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オープンソース化する食ビジネスと料理人の師弟関係

木村拓哉が主演するTVドラマ「グランメゾン東京」は、三つ星を目指す高級レストランが舞台になっているが、その中で、主人公の料理人がレシピをライバル店に盗まれても気にしないくだりがある。これと同じ話は、実際のレストラン業界にも数年前から起きている。

従来、料理人の世界には師弟関係があり、師匠の元で何年もの修行をした後に独立する流れになっていた。料理の内容についても、現場で覚えるのが普通で、教科書やマニュアルがあるわけではない。

ところが最近では、ネットで様々な料理の写真やレシピが共有できるようになり、従来のような師弟関係とは違った、新世代の料理人が登場しはじめている。彼らは伝統的なスタイルを、良い意味で崩しながら、斬新な料理を提供しはじめている。欧州で注目されているのは、フランス料理、イタリア料理、スペイン料理、さらに日本料理などが融合した創作料理である。

高級レストラン業界の変革者と言われているのが、1997年にミシュラン三つ星を獲得、2006年から2009年にかけて、4年連続で「世界ベストレストラン50」の第1位を獲得した、スペインのカタルーニャ州に店舗を構えていた「エル・ブジ(El Bulli)」の存在だ。この店は1963年にドイツ人がオープンさせたが、1980年代に若い音楽プロデューサーが新オーナーとして、店を買い取り、当時22歳のフェラン・アドリアという料理人を雇ったことから、伝説がスタートする。

二人は、伝統的なフランス料理に、自分たちのオリジナリティを加えた創作料理を生み出し、「カタルーニャに、今までにない料理を作る若者がいる」という噂が噂を呼ぶようになり、1997年に三ツ星を獲得して以降、世界中から注目されるようになった。店のサイズは約50席で、1人あたり 約3万円の料金設定だが、席数に対して500倍以上の予約が殺到したことから、当時は年間200万件もの予約が入る店、と言われるまでに人気となった。

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■2007年当時のエル・ブジ正面玄関(出所:Wikipedia

エル・ブジの特徴は、独自に開発したレシピを隠そうとするのではなく、他の料理人に教えたり、共有することにより、さらに料理を進化させていったことにある。エル・ブジのレシピ集は本としても多数出版されている他、ドキュメンタリー映画も制作されている。

エル・ブジには将来のシェフを目指して、約35名のスタッフが常時働いていたが、いま世界的に活躍するシェフの中には、「エル・ブジ」の卒業生が多数いる。

エル・ブジの料理が人気になるにつれ、他のレストランも、エル・ブジを真似た料理を作るようになった。 それが「新スペイン料理」としての評判を高めて、カタルーニャ地方には多くの人気レストランがあり、それを目当てに多くの観光客が集まるようになっている。

【エル・ブジが伝える日本料理の魅力】

 エル・ブジのシェフ、フェラン・アドリア氏は、醤油、昆布、しいたけなど、日本の食材を多用していることでも有名だ。食材だけでなく、和紙に仮名文字で書かれた巻き紙のようなメニュー、サービス、空間の使い方など、日本特有のプレゼンテーションひとつひとつに感動し、さまざまなエッセンスを、彼なりに“翻訳”して、エル・ブジの中に落とし込み、創作料理を生み出してきた。

欧州のメディアはこぞって、「エル・ブジと日本食の関係」を報道、紹介して、次第に「醤油」「のり」「みそ」「昆布」「しいたけ」「酒」「みりん」「寿司」「さしみ」など日本の食材が、欧州でプレステージな地位を占めるようになっている。

しかし現地では、日本料理の歴史、文化、正しい食べ方などの情報が不足しており、日本料理が大好きだというスペインの青年が個人で始めた「Comer Japones(コメール・ハポネス)」というブログサイトは、多くのメディアが「日本料理の情報源」として紹介するでになっている。

エル・ブジの成功により、日本料理の人気はスペインで急上昇しており、雑誌、新聞、テレビ、ブログやSNSを通して、さらに日本料理のファンが増えていくというサイクルが出来上がっている。

このようにして世界の料理業界に影響を与えた「エル・ブジ」だが、2011年7月には、新たな探究のために店を閉店させている。フェラン・ アドリア氏は、店のある場所に、料理研究所「El Bulli Foundation」を開設して「料理」を、学術的・科学的なレベルにまで掘り下げて、新たな創作料理を開発していくと同時に、料理人の育成事業を行っている。

これまで、プロの料理技術は、修行を通した師弟関係の中でしか学べない閉鎖的なものであったが、それをオープンにすることで新たな変革を起こし、才能ある料理人の育成や、レストラン経営のスタイルを変えていくことが、これからの業界に求められている。

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