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システムの内製化は修羅場
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システムの内製化は修羅場

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近年、日本の大企業による「システム開発の内製化」に関する話題を目にすることが多くなりました。それまで、システムを内製化する会社というのは、サイバーエージェントやDeNAといった、いわゆるweb企業が中心でしたが、この話が、伝統的な大企業に及んでいるのが昨今の動きです。

内製化のゴールは「システム開発を自社で行うことによって、ビジネスの競争優位を加速させること」と考えています。競争力のあるビジネスが存在することが前提になりますが、優位性を加速させる筋書きがある時に、内製に投資する意味があるわけです。

しかし、大企業によるシステム開発の内製化は、ほとんど、うまくいかないことが予想されます。多くの場合、エンジニアを雇って、お金をかければ、内製化できるという考えが流布しているように感じており、少々筋が悪い気がするからです。

そもそも、システムの内製化というのは、大企業やベンチャーを問わず、大きなリスクであることを理解しなければなりません。内製化を軌道にのせたテックカンパニーであっても、過去には例外なく修羅場を潜り抜けているものです。

サイバーエージェントの場合は、創業直後にシステムの内製化に失敗しています。大学院生に広告配信システムの構築を依頼したものの、実際にはできないことが判明したため、外注に切り替えました。この外注先が、オンザエッヂという会社で、この受託会社の社長だった堀江貴文氏(ホリエモン)が広告配信システムのコードを書くことで、サイバーエージェントに納品しています。今でこそ、サイバーエージェントはテックカンパニーとして高い知名度を保っていますが、その歴史は「内製化の手痛い失敗」から始まっているわけです。

DeNAにしても、創業直後に「ネットオークション」に関するシステムを開発する際に、外注を選択しましたが「期限になってもシステムが完成していない」という最悪の状態からのスタートでした。そこで、プログラムを自社で書き直して、何とかビジネスをスタートさせました。会社が生きるか死ぬかという、修羅場の中で内製をスタートしたわけです。

このように、システム開発というのは、大きなリスクを伴います。システムが完成したとしても、それが利益を生まないことは普通にあります。また、筋が良いビジネスモデルがあってもシステムが完成しないこともよく見かけます。つまり、企業規模の大小を問わず、システム開発というのは、リスクそのものなのです。人・お金・時間を費やしたらシステムが完成するという価値観は、変化が激しいwebの世界では通用しません。時間とお金をかけて、できるかよくわらないのが、システム開発の本質です。裏を返せば他社が容易に追随できないわけで、 システムの内製化は競争優位のセンターピンになり得るわけです。

では、どうしたら、大企業による内製化は軌道に乗るのでしょうか?答えは一つで、経営トップの進退をかけたコミットにつきます。そもそもシステム開発は失敗するのが当たり前なので、経営トップに「内製化に失敗したら自分も辞める」という気迫がなければ、いずれ直面するであろう修羅場を乗り越えられません。また、開発部門と他部署で利害対立があったときに、経営トップの気迫あるコミットがなければ、収集がつかなくなります。技術責任者を据えて、全責任を押し付けるのではなく、CEOが自らのクビを差し出すのが避けて通れません。

エンジニアとしての筆者の主観ですが、ここまでしないと、そもそも、まともなエンジニアを雇えないと思います。多くのエンジニアはシステム開発の悲哀を目の当たりにしているので、経営トップの本気度は、案外簡単に見透かされます。世の中には「DXだ!AIだ!」と叫ぶだけの口達者なだけの経営トップも多いので、やはり「進退をかけているか?」がポイントです。経験豊富なエンジニアは、その分、失敗したビジネスを無数に、かつ生々しく見ているので、経営トップを見る目が肥えています。

そして、エンジニアを雇って、内製化を実行フェーズにうつす際に、まずは3年以内にインパクトを残せるターゲットを見極める必要があります。全く新しいサービスの開発なのか、UXの改善なのか、UIなのか、パフォーマンスチューニングなのかはビジネスの特性によって様々ですが、ここが明確にならないと、開発リソースが分散してしまいます。誰を採用すべきかも決めることができません。また、何を最初の内製化のターゲットにすべきかは、不確実かつクリティカルな論点であるため、経営トップが最終的に判断すべきです。

そのうえで、内製化に取り組む最初の3年間で、事業の黒字化や収益の改善など、全社業績に大きなインパクトを残すと、ここでようやく「web業界」におけるスタート地点に立てます。システムの内製化によって成果が出れば、社内組織が「システムは大事である」と認知し、金食い虫であるシステム開発への風当たりが良くなります。投資家も、ある程度成果が出ているシステム投資に関して、追加投資の必要性を納得できます。このタイミングで思い切って経営トップが100億円規模のシステム投資を決定し、エンジニアの採用などにお金をかけることで、システムの内製化が軌道に乗ってきます。イケてる会社の評判は目の肥えたエンジニアの間ですぐに広まるので、エンジニアの採用競争における苦しみも軽減されていきます。ここまで来ると、テックカンパニーの入り口に立っていると言えるでしょう。

このように考えると、内製化は、本当に、本当に、険しい道のりです。そして、大企業のシステム内製化は、ほとんどうまくいかない気がします。肌感覚としては、100社あって1社うまくいけば御の字ではないでしょうか?成功率1%というのは根拠のない感覚的数値ですが、ベンチャー企業の生存率とさほど違わない気がします。

ただし、この前提を理解したうえで内製化を決断する大企業があれば、筆者はエンジニアの端くれとして、陰ながら応援しようと思います。インターネットを介したソフトウェアがビジネスの中心になるという時代の方向性は、全くもって正しいからです。


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