21世紀型のビジネスは「顧客」≠「ユーザー」≒「商品」≠「生産物」

来週の火曜日、いよいよメルカリが東証マザーズに上場する。素晴らしいニュースであると同時に、これで今年5月に2社となっていた日本のユニコーン企業(非上場で企業価値10億USドル以上)はプリファード・ネットワークスのみとなる。CBインサイツによると世界にユニコーン企業は240社あり、中国を除くアジアだけでみても、インドの10社、韓国の3社はおろか、インドネシアの2社よりも少ない。

これらの21世紀を代表する新興企業の傾向から、引用元の記事では「顧客」との関係性が20世紀とは異なってきているのではないかと問題提起している。マクドナルドに代表される20世紀型の企業では、セルフサービスやドライブスルーに代表されるように、「顧客の労働力」を経営に取り組んできた。メルカリも顧客の労働力を取り込んでいるが20世紀型とは異なり、利用者の相互評価でサービスの質を維持している。顧客同士で構成されるコミュニティー文化が21世紀型企業の特徴だ。

記事の視点に対して異論はないが、敢えて思考実験として異なる視点からの21世紀型企業について考察してみたいとおもう。21世紀型のビジネスは3つの視点から捉えることができる。

① 「顧客」と「ユーザー」は同じか?

② 「商品」と「生産物」は同じか?

③ 「ユーザー」とは「商品」を消費する主体を指すのか?

第1に、「顧客」とは企業の提供する商品やサービスに対して対価として金銭を支払い、売り上げに貢献するものだと定義できる。大して、「ユーザー」は企業の提供する商品やサービスの使用者だ。

メルカリは売買契約の手数料によって売り上げが発生するため、購買者と出品者の売買手続きが完了したときに初めて両者が顧客となる。つまり、出品者や購買者の売買手続きが完了するまでは、潜在顧客ではあってもまだ顧客ではない。しかし、メルカリはアプリケーションという形式をとっているため、アプリケーションをインストールし、会員登録した瞬間に「ユーザー」となる。つまり、「顧客」はすべて「ユーザー」ではあるが、「ユーザー」は必ずしも「顧客」ではない。

また、GoogleやYahooのような検索エンジンはメルカリ以上に「顧客」と「ユーザー」が乖離している。GoogleやYahooのサービスを利用するのに料金を支払う必要はない。誰でも無料で利用が可能だ。基本プレイ無料のスマートフォンゲームとは違い、追加機能を使うために課金ガチャを回す必要もない。広告収入が基本的な収益モデルだ。つまり、検索エンジンの「顧客」は広告主であり、「ユーザー」は検索エンジンの使用者で完全に分離されている。

第2に、「商品」と「生産物」の分離である。「商品」とは、「顧客」が対価を支払う対象である。一方で、「生産物」とは企業が開発し、ユーザーに提供しているツールやサービスだ。YoutubeもGoogleと同様に広告を大きな収入源としているが、広告主はYoutubeというwebサービスに対して巨額の広告費を支払っているわけではない。広告主は、Youtubeという膨大な視聴者数への広告効果を期待して、広告費を支払っている。つまり、Youtubeの「生産物」は動画配信サービスであるが、「商品」は動画を視聴するユーザー数ということができる。

第3に、「ユーザー」が「商品」となりうるという視点だ。ここで元記事における「働くお客」と関連がでてくる。今、世界で最も「働くお客」の性格が強いシステムは、AirbnbとUberなどのシェアリングエコノミーだろう。Uberドライバーや民泊経営者は、アプリケーションの「ユーザー」であるとともに、システム使用料を支払う「顧客」でもある。そして、UberやAirbnbにとっては、重要な「商品」でもある。旅行者やUber利用者は、Uberドライバーや民泊経営者の質によってシステムを利用するかどうかを決める。また、Airbnbの旅行者やUber利用者も、Uberドライバーや民泊経営者にとっては「商品」である。アプリケーションの利用者数が少なければ、Uberドライバーや民泊経営者は登録しない。つまり、「生産物」を利用する「ユーザー」が「商品」となる。

21世紀型のビジネスは、「顧客」と企業の関係が複雑だ。しかし、その分、「企業」と「顧客」の距離が近くなった世界ともいえる。互いの相互依存度が強まっているためだ。企業が素晴らしい「生産物」を生み出さなくては、「ユーザー」が増えず、「ユーザー」が増えないことには「顧客」を惹きつける「商品」を準備することができない。逆に、「ユーザー」同士でも売買契約や金銭の取引が発生するため、「生産物」がなくなると経済活動そのものが危うくなる。そのため、企業が生み出す「生産物」の持つ、社会への影響力とイノベーションの重要性が20世紀よりも増していると言える。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31664060S8A610C1TCR000/

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