留守児童対策として整備される学童保育の運営形態と採算
働く女性の増加に伴い、新たな問題として浮上しているのが、子どもを留守宅に残すことへの配慮である。欧米では、法律や条例の中で、子どもだけで留守番させることを禁止するルールが厳格化してきている。就学前の乳幼児を一人にしないのは当然のことだが、小学生についても「両親が働きに出た状態で、一人にしないこと」が常識となりつつある。
ニュージーランドでは、14歳未満の子どもを自宅で留守番させたり、買い物中に車内で数分間だけでも一人にしたりすることは違法として、警察に通報されてしまう。米国でも同様のルールを法制化する州は増えていることから、放課後の子どもを預かる「アフタースクール」への需要が高まっている。
もともとのアフタースクールは、シングルマザー世帯や低所得者層の子どもが、犯罪や非行に巻き込まれることを防ぐ目的で、放課後の時間を安心して過ごせる場所を非営利で提供するものだったが、近年ではSTEM(科学・技術・工学・数学)の早期教育を行う場としても機能し始めている。
米国では、連邦政府が理系大学や公立の研究機関と連携する形で、小学生から中学生向けにSTEMの興味を引き出すカリキュラムを作成して、アフタースクールの運営者向けに提供している。子どもの学習環境として、学校の授業で教えられることは全体の2割程度に過ぎず、残りの8割は、学校から離れた課外活動や遊びの中で習得されている知識だ。裕福な家庭では、英才教育という形で様々な体験を子どもにさせているが、貧富の差に関係なく、子どもの興味関心を育てる場として、アフタースクールのネットワークが全米に広がっている。
以下の映像は、米国特許庁をスポンサーとして、米国内で優秀な特許を取得した発明家達で構成される非営利団体、「National Inventors Hall of Fame:NIHF(全米発明家殿堂)」が、未来の発明家を育てる目的で、アフタースクール向けに提供しているSTEMプログラムの様子である。
世界のアフタースクールに類似するものとして、日本では「学童保育(放課後児童クラブ)」の整備が進めてられている。その数は、2008年は全国で1万7千ヶ所(入所児童数78万人)だったが、2018年には2万3千ヶ所(入所児童数121万人)までに増加している。 これは全国にある保育所の数と同規模である。
背景として、親が仕事で留守になる世帯の子どもが、小学校入学後も放課後の時間を安全に過ごせる場所が求められていることがある。保育園卒園→小学校入学のタイミングで、家庭の生活のパターンは大きく変わるため、親が仕事を辞めたり、働き方を変えなくてはいけなくなるような事態は「小1の壁」と呼ばれて、社会的にも解決が必要な課題になっているのだ。
そのため、従来の学童保育は、小3または4年生までを受け入れ対象としていたが、2015年の児童福祉法改正では、小6生までの受け入れが義務化されるようになり、学童保育は小学生の“新たな居場所”として定着していくことになりそうだ。
学童保育の運営は、地域の自治体、または行政からの委託を受けた社会福祉協議会が行っているケースが5割近くを占めているが、今後は施設の数と質を高めていくことが課題として掲げられていることから、民間業者にとっても参入の商機が見込まれている。ただし、公設施設と同じパイを奪い合う形での市場参入では上手くいかないことが多く、公設施設と共存する形でのビジネスモデルを形成していく必要がある。
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