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予測不能な変化に立ち向かう4原則

 コロナ禍は我々に社会は予測不能であることを強く認識させた。実際には、感染症がなくても、この世の中は予測不能であったのである。従って、この予測不能な変化にいかに向き合うかが、企業の存続を決める問題なのである。

 予測不能な変化に立ち向かうには、以下の4つの原則に従うことが必要になる。

 第1の原則 実験と学習を繰り返す
 第2の原則 目的にこだわり、手段にはこだわらない
 第3の原則 自己完結的な機動力を持つ
 第4の原則 前向きな人づくりに投資する

これを以下に一つずつ説明したい。

 実験と学習

 予測不能な変化に立ち向かう第1の原則は、「実験と学習」である。すなわち「やってみて、そこから学ぶ」ということである。そして、これを繰り返して、人も組織も進化し、成長していくのである。
 常に変化している状況では、過去の成功パターンを繰り返すのは危険である。欲しいものは人ごとに異なるし、同じ人でも、明日は違うものを欲している。このような多様で変化する需要には、頭で考えても、会議室で議論しても、やってみないとわからないことばかりである。それを過去の成功パターンにこだわって、やってみないのは、ただの怠慢である。野球に喩えれば、バッターボックスに立たずに、ベンチで作戦会議だけを行っていても勝てないということである。
 今後も、ルール、計画、標準化/横展開、そして内部統制は、もちろんなくならないし、なくすべきでもない。重要なのは、これらが存在することを前提に、これらのマイナス面を、実験と学習を通して無力化することである。
 予測不能な変化を前提にし、仕事の成果を出していくには、必然的に、ルールを廃棄したり、上書きすることが必要になる。計画を廃棄したり、上書きすることが必要になる。標準化した業務を廃棄し、新たに定義することが必要になる。
 逆に言えば、ルール、計画、標準化された業務の廃棄や見直しが、高頻度で行われていない組織では、まず間違いなく、重要な変化を無視し、その結果、成果よりルールや計画や業務の標準化が優先されているとみていい。
 ただし、既存の組織でルール・計画・標準化した業務の廃棄や見直しを行うのは大きな抵抗がある。従ってルールとの闘いに多大なエネルギーを取られることを覚悟する必要がある。これからの組織において、いい仕事をするには、これを避けるわけにはいかない。むしろ、これからのいい仕事とは、日々ルールや計画と闘うことである。

 上位目的へのこだわり

 この実験と学習を繰り返すには、その前提として、目的が必要である。
 従って、予測不能な変化に立ち向かう第2の原則は、目的にコミットし、その実現のための手段は柔軟に変えられるようにしておくことである。
 ここで、手段を状況にあわせて柔軟に変えるために、「実験と学習」が必要なのである。そして、「実験と学習」を続けるには、目的と大義が必要である。一貫した上位の目的があるからこそ、仮に先が見えにくくとも、実験と学習を通して、道を見出し、前進できるのである。変化の中で、手段にこだわるのは、立場を弱くするので、これを避けなければならない。

 個人的には、私は過去に大きな変化を経験したことがある。私は、会社に入って20年ほどは半導体の研究開発を担当した。ところが、務めている会社(日立)が半導体事業から撤退することになった。会社の半導体事業は20年間、技術としてもビジネスとしても世界を引っ張る立場にあった。私もその一員として世界を股にかけて毎日楽しく仕事をしていた。それがわりと短期間のうちに、ナンバーワンの地位から転落どころか、撤退ということになった。でも、こうした例は別に珍しいものではない。未来はもともと不確実で、人生だってビジネスだって先は読めないものなのである。
 そうした変化に対して強い人と弱い人、あるいは、強い企業と、弱い企業がある。両者を分けるのは何か、は大変重要なポイントである。
 変化が起きた時にまずうまくいかなくなるのは、変化する前の状況に合わせた「手段」にこだわってしている場合である。状況が変化すると最適な手段は大きく変化する。それなのに、その手段にしがみついているのは、衰退が約束されたようなものである。
 逆に変化を前にしても影響を受けないのは、簡単には変わらないような「目的」の達成にコミットしており、手段については柔軟性をもっている場合である。コミットしているのは「目的」だから、状況に応じて「手段」は変わっても構わない。そう言い切れれば、コロナがあろうとなかろうと、AI時代が来ようと来まいと関係ないのである。
 私の場合は20年間、心血を注いできた分野やスキルなどの手段が一夜にして無になり(後から思うと、実は無にはなっておらず大部分がその後に活用できたのだが)使えなくなることを経験した。
 半導体は、コンピュータの部品であり、コンピュータを高性能化、小型化する手段である。さらにそのコンピュータも、ユーザーに様々な情報サービスを提供する手段である。
 もし、半導体という手段ではなく、その目的であるコンピュータの高性能化にコミットしていたら、変化には強かったはずである。さらに、コンピュータという手段を越えて、その目的である情報サービスやエンドユーザーの価値にコミットしていたら、さらに変化に強かったはずである。変化の渦中にあって、こんなことを考えたのである。

 実は、もっと遡って大学時代にも別の経験をしている。私はジャズサークルに在籍していて、その中でもそれなりに活躍するサックス奏者だった。ところがある時、自分では全然敵わない後輩が新人として入ってきて、「ああ、いくらサックスを上手に吹くことを追求したところで、もっと上手な人が出てきたら価値がなくなるんだ」と気づかされた。
 しかしもし、いい音楽を届けて人を感動させることが自分の役割だと思っており、その実現手段については、状況にあわせ柔軟に変えることを前提にしていれば、誰が入ってこようとも、手段が変わるだけで、自分の価値は変わらなかったはずである。けれども、当時の私はサックスを上手く吹くという手段にこだわっていた。
 こうしたいくつかの経験により、私は「手段にこだわることは、変化に対して弱くなる」ことを学んだのである。そこで、これからは手段ではなく目的に、しかも、できるだけより上位の目的にコミットしようと考えるようになったのだ。

 そこで、どんな変化にも揺るがない最も上位の目的とはなんだろうか、と考えた。それが「幸せ」である。古代ギリシャ時代にアリストテレスは、その価値について、なんの説明もいらない唯一のもの、すべての活動の目的、それこそが幸せと論じた。「幸せのためにお金がほしいという文章はあるが、お金のために幸せがほしいとは言わない。したがって幸せの方が上位である」と、『ニコマコス倫理学』というアリストテレスの有名な幸せの本に書かれてある。つまり、最も揺るがない上位の目的、それを人類は「幸せ」と呼んでいるのである。
 半導体事業が撤退となった後、今度はディスプレイだ、ハードディスクだとやっていたら、おそらくは何年後かにまた、同じように世の中の変化に翻弄されていただろうと思う。私はそうではなく、自分が心血注いだことが世の中に一貫して役に立つ状態を作りたかった。そのためには、より上位の目的からスタートする必要があるし、そのためのスキルやナレッジを持ち、チームを作っていく必要があると考えたのである。この予測不能変化に最も強い目的はこの意味で幸せである。

 自己完結的な機動力を持たせる

 第1、第2の原則に沿うと、大きな目的にこだわり、学習と実験を繰り返して、柔軟に手段を変えることになる。これが組織において可能なためには、この実験と学習の判断ができる組織構造や判断権限が必要である。
 予測不能な変化に立ち向かう第3の原則は、組織に自己完結的な機動性を持たせることである。
 米国には、陸軍、海軍、空軍の三軍の他に、「海兵隊」が存在する。この海兵隊とは、上陸作戦の専門部隊である。上陸作戦を成功させるには、状況変化に適応し、柔軟に、その時に必要なあらゆる手段を投入する必要がある。航空機で敵の後ろ側に回り込むことも必要だし、海からの砲撃も必要だし、陸上部隊による奇襲も必要である。これらを機動的に組合せ、統合的な判断を行い、しかも状況に適応して即興的に変更する必要がある。
 このために、海兵隊は、陸軍、海軍、空軍のすべての要素を合わせ持ち、しかも、これらを統合して指揮する組織になっている。
 陸海空の三軍が協力すれば論理的には同等なことができそうに思える。そんなことはないから海兵隊が存在しているのだ。予測不能に状況変化する上陸作戦の現場では、陸海空の三軍がそれぞれの思惑を持ちながら調整していては、間に合わないだけでなく、判断がぶれる。
 海兵隊という統一的な指揮命令系統をもつことで、これらの異なる機能を統合できる。ある種の自己完結性が機動性が実現されるのである。
 この自己完結性と機動性こそが上陸作戦において最も重要な能力だから、米軍には海兵隊が存在しているのである。
 実は、予測不能な変化の中では、企業でも人生でも、この上陸作戦のような状態が常態化する。毎日が上陸作戦になるということである。

 事業活動における陸海空の三軍にあたるのは、マーケティング(M)、イノベーション(I)、デリバリー(D)の3つの機能(MID)である。マーケティングとは顧客が誰で、顧客の価値は何かを見出すことである。イノベーションとは、顧客の応えられていない要求に応える手段を確立することである。そして、デリバリーとは、これを納期や品質やコストなどを適性にして顧客にとどけることである。加えて、顧客からフィードバックに対し、これを再度マーケティング、イノベーション、デリバリーに反映することである。これにより変化に適応できるのである。
 予測不能に変化する状況では、いくら調査や研究をしても、顧客に提供してみないとその真価は分からないことが多い。このマーケティング・イノベーション・デリバリーのMIDサイクルが高速に回ることによって、状況変化に適応する力が生まれる。
 逆に、このMIDサイクルを高速に回すことができれば、予測不能な変化の中では圧倒的に有利である。
 ところが、企業の中では、通常、この3つの機能は別の部門になっている。いわゆる縦割り、あるいはサイロ化によって、機動力がもてない場合がほとんどである。日々、上陸作戦のように機動性を求められるのに、いちいち、これらの3つの部門間での調整が必要になるのが実情である。
 これを解決する仕組みとして従来、多様な機能部門から人材を集めたクロスファンクショナルなプロジェクトチームが結成されてきた。しかし、これは残念ながらうまくいかない。これらの機能部門の人材を、統括し指揮する権限がプロジェクトリーダーには普通与えられないためである。
 例えば、新しい人工知能のアイデアを事業化することを考えよう。プロジェクトチームには、事業部門出身のプロジェクトリーダー、開発元からの研究者、営業部門からのフロント人材などが参画する。プロジェクトリーダーは、他の部門からの出身者に対する人事権はない。従って、人を選べないので、適切な人材が参加させられない。さらに出身元の事情で、望まないのに人の交代が起きる。実際、筆者が参画した新事業プロジェクトでは、優秀な人材ほど、やっと慣れて戦力になったころに交代になることが多かった。これだけでプロジェクトの失敗は約束されたようなものである。
 この事業部門、研究部門、営業部門のレポートラインを上にたどれば、社長で交わる。従って、社長がリーダーになれば、この権限に関する問題は解消する。しかし、まだ売上もない新技術の事業化プロジェクトをある程度の規模の社長がリーダーシップをとることはない。
 唯一ありうるのは、社長から命を受けたプロジェクトリーダーが、社長の強いバックアップ下でチームをマネージすることであろう。しかし、これでも、チームメンバーにはそれぞれ出身部隊に上司がいる。メンバーからみると、プロジェクトリーダーの指示と、上司の指示のどちらを聞くのかが常に迫られることになる。そして、両者の優先度は重要な問題であればあるほど異なるのである。
 したがって、この事業化がうまくいくには、プロジェクトチームという過渡的な組織ではなく、専任で社長直下の組織として推進する以外にうまくいく道はないということになる。社長は一人しかいない。従って、機動性をもったこのような組織は、社長が直接みられる限られた数に制限されることになる。
 従って、従来の機能別の組織を壊さない限り、予測不能に立ち向かう組織は実現できない。このためには、必要な機能をクロスファンクショナルに集結し、リーダーを中心にチームが、独立行政区のように、迅速果敢な判断が可能な組織にするという大手術が必要になる。
 
 前向きな人づくりに投資する
 
 以上の第1、第2、第3の原則をまとめると、予測不能な変化に立ち向かうには、大きな目的にこだわり、先が見えなくとも前向きに実験と学習の繰り返しによって、道を見つけ前進することが必要であり、これを可能にするには、当事者が自己完結的に機動的判断ができなければいけない。
 そしてこれには、当然お金がかかる。従って、予測不能な変化に立ち向かう第4の原則は、この投資を積極的に行うことである。すなわち、前向きな人づくりに投資することである。
 この第4の原則は、現実にはほとんど行われていない。
 従来、企業における投資判断においては、投資によって獲得した資産が、どれだけの財務的なリターンを生むかを問題にする。ここで、投資によって獲得した資産とは、例えば、製造業であれば、工場や製造装置である。サービス業では、店舗やサービス拠点やソフトウエアなどが代表となる。
 ところが、この予測不能な変化に立ち向かうための投資では、状況が全く異なる。投資によって獲得できるのは、「人の経験」や「人の成長」であり、その投資がなければ存在しなかった、より高度や判断ができる人(あるいは人たち)という資産である。しかも、困難に立ち向かってきた経験によって、先の見えない重要課題に対し、前向きに道を見つけることのできる人である(これを「心の資本」とよぶ)。
 もちろん、この実験と学習を通して覚醒し成長した人たちは、財務的なリターンを生む極めて重要な資産である。このような人を生み出すのが、「前向きな人づくりへの投資」である。
 しかし、従来型の判断では、この投資を普通は認めない。従来型の投資判断で、投資によって獲得する資産として想定するのは、工場やサービス拠点などのモノやハコの資産(いわるる有形資産)であり、さらに、ソフトウエアやプロダクトの設計図や知的財産権(特許や商標等)などの無形資産である。そして、これらが、どれほど財務的なリターンを生むかを判断するのが投資判断と考えるのが一般的である。
 上記の「人づくりに投資をする」ことで生まれる資産としての「人の成長」は、上記の有形資産でなないだけでなく、無形資産にも通常含めない。投資判断の前提となる、生み出される資産がないことになるのである。少なくとも、この学習と実験を通した人の成長や経験は、あいまい過ぎて、投資判断の対象にはならないのである。従って、このような投資は現実には行われない。
 変化の下で答の明らかでない企業の重要課題に対して、より高度な判断や創造ができる人を作ることの、企業にとっての重要性は疑いようがない。ある意味で最も重要なことかもしれない。しかし、これを可能にする仕組みが通常の企業にはないのである。
 経営者はたびたび「人こそが企業の資産」というような発言をする。しかし、実際の企業活動では、人という最重要な資産のための投資はできないのである。
 これこそが、日本が停滞した大きな理由である。
 
 予測不能な変化に立ち向かうには、この4つの原則を、既存の企業の中に認めさせ、本来の仕事ができるようにする必要がある。
 どう考えても、これは楽ではない。
 予測不能な時代への適応がうまくいくためには、前提としてまず、この「楽ではない」ことに常に前向きであることが必要なのである。
 これが可能なのは、「持続的に幸せな人」である。そのような人は「心の資本」が豊かと呼ばれる。ここでいう幸せは、単に笑顔で喜んでいるという人ではない(ただし、笑顔も喜びももちろん重要だ)。変化に前向きにポジティブに立ち向かえる人である。


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AIと人間社会行動や幸せについて研究しています。これがAIと合わさって大きなな変化をもたらすと考えています。著書『データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』http://amzn.to/1mgfZHF http://bit.ly/Unmhs6

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