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多様なプレイヤーの存在こそ健全な市場の証

以下の記事で取り上げられている調査研究では日本最大の公的年金基金であるGPIFが重要なESG要因を特定し、それを公表することを推奨しています。

確かに一見すると日本のESG投資業界にとって有用であるかのようです。重要なESG要因というのは企業の財務諸表に影響の大きいESG要因で、それを特定し、適切な管理を行っている企業に投資すれば、リターンを上げやすいはずです。

また重要なESG要因の特定をアセットオーナーであるGPIFが行うというのも有意義に見えます。アセットオーナーとはこの場合年金受給者の資金を管理している団体で、アセットオーナーの指示を基に、複数の運用会社が実際の運用を行います。アセットオーナーが重要なESG要因の特定を行えば、それぞれの運用会社が同様の作業を行う必要がなくなり、そこにかけるコストが業界全体で大きく低減できるはずです。

しかしこれには複数のリスクが伴うと考えています。最大のものはGPIFという巨大な年金基金が重要なESG要因を特定することにより、その結果を国内の他のアセットオーナーが流用することで、株式市場の大きな波乱要因となる可能性があることです。これまでもGPIF以外のアセットオーナーはGPIFを範として行動する傾向がありました。例えばGPIFが国内債券への投資比率を下げ、国内株式の投資比率を引き上げた際には、他のアセットオーナーもそれに倣いました。重要なESG要因の特定でもGPIFの公表内容を金科玉条として他のアセットオーナーがGPIFに追随することにより、特定の企業の株価が急騰したり、急落したりする可能性が出てきます。

ESG要因は基本長期的な企業価値に影響を及ぼすものですが、株式市場の反応はそうではありません。GPIFが良かれと考え、重要なESG要因の特定を行い公表したとしても、それが株式市場でのバブル的な動きにつながる可能性があるのであれば、必ずしも良いとは言えません。バブルを引き起こしたと噂されて、年金受給者たる国民からのレピュテーションが悪化するという事態はGPIFも避けたいはずです。

これを回避するにはGPIFのアセットオーナーもそれぞれが重要なESG要因の特定を行う必要がありますが、その前提としてESG投資に関わる人員を揃え、かつ特定を行えるように知見を蓄積する必要があるでしょう。


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黒田 一賢(株式会社日本総合研究所 スペシャリスト)

日本サステナブル投資フォーラム運営委員 青山学院大学非常勤講師 近著に『ビジネスパーソンのためのESGの教科書 英国の戦略に学べ』 ※執筆者の個人的見解であり、日本総合研究所の公式見解を示すものではありません。

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