中間層復活のカギは高圧経済+労働市場改革
中間層復活、グローバル化のカギ 小林慶一郎・慶大教授: 日本経済新聞 (nikkei.com)
わが国の中間層没落の背景にはデフレマインドの定着に伴う需要不足の長期化があります。そして、その原因は国際標準から逸脱した緊縮的な財政運営にあります。これにより、成長に必要な財政支出がなされず、マクロ経済が支出と所得の両面で下押しされ続けてきました。
このため、中間層を復活させるためには、経済が過熱するまで積極的な金融・財政政策を継続しなければならないでしょう。政府支出の制約となるのは現在の英米のような経済の過熱であり、相対的に需要不足の続く日本では財政支出の余力は大きいため、日本の中間層復活に必要なのは高圧経済です。
特に、感染症や戦争といった100年に一度起こるような事態を、経済構造を変える契機だと捉え、環境やデジタル分野、ウクライナ危機によって明らかとなった軍事、食料、エネルギー、戦略物資など安全保障分野の規制を緩和して、官主導による長期的視点で減税や補助を行い、需要を喚起すれば効果的と思います。
また、中間層復活のためには、高圧経済による需要増加を賃上げにつなげる必要があります。経済の過熱状態をしばらく容認して労働需要を積極的につくり出すほか、労働市場の流動性を高め、民間部門に賃金上昇圧力をかけることも有効でしょう。食料やエネルギーの自給率を上げ、生産拠点を国内回帰させるとともに、労働市場改革に取り組めば、物価上昇も抑制することが出来て、消費を促すような環境が整ってくるでしょう。
経済正常化まで高圧経済を続けることでマクロ経済が好転すれば、日本企業も投資の拡大や賃上げを迫られることになり、消極的な企業は成長機会を逸し、人材確保もままならなくなるでしょう。このため、日本を成長軌道に戻し長期停滞から脱却させるためには、グローバルスタンダードな経済財政運営へとかじを切らなければならないでしょう。
日本は「財政均衡主義」ですが、グローバルスタンダードでは「最適財政論」という「政府債務は減らすことが是とは限らない」という考え方が一般的です。つまり、政府債務はマクロ経済の物価や雇用を安定させるために適切な水準にコントロールすべきものとされています。経済が冷え込んで金融政策も限界に近い国は政府債務を賢く増やさなくてはならないという事です。
ただ、日本には他の国と違って国債償還60年ルールがあり、普通の国では利払い費のみである国債費の中に国債償還費も含まれています。こうしたルールがあることによって、政府は財政均衡主義を貫こうとしています。この考えを変えないと、日本の中間層が復活するのは難しいでしょう。