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カバーデザインはこうして決まった(1)『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』編集つぶやき

こんにちは、『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』の担当編集者、中川ヒロミです。『ファクトフルネス』の判型(本のサイズ)について前回書きました。https://comemo.nikkei.com/n/nf551eedddb47 今回はカバーデザインを決めた過程をご紹介します。

本にとっていちばん大事なのは、当然ながら中身です。でも、同じくらい大事なのが、「装丁」(そうてい)です。装丁というのは、本のカバー、帯、本表紙など本の外側のデザインのこと。装丁を専門にする「装丁家」という職業の方々がいます。

装丁が良ければ本が売れるわけではないけれど、装丁が残念で売れない本はたくさんあります。中身がすばらしい『FACTFULNESS』(ファクトフルネス)の装丁はそりゃもういいものにしなくては、と担当編集者の私は意気込みながらも、悩ましい日々を過ごしたのです。

装丁家さんを決める

編集者の仕事のひとつが、依頼する装丁家を決めること。日本には素敵な装丁家さんがたくさんいらっしゃいます。イラスト使いが上手い方、写真使いがうまい方などなど個性があり、「今度の本はどの装丁家さんにお願いしようかな」と考えるのも、編集者の楽しみです。

ファクトフルネスは、「FACTFULNESS」というタイトルを変えないでほしいという著者側の要望がありました。タイトルはもうこれで行くしかありません。イラストや写真も使いにくい。文字だけでビシッとした装丁にしてくれる装丁家さんということで、tobufuneの小口さんにお願いすることにしました。

小口さんにはこれまでも、私が担当した『HARD THINGS』『OKR』『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』(全部横文字ばっかりやん!)などをお願いしてきました。

本の魅力をうまく説明できない……

さて2018年11月の初旬、tobufuneのオフィスに打ち合わせに向かいました。その時に持って行ったのが、こんなテキストです。このテキストをもとに、どんな装丁にしてもらいたいか、伝えていきます。

tobufuneに渡したテキスト。上杉さんの名前を間違う(ごめんなさい!)、現在のコピーとちょっと違います。

ところが私、ファクトフルネスに関してはどうもうまいこと説明できなかったんです。

「この本のテーマは、世界の貧困、教育、人口増加、エネルギー、経済など、ちょっと難しい。でも、読むと、知らず知らず人間の本能によって世界を悪く見ていることに気づいてハッとさせらるんですよ。それに著者のハンス・ロスリングさんはチャーミングで素敵。それにビル・ゲイツがこの本をめちゃくちゃ気に入って、今年大学を卒業する人を対象に、希望すれば自腹で電子書籍を配ってるんです」

こんなふうに内容を説明はするけれど、この本の面白さをどうも十分に伝え切れていない。それに装丁家さんはクールで聡明な方が多く、小口さんも「なるほど、ビル・ゲイツが配布までするというのはすごいですね」と的確ながらも冷静な反応です。

普段は私、装丁のコンセプトをばしっと説明するほうだと思っていました。例えば小口さんにデザインしてもらった『HARD THINGS』のときは、「日本の若い起業家のみなさんが、苦労することがかっこいいんだと思えるような、かっこいい装丁にしてください」といった感じです。ところが『ファクトフルネス』は、「自分が本能にとらわれているとわかってハッとするけど、世界が良くなっているとわかって癒される」というコンセプトが、読んでない人にはわかりにくい(と私は思っていた)。これを装丁で伝えられるのだろうか? うーん、どうもうまく説明できなかったのです。

だいたい編集者に「読者にこう感じてもらいたい」というコンセプトがないと、いくらすごい装丁家にお願いしても、ビシッとした装丁ができないものです。新米書籍編集者のとき、立派な装丁家さんから届いたデザイン案がどれも良くなかったと嘆いていた私に、当時同じ編集部にいた先輩の柳瀬さんがこう言ってくれたんです。

「装丁案がよくないのは全部依頼した編集者の説明が悪いせい。装丁家のせいにするんじゃない」

そりゃそうですよね、どんな本にしたいのかを編集者がちゃんと伝えられなかったら、装丁家だって迷いがでるはずです。

装丁案が5種類届く

ファクトフルネスの話に戻しましょう。私は自分の説明に自信がなかったから、デザイン案が届くまではドキドキしていました。

打ち合わせから約2週間後、小口さんから『ファクトフルネス』の装丁のA〜E案がとうとう送られてきました。以下に私の主観とともにご紹介します(ちなみに小口さん、装丁案を公開してOK、公開するなら5つ全部をと言ってくれました。さすが器が大きい)

A案

統計の本だとひと目でわかり、シャープで素敵。ただ、ちょっと難しく堅い印象を受けるので、著者ハンスさんのチャーミングなノリとはちょっと違う

B案

レンズで覗き込むようなデザインで面白い!でも、ちょっと怖い印象?ファクトフルネスは世界がよくなると「癒される」本なので、ちょっと違うかな

C案

ポップで明るく、サーカス好きな著者のイメージにぴったり。本屋さんでも目立ちそう。ただ、ちょっと文字が多いので削ってみよう。

D案

タイトルがよく目に入るし、洗練されたデザイン。この落ち着いていてロングセラーとして売れそう。ただ、ほかの案と比べるとちょっとおとなしい?

E案
ビジネス書らしいデザインで素敵。ただ、「FULNESS」を途中で改行して「FUL」「NESS」となるので、ちょっと読みにくい?

まあ、好き勝手な感想を並べたててすみません。小口さん、tobufuneのみなさん、ごめんなさい。でも、私はこんな感想を抱いて、ポップで明るいC案と洗練されているD案という2つの案に絞りました。この2案とも素敵で、私の説明がダメでも小口さんがなんとかしてくれたとホッとしました。

思い込みはやめてみんなに聞く

さて、『ファクトフルネス』は思い込みを乗り越えようと書かれた本です。私の思い込みだけで決めちゃいけないと思い、訳者の関さんと上杉さんにC案とD案をSlackで共有し、感想を聞きました。お二人のコメントはこんな感じ。

関さん:D案のほうがあか抜けているけれど、本屋さんではC案のほうが目立つかな。C案の赤のほうが売れそうな気がします(ごちゃごちゃしてはいるけれど、目立つかな・・・・)

上杉さん:ぼくはD案の赤に一票です!

そうそう、まさにC案のほうが目立ちそうなんですが、D案のほうが洗練されているんですよね。うーむ、悩ましい。また私は悩み始め、会社で歩いている人を見かけては、「どっちがいい?」と聞きまくりました。

すると、D案が優勢です。ただ、C案がいいねという人もいる。結局どっちがいいのかわからなくなり、書店営業の人たちと書店員さんにも聞いてもらいました。

す・る・と・・・

圧倒的にD案に軍配が上がりました。
D案のほうがタイトルが読みやすい、スタイリッシュでいいという意見です。書店員さんと書店営業のみんなが圧倒的にD案というなら、そりゃD案ですね! ということで、D案に決めました。

ところが、ここですんなりとは終わりません。私の「あーうー、どっちにしよう」という悩みはまだまだ続きます。

(次回に続く)

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本の編集者。おいしいものが大好きで、忙しくなるとたくさん食べます。担当した本は『FACTFULNESS』『メルカリ』『HARD THINGS』『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』『フェイスブック 若き天才の野望』『電話はなぜつながるのか』など。

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