ニッポンはふたつの島に分かれている説 世界経営者会議で感じたこと
皆さんこんにちは、高木です。
今回は、日本がふたつの島に分かれているのではないかという話をします。おいおい、日本には2つよりももっとたくさんの島があるじゃないかと思った人もいるでしょう(実際には、海岸線の長さが100m以上の島が6,852もあるそうです)。
確かにそうですが、これは概念的な話です。日本は色々な意味で、ふたつの島に分かれている。このことに思い当たったのは世界経営者会議でDeNAの南場智子会長のお話を聞いたからでした。
人材流動性に関する「ふたつの島」
南場会長は、DeNA社員の方に声をかけて、起業を促しているそうです。本来であれば、優秀な社員は自社の中に抱え込んでおきたいはず。それなのに、優秀な社員に起業をもちかけていく。自社を中心としたコミュニティを拡大しつつ、経済全体の新陳代謝も図れる取り組みです。
正直、うらやましいと思いました。
もし私が若い頃にDeNAで働いていて、そのような上司に巡り会ったらと想像するとワクワクします。
その一方で、ふと思ったのは、DeNAで働いてる人たちはそのようなチャンスがある、しかしそれ以外の人にはそのようなチャンスは無い。そのような現実があるということです。そして、これはDeNAだけに限った話ではありません。最初にベンチャー企業や外資系企業に就職した人は、その後数年おきに転職を繰り返しながら、キャリアアップを図っていく傾向にあります。
その一方で、日本の伝統的で安定した大企業に入った方は、転職することは比較的少ないでしょう。どちらかと言えば定年退職まで同じ会社で働くと言うことが一般的ではないでしょうか。もちろん、それもそれで良い選択だと思います。
ただ、私も経験者だから言えますが、安定した大企業を辞めて、転職が盛んな島に移住するのはとてもハードルが高いのが現実です。年功序列の賃金のため若い頃は給料が安く、課長クラスになってようやく給与が上がってきます。累進的な退職金制度のため、若いうちに辞めると少額の退職金しかもらえません。また、新卒中心の採用慣行のため、一度辞めたら大企業には二度と戻れないのではないか、という懸念も生じます。伝統的大企業を辞めるのはとてもサンクコストが大きいのです。
その一方、外資系企業やベンチャー企業などでは、そのような慣行は比較的少ないため、流動性は高い傾向にあると思います。私自身、最初の会社では18年勤めましたが、次の職場は3年で転職しています。島によって流動性が違うことを実感しました。
こうした人材流動性のふたつの島は、データでも裏付けられています。従業員数が300人未満の会社に働いてる人の転職率は、従業員1000人以上の大企業の転職率の2倍以上高いのです。
また、業界によっても転職率は違います。宿泊や飲食業の転職入職率は、電気・ガスなどのインフラ業の転職入職率の3倍以上高いことが分かっています。
最近、「45歳定年説」という言葉が話題になりました。人材流動性が低いという問題意識を背景として、定年退職を45歳にすることによって、社員が危機感を持って学び直したり、人材の流動性を高めることで経済が活性化していくのではないか、という考え方に基づくものでしょう。
日本経済の人材流動性が低いということをよく言われることではありますが、本当に日本社会全体の人材流動性が低いのでしょうか?実際に流動性が低いかどうかは、島によって違うのです。具体的に、どのようなセグメントの話をしてるのかを明確にして議論することが必要ではないでしょうか。
デジタル活用に関する「ふたつの島」
ふたつの島に分かれているという話で、もう一つ思い出すのはデジタル活用に関するものです。日本はとかく「デジタル化が遅れている」、「デジタル競争力が低い」と言われます。
例えば最近スイスのビジネススクールIMDが作成する世界デジタル競争力ランキングで、過去最低の28位となったことが報じられています。
確かに、特にコロナで浮き彫りになった行政におけるIT活用は、他国に対する遅れが顕著になりました。また、例えばブロックチェーン分野では規制が厳しいために、海外に拠点を移す起業家も出てきているなど、事業環境としての「デジタル競争力」の低さは実感を伴っています。
ただし、IMDのランキングは国全体の競争環境をマクロに分析しているものですので、もっと細かく見て行けば、違った面も見えてくるのではないかと思います。
例えば、先日私は「プロダクトマネージャーカンファレンス」に参加させて頂きました。
そこでは、様々な課題を解決するためのソリューションやアプリケーションを開発するプロダクトマネージャの人たちが、その奮闘ぶりを紹介してくれています。
そこでは、様々な利便性のあるサービスを、どのように開発し、ユーザの体験価値を高めていくかということについて、本当に活発な議論が展開されていました。そこではデジタルは当たり前のこととして、自分の能力をかけてプロダクトに取り組む人材が豊富にいることに、驚きを覚えました(当日の様子は上記のウェブサイトから辿っていけば、Youtubeで全て見られますので、よろしければご覧ください)。
また、日本にはデジタル技術において世界の最先端を行っているベンチャー企業もたくさんあります。例えばブロックチェーン業界でサービスを展開する「ソラミツ」という会社があります。この会社は世界に先駆けてカンボジアの中央銀行の「中央銀行デジタル通貨」を実運用に導きました。これは、国際的な競争を勝ち抜いて同社が受注したものであり、また並外れた技術力と対応力があって初めて実現したものです。
人材流動性と同様に、デジタル化についても、それが非常に進んでいる領域と、遅れている領域の両方が存在します。
日本の場合は、行政、教育、医療などの領域のデジタル化は遅れが指摘されていますが、運輸・物流、製造業、小売り、コミュニケーション等においては、先進的な取組も見られます。
要するに、ここでもデジタル化が進んでいる島と、なかなか進まない島があるのです。「日本のDXが遅れている」といった言説を見ることがありますが、そんな時には、「どちらの島の話をしているか?」を意識することが重要ではないかと思うのです。
どちらの話をしているか?
この「ふたつの島」問題は、日本のあらゆるところに見られる現象です。この問題の本質は何なのか、島から島への移住はどうすればいいのか、ふたつの島の生態系を融合することはできるのか、ふたつの島をうまくライフステージで使い分けることはできるのか、など議論できるポイントはたくさんあります。
いずれにしても、こうした「ふたつの島」という考え方で世の中を見ることで、「日本は〇〇である」という過度な一般化を避け、バランスよく見ることができるのではないかと思います。
もちろん、実際にはふたつの島の間にはグラデーションがあり、もっと解像度を上げていくこともできますが、まずはふたつの島があるということを意識するだけでも、見えてくるものがあるのではないでしょうか。
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※本投稿は、世界経営者会議に招待頂き視聴した情報が含まれています。
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