デジタル変革で生じる薬局業界の再編と薬剤師の働き方
日本で使われる医療費は年間およそ43兆円。その中で医薬品(処方薬)の割合は7.5兆円(17%)の規模がある。厚生労働省は、1990年代後半から、病院やクリニックで医師が発行した処方箋を、街の薬局に持参して購入する「医薬分業」を進めたことにより、全国にある薬局の数は30年間で1.6倍に増えた。
薬局が処方箋を持参する患者を獲得するには、病院やクリニックに隣接した立地に出店するのが効果的なため、1995年頃からは「門前薬局」の出店が増えていった。クリニックの隣に出店すれば安定した処方箋数を捌けるのが門前薬局の利点だったが、コロナ禍以降は、その成功法則が崩れてしまった。
要因は大きく2つある。1つは感染リスクを避けるため通院患者が減少していること。2つ目は、薬局に来店しなくても処方薬を購入できるスキームが急速に普及し始めたことである。厚生労働省は、薬剤師の服薬指導をオンラインで行える特例をコロナ禍で認めてきたが、2022年3月末には、正式に医薬品医療機器等法(薬機法)が改正されて、初診、再診に関わらず、すべての診療、薬剤でオンライン服薬指導が認められるようになった。これにより、患者は薬局に来店することなく、ネット経由で処方薬を入手できるようになる。
《オンライン服薬指導の要件(2022年4月以降》
○オンライン服薬指導の方法
・初診、再診に関わらず、すべての処方箋でオンライン服薬指導の実施が可能。
○通信の方法
・映像と音声による対応(音声のみの服薬指導は不可)
○薬剤の種類
・原則として全ての薬剤が可能(ただし、注射薬や吸入薬など手技が必要な薬剤については、薬剤師が適切と判断した場合に限る。)
■オンライン服薬指導について(日本薬剤師会)
同時に、医師のオンライン診療サービスと併用すれば持病の診察から薬の購入までを在宅で行えるようになる。たとえば、高血圧の潜在患者数は、国内で4300万人と言われており、血圧降下剤だけでも年間5000億円を超す市場がある。降下剤の処方には、定期的な通院が必要だったが、これがオンラインに変わると調剤薬局に与える影響は大きい。
処方薬の服用指導は、患者の症状によってオンラインと対面を切り替えていく必要もあるため、地域の調剤薬局が消滅してしまうわけではないが、デジタル対応への投資や人材育成ができない薬局は次第に淘汰され、M&Aによる業界再編が起きることが予測されている。厚生労働省でも、今後の薬局、薬剤師に求められるデジタル対応として、以下の項目を挙げている。
《薬局、薬剤師に求められるデジタル対応》
○電子処方箋への対応
○患者薬歴システムの導入
○電子版お薬手帳アプリの導入
○マイナポータルAPI連携
○オンライン服薬指導の導入
【処方薬宅配サービスの開発視点】
コロナ禍を転機として日本国内でも処方薬の宅配サービスが開発されている。 凸版印刷(7911)の100%子会社である、おかぴファーマシーシステムが立ち上げた「とどくすり」は、厚生労働省がコロナ感染対策として認めたオンライン服用指導の特例に基づき、2020年3月から開始されたサービスである。
医療機関や診察を受けた患者が、医療機関経由で処方箋を「とどくすり」にファックスしてもらうか、患者が処方箋の写真を撮ってWebから申し込みをすると、とどくすりが提携している薬局の薬剤師がビデオ通話等で服用指導をした後、薬が自宅に宅配される仕組みになっている。※処方箋の原本は郵送する必要あり。
このサービスと、各クリニックが提供しているオンライン診療サービスを併用すると、完全在宅のまま、オンライン診察を受けて必要な薬を届けてもらうことができる。いまのところ、とどくすりの手数料や送料は無料で、薬の代金のみで利用することができる。
オンライン診療を受けられるクリニックは、大半の診療科目で全国的に増えており、「LINEドクター」のサイトでは、LINEアプリに対応したクリニックを検索して、診療日時の予約からビデオ診療までをLINE上で行うことができる。たとえば、花粉症の症状が辛いが、仕事で通院する時間なかなか取れないというケースでは、オンライン診療→薬の宅配サービスを利用する人が増えている。LINEドクターは、LINEと医療情報サービスのエムスリーとの共同出資により行われている。
コロナ禍では、特例として電話等によるオンライン服用指導が認められたことと、薬剤の配送料を国が補助する制度(配送料から100円を差し引いた額)が設けられたことから、処方薬の宅配サービスが実現した。この制度の通達は2020年4月10日に行われたことから「0410対応」と呼ばれている。厚生労働省の調査では、0410対応でオンライン服用指導が行われた件数は、2020年5月~2021年8月にかけて36万件、処方箋の総枚数に対して0.3~0.6%の割合となっている。
2022年3月の薬機法改正では、オンライン服用指導の通信方法として電話(音声のみ)が不可となり、映像と音声による通信(ビデオ通話)に統一されることになった。薬の送料(500円程度)についても、今後は患者側が負担することになるが、「薬を宅配して欲しい」というニーズは、一定数は残ることが見込まれている。
2022年3月の薬機法改正では、オンライン服用指導の通信方法として電話(音声のみ)が不可となり、映像と音声による通信(ビデオ通話)に統一されることになった。薬の送料(500円程度)についても、今後は患者側が負担することになるが、「薬を宅配して欲しい」というニーズは、一定数は残ることが見込まれている。そこに向けては、イオンのように異業種から処方薬の宅配サービスに参入する企業も出てきている。
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