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前期比年率という「煽り」~GDP報道~

日米欧三極の成長率をおさらい
11月は日米欧三極の7~9月期(以下Q3)実質GDP成長率が出揃いました。いずれの国・地域もロックダウンを経験し深く沈みこんだ4~6月期(以下Q2)からのジャンプアップが取り沙汰されており、例えば日本のQ3成長率は約52年ぶりの成長率とのヘッドラインが踊りました。半世紀ぶりの上昇率ということで驚いた方も多かったと思います:

しかし、筆者は今年のQ2やQ3のような「特殊な時期」を前期比年率換算で派手に見せようとする風潮には強い違和感を覚えます。前期比年率は文字通り瞬間風速に過ぎません。あくまで「このまま走ればこの仕上がりになる」という計数であり、尺度としては平時に使うことが推奨されるものに思います。いや、平時であっても「ある四半期で実現した成長率」がその後の3四半期通じて横ばいで推移することは稀だと思いますので、相応に慎重な取り扱いが必要になる尺度かと思います。数字が派手になることからメディアのヘッドラインでは前期比年率が好まれやすいのでしょうが、現状を過大ないし過小評価しかねないので積極的に使うべきではないように感じます。

客観的に「Q2に負った深手がQ3にどれくらい回復したのか」を知りたければ単純に前期比で見れば良い話です。とはいえ、各種報道は基本的に前期比年率を使用していることから、多くの人々にとって「見慣れた実績」は前期比年率ということになるのでしょう。適切ではないと感じつつ、下図では日米欧のQ2およびQ3の実質GDP成長率に関し前期比年率とその差について示してみました:

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Q2の急落も、Q3の急騰もユーロ圏が最も大きいものです。結果として算出される「取り戻した幅(Q3-Q2)」もユーロ圏が頭1つ抜け出ており、こうした成長率の相対的な高さが堅調なユーロ相場に寄与している可能性はあるかもしれません。一方、日本は欧米対比で感染状況が抑制されていたにも拘わらず、成長率の戻しが一番小さい国になってしまいました。直感的には非常に勿体ないという印象を受けます。

結局は「前年割れ」であることに目を向けるべき
しかし、あくまで上述は前期比の議論です。Q2の急落もQ3の急騰も想定された展開であり、その情報に大きな付加価値はないでしょう。それよりも多くの人々が関心を抱くのは「コロナ以前の実体経済にはいつ戻れそうなのか」という点ではないかと思います。その意味では季節調整前(原系列)の数値を用いて素直に前年比で見た方がコロナ前と比較したダメージ、そして正常化までの距離感は掴みやすいと思われます。下図に示されるように、Q2もQ3も前年割れであることに変わりはありません:

タイトルなし2

この点、過去半年間で騒いだ急落や急騰は所詮、(前年と比較した)水面下での出来事だったという解釈もできます。以下の記事はそのような視点も捉えております:


かかる状況下、10~12月期(Q4)以降、あらゆる政策効果が出尽くした上で迎える冬場の本格的な感染拡大をどう乗り切るかという状況が今です。既に欧州ではロックダウン再導入の流れが始まっていますが、春先のような経済活動の全面停止という判断には至っていません。実体経済の前年割れが常態化している以上、完全な活動制限は不可逆的なダメージを与える政策として忌避されるのでしょう。

ワクチン報道が矢継ぎ早に打ち込まれる中、これをゲームチェンジャーとしてアフターコロナを囃し立てる動きは今後増えてくるはずです。前期年率で見た高い成長率はそうした機運をさらに後押しするはずです。しかし、本当に自信を持ってアフターコロナと言えるような局面では前年比で見た成長率が恒常的にプラスに転じているものだと思います。前年比で見たGDPの成長率のプラス転化などをアフターコロナの兆候の1つとしてウォッチしておきたいと考えています。

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