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イエレンというノイズに悩むFRB~「院政」状態は望ましくなく~

隠然たる影響力を持ってしまうイエレン発言
5月5日、米誌のインタビューに対してイエレン米財務長官が拡張財政の下、実体経済がこれに応じて浮揚するのであれば、金利上昇の可能性が高いと言及したことが話題となりました。これを受けて米株も値崩れするなど市場は明らかに動揺を示しました:

具体的にはイエレン長官が「米経済が過熱しないよう確実を期するには、金利はやや上昇せざるを得ないかもしれない」などと述べたことが報じられています。マイナス成長を余儀なくされている日欧を横目に、米国の1~3月期実質GDP成長率は前期比年率+6.4%と先進国の中でも頭抜けて高いものとなりました:


その上で米国はまだ行動制限解除の余地を残しており、今後の加速が当然視される状況にある。実体経済が地力を解放できそうな見通しが立つ状況下、財政出動も全力でアクセルを踏むことが既定路線とされており、むしろ名目金利が上がらない方がおかしいとも言えますイエレン長官は正直な本音を吐露したまででしょう。とはいえ、就任以降気になっていたことですが、金利を筆頭とする市況に関してイエレン長官の言動がクローズアップされ過ぎていることには危うさも覚えます。イエレン長官としては聞かれたから答えただけなのかもしれませんが、現実に金利に関する言及が相場を動かしてしまっています。議長を退き今は政府・閣僚の一角に名を連ねるイエレン財務長官が院政を敷いているような印象も持たれかねず、パウエルFRB議長からすればあまり気持ちの良い状況ではないでしょう。

現在、FRBは量的緩和縮小(テーパリング)への思惑を鎮静化することに日々努めています。その傍らで元議長の財務長官が「金利上がりそう」と情報発信することは「市場との対話」に照らしても適切な状況とは言えないでしょう:


4月の中休みを経て5~6月が第二次ドル高局面?
実際のところ、「テーパリング実施の条件が揃うまでに「相応の時間(some time)」を要するというパウエルFRB議長の最近の発言よりも、上述のイエレン長官の発言の方が腹に落ちるという困った状況もあります。図表に示すように、ブレイクイーブンインフレ率(BEI)で見たインフレ期待は再び加速を始めており10年物BEIは2.50%弱と約8年ぶりの高水準をつけています

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従前の動きに倣えば、これに1~2か月遅れる格好で名目金利も上がってくる可能性があります。具体的に昨年11月以降、10年物BEIは上昇傾向にありましたが、本格的に名目10年金利が追随し始めたのは年明けでした。2月、BEIの上昇は止まったものの、名目金利は急騰しました。インフレ期待に名目金利が追随するのはフィッシャー方程式で想定される通りでもあります。もちろん、BEIの水準自体がどれほど信頼に足るものかという点について議論の余地があることは承知していますが、ここでは深入りしません。名目の計数が期待のそれに追随したという事実に注目しておきたいところです。

しかし、2月に上昇が止まったBEIは3月以降、今度は名目10年金利のピークアウトを横目に再び上昇を続けています。このペースで行けば、夏場の3%到達も視野に入ります。市場参加者の注目が名目10年金利の低下に傾斜する傍らで、インフレ期待は着実に切り上がっています。今回も1~2か月のラグを伴って名目10年金利が上昇してくるのとすれば、5~6月が名目金利およびドルの上昇局面になるかどうかが焦点になりあす

バイデン米大統領が節目として繰り返し持ち出す7月4日の独立記念日までワクチン接種に伴い行動制限の解除が順次進むのだとすれば、4月の中休みを経て、5~6月に第二次米金利上昇・ドル高局面となるような展開は如何にもありそうです。

金利についてはワンボイス化が適当
FRBがテーパリングに慎重な理由は、その際にインフレ期待や市中金利が先回りして急騰し、資産価格や実体経済が唐突な調整を強いられる懸念があるためです。それゆえ、イエレン長官が冒頭のような発言をして市中金利が跳ねたり、株価が動揺したりすれば、余計にFRBは市場に漂うテーパリング観測から距離を取る必要が出てきます。イエレン長官が口にした、ちょっとした金利観のような情報発信も含めて正常化プロセスは慎重に進めたいというのがFRBの本音のはずであり、今回のようなことが続くことは愉快ではないでしょう。もちろん、実質GDP成長率+5.0%~+6.0%というのは米国の潜在成長率の倍に相当するハイペースであるため、イエレン長官の言うように、金利上昇は当然の話に思えます。恐らく、同じことを一介の民間エコノミストが言っても反応は薄いでしょう。しかし、元議長で現役財務長官のイエレン氏が説得力のあることを述べれば、「やはりそうか」と相場は動きます。それ自体が政策運営のノイズになる現実があるのです。

元よりFRBにはカプラン・ダラス連銀総裁のように断続的にテーパリングの必要性を説く高官もいて、それをパウエル議長やクラリダ副議長が火消しするような構図が日常的に見られている:


信頼の厚いイエレン元議長がテーパリング賛成派としてこうした議論に加わるような格好は避けた方が無難でしょう(もちろん、当人は加わったつもりはないのでしょうが)。実体経済に対する印象論ならまだしも、金利情勢は各所に影響が波及するデリケートな代物だけに、FRBの下でワンボイス化した方が市場参加者にとっても分かりやすいのは間違いありません。財務長官に大物を起用したがゆえの副作用であり、放っておけば「院政」のような状況になってしまうでしょう。今後正常化プロセスを着手するにあたって交通整理をする必要がありそうです。

いずれにせよ、こうした騒動を経た上で迎える6月FOMC後の記者会見、スタッフ経済見通し(SEP)、メンバーの政策金利見通し(ドットチャート)は否応なしに注目が高まることになったと考えて良さそうです。


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