「老後資金2000万円必要」に対する誤解

金融審議会は、夫65歳以上、妻60歳以上の無職世帯の場合、公的年金を中心とする収入だけでは毎月5万円の不足になるとし、今後30年の人生があるとすれば、単純計算で2千万円が必要と試算しています。しかし、報告書にも記載の通り、この試算の前提となっている実支出26万円強/月は、平均貯蓄額2,484万円の世帯が前提となっています。

最新の家計調査年報(2018年)によれば、不足額は月4.1万円強に減少してますので、必要な金額は約1500万円に減少します。また、世帯主の年齢階層別の不足額は65-69歳で5.8万円強、70-74歳で6.0万円強、75歳以上で2.8万円強と大きく異なります。世帯主の年齢に伴う不足額の変化を加味して必要額を試算すると1,386万円まで減ることになります。

更に、家計調査年報(2018年)をもとに世帯主が65歳以上の高齢勤労世帯の収支を見れば、月平均8万円以上の黒字となっています。このため、仮に65~69歳まで勤労が可能となれば、老後必要資金は554万円までに減少することになります。

結局、金融審議会の試算は、老後資金が2000万円不足するというより、金融資産を2400万円以上保有している高齢夫婦無職世帯が、現在の収支の状況が不変であれば95歳まで生きても貯蓄が不足しないことを示しているにすぎません。

むしろ、いかに健康で長く勤労できるかが重要であり、勤労を無視して老後資金を試算すると、必要額を過大評価してしまうことにもなりかねないでしょう。そして何よりも、こうした誤解を招く報道は、国民を過度に不安にさせることを通じて、より節約志向を強めてしまう可能性があります。それが合成されたマクロの世界では景気の足を引っ張り、企業収益の悪化を通じてむしろ家計の収入環境を更に悪化させる可能性があります。

シニアになっても勤労すれば生活に余裕が出来ることが重要であり、貯蓄から投資へ向かわせたいのであれば、義務教育からの投資教育の充実等を通じて、国民を投資に対して前向きにさせる政策が必要でしょう。




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