見出し画像

キャッシュレスとレスキャッシュ

キャッシュ+レス

キャッシュレスを論じるときに、つねに疑問として挙がるのが、何のためのキャッシュレスかという問いである。それと同時に疑問となるのは、何を以てキャッシュレスと定義するかである。

レスーキャッシュ

これに対する回答の一つが、レス・キャッシュという視点である。レス・キャッシュとは、キャッシュをなくすことではなく、キャッシュの流通量が低減されている状態のことを指す。

画像1

完全なるキャッシュレス

紙媒体や金属媒体の貨幣がすべて電子化されるインパクトに比べると、現金の流通量が現在よりも減少するに過ぎないレスキャッシュという状態は、本質において変革をもたらさない。

緩やかなレスキャッシュ

狭義のキャッシュレス社会というのが、現金がほとんど使われない北欧の一部の国や、中国本土に見られるような現象を指すとするならば、レスキャッシュは緩やかな変化である。

画像2

報告書にみる用語法

この聞き慣れない「レスキャッシュ」という表現は、全国銀行協会の報告書に登場する。全銀協の報告書は、なぜキャッシュレスなのかを問うもので、読み物としても楽しめる。

「提言」を読む

報告書については『「キャッシュレス社会の進展と金融制度のあり方」提言を読む』でも紹介した。

島とコイン

さて、コインをなくすべきか、コインを減らすべきか。それとも、現金文化を維持するのか。ヒントとなるのが、離島におけるコインの稀少性である。離島では、しばしばコインが貴重品となる。

コインがない

ある離島を訪れて、ふらりと店に入る。レジには「10円玉と100円玉が不足しています」の貼り紙がある。次に入ったお店では、100円玉が不足していて、お釣りの200円が50円玉4枚になっていた。

画像3

離島のキャッシュ不足

100円玉や10円玉が不足しているのであれば、島ではキャッシュレス化が進んでいるのだろうか。必ずしもそうではない。現金での支払は大いに歓迎されており、ただコインが不足しているのみである。

キャッシュを節約する

離島の暮らしにおいて、現金を節約する工夫がされている様子については、『地域通貨について考えた人々(3)離島キャッシュレス』で紹介した。

キャッシュとの距離感

離島といっても、空港や港のある中心部と、そこから離れた田園地帯では、コインの流通は異なる。近くに銀行の支店がないと、現金を受け取っても預けておく場所がない。

銀行からの距離感

田園地帯にたたずむカフェでは、クレジットカード、交通電子マネー、モバイル決済と、あらゆるキャッシュレスが用意されていた。これほど充実している理由は「銀行が近くにない」からだという。

画像4

離島レスキャッシュ

カフェにやって来る人たちがお財布から取り出すのは、紙幣、硬貨、カード、電子マネーと様々である。キャッシュをなくすことが目的なのではない。なるべく減らすことが最適なのだ。

レスキャッシュからキャッシュレスへ

将来的には、モバイル決済を利用するお客さんが増えて、現金の取り扱いがなくなれば楽でよい。現金の緩やかな減少から消滅に向けた流れが、少しだけ早回しで進んでいく。

この島には、そんな時間の流れが感じられた。

画像5

Photos by H.Okada

讚! 多謝!
11
国立情報学研究所准教授 ブロックチェーンが国家・社会・経済に及ぼす影響について研究しています。 最新刊『リブラ~可能性・脅威・信認』日本経済新聞出版社 Kindle版 2019/10/22刊行。