視点で活用することで、需要の創出やリード獲得を強化できます。さらに、サブスクリプションモデルや新たな収益機会を確立することが可能になります。
これら4つの柱が相互に作用し、コミュニティマーケティングは顧客接点を強化し、企業の持続可能な成長を支える強力な戦略となるのです。
コミュニティ・フライホイール
コミュニティベースのマーケティングによって得られる顧客からのフィードバックを活用したMcKinsey & Company社によるコミュニティ・フライホイールという図を見つけたのでこちらもシェアします。
コミュニティ・フライホイールはブランドがコミュニティを活用して成長を加速させるためのモデルであり、マーケティングや事業全体において自己強化的なサイクルを構築する考え方を指します。このモデルは、コミュニティの力を中心に据え、顧客や見込み客とより深い関係を築きながら、フィードバックを得て迅速に改善を進める仕組みです。
マッキンゼーは以下の5つの要素が「フライホイール」を動かすと述べています。
1. コミュニティへの注力(Community Focus)
ブランドが顧客や見込み客を含むコミュニティに積極的に関与し、顧客が価値を感じる体験を提供します。それにより、顧客の参加意欲を高め、ブランドと顧客の感情的なつながりを強化します。
2.ヒーロープロダクト(Hero Products)
コミュニティの意見やニーズを反映して、顧客にとって価値の高い製品を生み出します。これにより、コミュニティが自発的にブランドを推進する存在になります。
3. 語られる信頼性の高いブランドストーリー(Talkable and Credible Brand Story)
コミュニティの声や経験を活かして、共感できるブランドストーリーを作り上げ、顧客が共有したくなる内容を提供します。
4.活発でエンゲージメントの高いコミュニティ(Engaged and Active Community)
活動的なコミュニティを維持し、参加者が互いに関与しやすい環境を整えます。この相互作用が、コミュニティ全体の信頼性と影響力を高めます。
5.シームレスな取引(Effortless Transactions)
顧客が製品やサービスを簡単かつ迅速に利用できるようにすることで、満足度を向上させます。このプロセスを通じて、再購入やロイヤルティを促進します。ブランドがコミュニティを醸成することで、コミュニケーションやキャンペーン、ポジショニング、製品、サービスの原動力となるフィードバックをコミュニティメンバーから取得し、ビジネスを成長させるサイクルとしても注目されています。
「コミュニティ・フライホイール」は、ブランドと顧客の関係を強化し、フィードバックを活用した迅速な改善や長期的な信頼構築を目指すモデルです。これにより、顧客のブランドエンゲージメントを深めながら、マーケティング戦略全体の効果を高めることを実現するのです。
コミュニティマーケティング活用の事例
海外の導入事例について以前、記事を書かせていただきましたが、スターバックスやLEGO、アディダスなど世界的なブランドでコミュニティマーケティングが導入されています。
また、日本でもクラフトビールで多くのファンがいるヤッホーブルーイングが長い間ファンコミュニティを醸成しています。社員とファンをつなぐ場をイベントやオンラインで作り、熱烈なファンコミュニティができています。そのコミュニティによって新商品が開発されたり、コロナ禍の厳しい時期も最高益を出すなどビジネスの成長に寄与しています。
また、私も使っているのですが、通信サービスプロバイダーのmineoは、ユーザー同士が情報交換やサポートを行うオンラインコミュニティ「マイネ王」を運営しています。このコミュニティでは、ユーザーが質問や意見を共有し、他のユーザーやスタッフからの回答を得ることができます。また、余っているパケットをコミュニティのメンバー同士で譲り合える仕組みがあるなどコミュニティの場があることにより、ユーザー間の結束が強まり、ブランドへの信頼とロイヤルティが向上しています。
クラウドサービスを提供するサイボウズでは、ファンコミュニティ推進部を設立し、ユーザー同士のつながりを促進する施策を展開しています。オンラインコミュニティ「キンコミ」を通じて、kintoneユーザー間でのアイデアや課題解決の共有を支援しています。また、エバンジェリストやアンバサダーを育成し、ブランド認知を拡大しています。さらに、「Cybozu Days」などのユーザーイベントを開催し、ネットワーク強化や情報共有の場を提供しています。これらの取り組みで顧客ロイヤルティを向上させ、製品活用を促進しています。
これらの事例は、コミュニティマーケティングが企業と顧客の関係を深め、ブランドへの支持を高める有効な方法であることを示しています。
まとめ
マーケティング環境が大きく変化する中で、コミュニティマーケティングは顧客との接点を強化し、ビジネス成長を支える強力な手法として注目されています。従来のマスマーケティングでは難しくなったエンゲージメントの向上や信頼構築を、コミュニティを活用することで実現可能にします。国内外の成功事例が示すように、顧客からのフィードバックを製品開発や戦略に反映させることで、競争優位性を築くことができます。今後もコミュニティを活用した取り組みが、持続可能な成長の鍵となるでしょう。
そして、コミュニティをビジネスに活用することで、ブランドは顧客との接点を強化し、ビジネスを成長させられると考えています。今後のコミュニティマーケティングの広がりにも注目していきたいと思います。