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「大人の半分はお酒を飲まない」という飲食店にとっての「不都合な真実」

お酒を習慣的に飲む人は何パーセント?

今回は「お酒」について、少し考えてみたいと思います(このnoteではお酒を取り上げることが多いのは…おそらく気のせいです)。以前は「若者のアルコール離れ」というフレーズをよく耳にしましたが、最近あまり聞かなくなったような気がします。もうそんなものは当たり前になったということでしょうか。

そもそも日本において、習慣的にお酒を飲んでいる人の比率はどの程度だと思いますか? 人口の半分くらい? いやそれよりもっと少ない? ちょっと考えてみてください。

考えていただく間に「習慣的にお酒を飲んでいる人」の定義をご紹介します。厚生労働省の国民健康・栄養調査では「週に3回以上飲酒し、1日あたり日本酒換算で1合以上を飲酒する者」と定められています。頻度は週に3回ですから、2日に1日。確かにそれは飲酒の習慣があると言えそうです。

そして量は、1日あたり日本酒1合(180ml)以上とされています。日本酒のアルコール度数は15%程度ですから、単純に計算するとアルコール量は27mlくらい。これはビールであれば500mlのロング缶1本(あるいは中瓶1本)、ワインであればワイングラス1杯半といったところです。ちなみに、近年存在感を増しているアルコール度数9%のチューハイの場合、350ml缶であってもこの量は突破してしまいます。

では、そんな「習慣的にお酒を飲んでいる人」の比率ですが、正解は大人全体の「20.5%」です(2019年データ)。改めてこの数字を見たときに「え、そんなに少ないの?」と私は感じてしまいました。「週3日」という頻度はちょっと常習的かなと思わなくもないですが、それでも「5人に1人」しかいないんですね。

以下のように、年代別で見てみると、想像通り若い世代ほどその比率は低くなっています。20代で飲酒習慣を持つ人はなんと7.8%、すなわち「13人に1人」しかいないのです。

20代:7.8%
30代:17.2%
40代:25.2%
50代:28.1%
60代:26.8%
70代以上:14.2%

ちなみに、10年前のデータも見てみましたが、20代の比率は8.7%ですので、この10年で大きく構造が変わっているわけではなさそうです。

「ソバー・キュリアス」という風潮

さらに、そのデータをもう少し深堀りしてみましょう。「どのくらいの頻度で飲むか?」という質問に対しては、「毎日」「週5~6日」などの選択肢がありますが、その中に「ほとんど飲まない」「やめた」「飲めない」というものがあります。同じく2019年の資料を見てみると、以下の比率です。

ほとんど飲まない:15.9%
やめた:2.0%
飲めない:37.2%

この3つを合算すると55.1%ですから、(若者に限らず)大人の半数以上は「お酒を飲まない」ということがわかります。ここで注目してみたいのは「ほとんど飲まない」(+「やめた」)人たちです。この人たちは体質的にはお酒を飲めるのに、「飲まない」という選択をしているのです(「やめた」人には、体を壊して飲めなくなった人も含まれているとは思いますが)。

皆さんは「ソバー・キュリアス(Sober Curious)」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。ミレニアル世代を中心にアメリカで進みつつある動きとして紹介されますが、「ソバー(Sober)」とは「しらふ」を、「キュリアス(Curious)」は「興味がある/~したがる」を意味しますので、要するに「しらふでいようとすること」です。

その理由は様々でしょう。健康を大事にしたいから、自分の理性をコントロールしたいから、ウェルビーイングを重視しているから、ダイエットしているから、仕事のパフォーマンスを上げたいから、などなど、お酒を飲まない理由は人によってまちまちです。ただし共通しているのは、結果として「意図的にお酒を飲まないこと」。

こうした動きは日本でも浸透しつつあるのを感じます。若い世代はもちろんですが、私の周りのビジネスパーソンでも「卒アル」をした人が結構な数で存在します。「もう散々お酒は飲んだ。これからは健康を大事にしつつ、そして万全の体調で仕事に向き合いたいんだよね」と彼らは言います。

「仕事は一緒に飲んでなんぼ」「飲みニケーションが大事」と思っている人には理解しがたいことかもしれませんが、こうした「あえて飲まない人」が一定数いるのも現実です。

上記の記事に出てくるレオス・キャピタルワークスの藤野英人さんの著書「ゲコノミクス」は、お酒を飲めない人(下戸・ゲコ)に焦点を当てた、とても面白い一冊です。

「ゲコ」に寄り添う大切さ

私が身を置く飲食店の世界、中でも夜にお酒を飲むことを前提としているお店の関係者にとっては、「習慣的飲酒者はわずか5人に1人。お酒を飲む人は2人に1人」というのは、ほとんど目に入っていない「不都合な真実」です。

居酒屋やワインバルなどの「飲み屋」はもちろん、ある程度高級なレストランであっても、経営者やスタッフはお客さんにお酒を飲んでもらうことは当たり前と感じていて、経営的にはそれによって単価を上げていくことに意識が向いているのです。

するとお酒のメニュー数は増えていくのに対して、飲まない・飲めない人向けのノンアルコールドリンクは手薄になります。用意するのは、ウーロン茶に炭酸飲料やオレンジジュース、良くて有名ブランドの炭酸水といったところでしょうか。しかし、それではせっかく外食で美味しい料理に合わせて飲み物を楽しみたいと思っても、飲まない人の願いが叶えられているとは到底言えません。

しかし、上記の藤野さんも著書で熱く語っていますが、店側が魅力的なノンアルコールドリンクをきちんと用意すれば、それを注文してくれるお客様はそれなりにいるはずなのです。それによって飲まないお客様の満足度を上げられるだけでなく、やり方によってはその人たちの単価アップにも繋がるわけですから、商売としてやらない手はありません。

私の友人が経営する「高太郎」(東京・渋谷)という居酒屋があります。居酒屋といっても、決して安い店ではありませんが、それでも比較的最近まではノンアルコールドリンクには力を入れてきませんでした。しかし、飲みたいわけでもないのにウーロン茶を頼むお客様を見て、やはり何か用意すべきだと考えるようになったようです。

それから店のスタッフは和食に合う冷たいドリンクを探し始め、「ブレンド紅茶の水出し」に行き着きました。ダージリンやセイロンなどの紅茶に果物や花をあわせたものが、自分たちの料理と相性が良さそうだと考え、それをメニューとして提供し始めたのです。すると、お酒を飲まないお客様の多くが興味を持ってくれて、実際に料理と合わせながら楽しんでいるようです。

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(写真提供:高太郎)

飲む人と飲まない人が対等な世界へ

最近のアッパーなレストランでは、コース料理にあわせて「ペアリング」と呼ばれるドリンクコースを提供することが一般的です。「この料理には、このワイン」というわけです。ペアリングでは「ノンアルコール」を打ち出す店も多く、「ティーペアリング」と言って、お茶を基調としたノンアルコールドリンクを出すところもしばしば見受けられます。

私は先日、「sio」という東京・代々木上原のレストランにうかがったのですが、同店も以前からペアリングが評判です。ここで印象的なことがありました。一緒に行った妻は体質的にお酒が飲めないのですが、せっかくだからとノンアルコールの「ティーペアリング」を注文しました。私はお酒好きですから、当然ワインのペアリングです。

すると、すべての料理に対して「ワイン」と「ノンアルコールドリンク」を“同じグラス”で提供してくれたのです。お茶の煎れ方やあわせる素材(フルーツやスパイスなど多種多様)が特徴的なノンアルコールドリンクを、私のワインと同じ美しいワイングラスで次々と出してくれました。そのスタイルからは「お酒を飲む人も飲まない人も、同じように料理と一緒に飲み物を楽しんで欲しい」という店側のメッセージを感じました。

ちなみに同店のワインペアリングとノンアルコールのティーペアリングの料金が同一というのも、その姿勢の現れだと思います。酒飲みはとかくお酒を優位に置きがちですが、ノンアルコールドリンクのクリエイティビティやそれをつくる労力を考えれば、酒の下に置く必要はありません。結果的に、お酒を飲む人と飲まない人がまったく対等にある心地良さがそこにはありました。

あらゆる領域で「不可解な優劣の関係」が取り払われる時代です。食の世界でも、なぜか「お酒」というものはこれまで特別なもののように扱われてきましたが、今こそそうした呪縛からは解き放たれるべきだと思います。飲食店は「お酒を飲まない人が大半」という「不都合な真実」に目を向けて、そうした人たちをしっかりと取り込んでいくことこそが、飲食店の裾野を広げ、結果的に自らのビジネスにもプラスに働くに違いありません。

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食べ物・飲み物まわりのプロデューサー。(株)カゲン代表取締役。飲食店や商業施設のプロデュース、食品飲料の企画開発、飲食ビジネスのスクール主宰、執筆・講演など、「食」のフィールドであれやこれや。著書に『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』(ともに新潮新書)。