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ソーシャルメディアは、個人投資家の投資パフォーマンスを改善させたのか?:20年分のデータによるエビデンス


個人投資家を巡る環境

 2025年も投資をめぐる情報が、沢山出回っています。NISAの拡充により以前より確実に関心は高まっています。今回は、投資をする際に活用しがちな、ソーシャルメディアは、本当に個人投資家の投資リターンを上げるために有益なのかについて考察します。


個人投資家とソーシャルメディアをめぐる議論

 近年、個人投資家が利用する情報源として、ソーシャルメディアの重要性を増しています。🇺🇸では、Seeking Alphaのようなクラウドソース型プラットフォームが主流で、個人投資家に詳細で深い投資分析を提供する新たなツールとして注目されています。日本においても、Youtube、ミンカブなど多くのメディアが台頭しています。
 しかし、ソーシャルメディアがもたらす影響については議論が分かれます。これまでの理論研究では、ソーシャルメディアが行動バイアスを助長し、古い情報を拡散させる危険性を指摘しています。一方で、特定のプラットフォームが投資価値を生む可能性があることを示しています。答えはどちらでしょうか?今回紹介する下記の研究は、この議論に画期的なエビデンスを提供したものであり、実際のデータを使った研究です。

Farrell, M., Green, T. C., Jame, R., & Markov, S. (2022). The democratization of investment research and the informativeness of retail investor trading. Journal of Financial Economics, 145(3), 616–641. Available at: www.elsevier.com/locate/jfec

研究の概要

この研究では、アメリカで主流の投資ソーシャルメディアSeeking Alphaのデータを用いて検証を行っています。2006年から2017年に公開されたSeeking Alphaの18万件以上のレポートと、それに関連するNYSE TAQデータを用いて分析が行われました。この期間中、4900銘柄を対象に、レポートが個人投資家の取引行動に与える影響について検証しています。主に、次の3つの主要な仮説を検証しています。

  1. 個人投資家の取引行動の変化: Seeking Alphaレポートの公開は、個人投資家の取引強度(取引量や頻度)に顕著な影響を与える。

  2. 情報価値の増加: レポート公開後、個人投資家の取引が株式リターンをより正確に予測する能力を向上させる。

  3. 寄稿者の質と効果: 高品質なレポート(コメント数が多い、寄稿者の学術的背景が強い)が、個人投資家の取引行動により強い情報価値をもたらす。


検証結果

  1. 取引行動の変化: Seeking Alphaのレポート公開後30分間で、個人投資家の取引量が平均7.68%増加しました。

  2. 情報価値の増加: レポート公開直後の公開後の個人投資家の取引は、その後5日間の株式リターンを正確に予測する傾向を示していました。つまり、レポート直後に、個人投資家が買いで動くならば、それはしばらくは株価上昇の方向である可能性が極めて高いということです。しかも、レポート公開後の個人投資家による取引は将来の株式リターンを予測する能力は、レポート公開前と比べて約3倍向上していることが示されました。

  3. 寄稿者の質の影響: 学術的背景が強い寄稿者やコメント数の多いレポートの後では、個人投資家の取引がさらに情報価値を持つことが明らかになりました。

つまり、これらの結果はソーシャルメディアが適切に運用されることで、個人投資家の意思決定を改善しうることを示しています。


まとめ:個人投資家への示唆

 Seeking Alphaのようなソーシャルメディアは、情報を得るための強力なツールとなり得ます。そして、今回の結果から見えたのは、買い推奨・売り推奨についての情報が、このようなソーシャルメディアから出た後は、個人投資家への影響力は大きく、自己実現のように株価形成をする可能性があるということです。こうしたメディアを活用することは、やはり投資リターンを上げるためにも有用のようです。
 ただし、すべての情報が等しく価値があるわけではないため、寄稿者の信頼性やレポートの質を慎重に評価することが重要なのは要注意です。


まとめ:IRやファイナンス分野の仕事をしている人への示唆

 企業のIR担当者にとって、ソーシャルメディアはこれまで以上に個人投資家と直接つながる重要な場となっていることを熟知する必要があるようです。つまり、インフルエンサーと言われるような個人投資家からも、どのように見られているかは、想像以上に影響が大きいということです。こうした人たちに、質の高い情報を積極的に提供することで、投資家の信頼を得るだけでなく、企業価値を高める機会も提供してくれているということでしょう。


Appendix :分析手法

この研究の分析手法は、以下です。

  • イベントスタディ: レポート公開前後の取引量や方向性の変化を30分単位で測定。

  • センチメント分析: レポート内容のトーン(ポジティブ/ネガティブ)と投資家行動の関係を評価。

  • 回帰分析: 個人投資家の取引が将来の株式リターンをどの程度予測できるかを検証。



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応援いつもありがとうございます!

*冒頭の画像は、崔真淑著「投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本」(大和書房)より抜粋。無断転載はおやめくださいね♪

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崔 真淑/エコノミスト(MBA in Finance)
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