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「有意義な時間(Time Well Spent)」から「人類の格下げ(Human Downgrading)」へ、テックを巡る新しいアジェンダ設定

フェイスブック、グーグル、そしてアップルなどの大手テック企業がプライバシー重視を唱える一方で、大統領選に名乗りを上げているElizabeth Warren(エリザベス・ウォーレン)上院議員やFacebook共同創業者であるクリス・ヒューズ氏がテック大手の分割を訴えるなど、過去約2年間でテックを巡る社会の状況は大きく変わっていると感じます。

そのようなムーブメントを先導してきたリーダーの1人にトリスタン・ハリス(Tristan Harris )さん、という人がいます。元グーグルのプロダクトマネジャーであり、実際に何億、何十億人に影響を与えるテクノロジー企業の中で、いかに多くの人にスクリーン上で時間を費やしてもらい、広告売上による利益を上げるかを考える立場にいた人物です。その彼がその後立ち上げた「Time Well Spent(有意義な時間)」という名の非営利団体の活動を通じ、昨年5月にはアップル、グーグルなどがスマートフォン上の利用状況を確認・管理できる機能「スクリーンタイム」などを導入させたことは、彼にとっては一つの具体的な成果だったかもしれません。フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグも2018年念頭に投稿した長文のブログの中で意義あるやり取り(Meaning Interaction)の重要性を訴えるなど、「有意義な時間(Time Well Spent)」という具体的な「ことば」を提唱したことでムーブメントが前進したことの価値を本人も語っています。非営利団体のコモンセンスメディアが作成した以下の2分間の動画にはそうした最近の動向に関して完結にまとめられています。

そんな中、トリスタン・ハリスさんが先月末、新しく打ち出したことばがあります。少し辛辣に聞こえるかもしれませんが、「人類の格下げ(Human Downgrading)」ということばです。絶え間ないスマートフォンからの通知、アルゴリズムによるレコメンデーションなどを通じて展開される「アテンション経済」がもたらす弊害は、もはや「意義ある時間」を提唱し「スクリーンタイム」を計測するだけでは生ぬるすぎる、という苛立ちを感じていたそうです。新たな展開を進めていく必要を感じ立ち上げた新たな組織が「センター・フォー・ヒューメイン・テクノロジー(Center for Humane Techonology)」です。

前回「Time Well Spent」を提唱した際にもTEDトークアトランティック誌でのカバーストーリー人気ポッドキャストでのインタビュー60 Minutesなどを通じてメッセージを発信していましたが、今回も「ヒューマン・ダウングレーディング」のキーワードを提唱すべく、ワイアード、人気ポッドキャスト、カンファレンスでの登壇などを通じて、今ここに迫りくる危機の認識を広めようと取り組んでいることが伝わってきます。

プレゼンテーションの中では具体的にYoutube、フェイスブックなどのプラットフォームを名指しして、Youtubeの視聴コンテンツの7割がアルゴリズムによるレコメンデーションで消費されていること、極右思想で陰謀論者として知られるアレックス・ジョーンズ氏の動画コンテンツが150億回以上レコメンドされていることなど、知らず知らずのうちに巨大テック企業にハッキングされていることを指摘しています。

以下の約40分の動画では「テックのための新しいアジェンダ」についての概要を語っています。日本語字幕はまだないですが、きっとこうした議論は国内でも拡がっていくのではないかと思います。テック企業で働く多くの人も実際は理想主義を持ち、社会をよくしたい、という想いを持っている人が多いと思います。ただ力を持ちすぎたテック、スクリーンタイムの最大化が広告収益の最大化につながるというビジネスモデルゆえ、知らず知らずのうちに望ましくない結果をもたらしてしまっている現実があります。こうした複雑な問題の本質を認識することの大切さを、こうした活動家の人の声から学べることが多いのではないかと思います。

トリスタン・ハリスさんについては他にも以下のようなメディアで取り上げられています。ご興味ある方はぜひチェックしてみてください。


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市川裕康 (メディアコンサルタント)
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