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「お子さんいらっしゃるんですよね?」への戸惑い

 最近少しだけ、困っていることがある。講演先やインタビューを受けるときに「お子さんいらっしゃるんですよね」と声をかけられることが増えたからだ。

「え?」と最初は戸惑い、言葉に詰まったり聞き返していたものの、すぐにその理由にたどり着いた。

 ある時、写真展に来場してくれた知人が、彼女の息子さんを私たち夫婦で挟んで撮った写真をネットにアップした。それを誰かがまとめサイトに掲載し、「どうやら5歳くらいの子どもがいるらしい」とコメントを添えていた。

 「お子さんいるんでしょ?」と尋ねてくる相手に全く悪気がないことは分かる。むしろ事前に熱心に調べてくれているからこそ、そうしたサイトにまで行きついてしまうのだと思う。

 だからこそ、そんな時は心の奥底がちくりと痛んだまま、曖昧に笑ってみたり、早く会話を切り上げたりと、どう対応したらよいものなのか、自分の中でまだ定まらずにいる。

 結婚してもうすぐ8年。仕事柄、私たち夫婦は国内外をお互いに飛び回り、子どもはまだいない。いつかは欲しいと思っている。ところが私の体は排卵がうまくできず、薬に頼ることもある。最近では生理が来る度に、「ああ、またダメだった」と落ち込んだりしていた。

「お子さんいるのよね」と聞かれると、奥底にしまい込んでいたはずの不安が、一気に心の表面すれすれまで浮かび上がってくるのが分かる。

 決して尋ねてくる人たちを責め立てたいと理由でこれを書いたわけではない。むしろこれは誰しもの身に起こり得ることだからこそ、文字に残しておきたいと思ったのだ。

 もちろん書き込む側や、こうした情報を掲載してしまうサイト側には大いに問題がある。ただ、情報の受け手の視点からも考えたい。

 私自身も初めて会う人のことをネット上で調べて、「おや?」と思う情報に行き当たることもある。問題はその「おや?」の先なのだと思う。

 人生や心の芯に触れる大切な話題こそ、飛びつかず一度立ち止まる勇気を持ちたい。そもそもこの情報の出どころはどこだろう?本当に本人の発言なのだろうか?掲載している媒体はどういう媒体なのだろうか?

 まるで激しく水の噴き出る巨大なホースから「水を飲め」と言われているかのように、おびただしい情報が降り注ぎ続ける今だから。感情で反応する前に、深呼吸。言葉を紡ぐなら、心を込めて。


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NPO法人Dialogue for People副代表、フォトジャーナリスト。国内外で災害や貧困、難民問題の取材を続ける。J-WAVE「JAM THE WORLD」水曜日。TBS「サンデーモーニング」出演。 https://d4p.world/

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