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オープンイノベーション成功の4条件

政府・知的財産戦略本部の「オープンイノベーション」の現状に関する報告書が発表された。オープンイノベーション(記事にならって、以下OIと略す)も、バラ色の理想だけが語られる時代をすぎ、一定のトライアル&エラーが積み重ねられてきたなかで、なぜOIがうまくいかないのか、貴重な知見が得られている、ということであり、今後より実効的にOIを進めて行く上で非常に参考になるし、この報告書の内容を活用していかなければもったいない。


私が、自分の経験からOIの成功の条件と思うことは、重要度の順に下記の4つだ。

• トップのコミット
• 人材
• OI担当チームの若さ(年齢の数字ではなく)
• 組織としてのOIの体験


何より、トップが本気でコミットすることが大切。トップが本気なら、結果的に人材は集まる。当初は適性のある人材を見出すのに苦労するかもしれないし、そういうケースもいくつか見てきているが、トップの本気度が持続的であれば、社内外から人が集まってくるし、また集められる。一方で、適性のない人は去っていくことになる。トップが人事権を適切に行使することで、一層その実現が早まる。


トップの本気のコミットがあれば、4つ目の成功体験がなくてもよい。どんな組織も最初から成功があるわけがないし、熱意と本気度で成功事例を作っていければよいのである。その時に、トップやリーダーにOIや新規事業の経験があると一番よい。成功の道筋は千差万別だが、失敗する要因は共通するものが多いので、失敗要因を避けるだけでも格段に成功の確率が高められる。


2つ目の「人材」については、ダイバーシティ(多様性)がポイントになる。OIは、過去に経験したことのない課題が連続的に発生するのが常であり、柔軟にそれらの課題に対処し続けて行くためには、個人として持つ知見や能力を最大限に発揮することはもちろんだが、性別や年齢はもちろんのこと、異なる多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されたチームが総合力で戦っていかなければ上手くいかないゲームなのだ。


また、こうした人材を適切に評価し処遇する、人事制度や企業文化も大切になる。どうしてもOIといった分野は、既存の主力事業から見れば収益性も低いし、当初はコストばかりがかかってマイナスからのスタートになる。この時にOIに関わるチームとメンバーをどう守れるか。いってみれば「三年寝太郎」を評価できない組織であると、OIを持続的継続的に続けていくことは難しい。この時にポイントになるのは、やはりトップのコミットだ。仮に給与や賞与に反映される人事評価がさほど高くなかったとしても、トップがそのOIチームの活動を信頼しプラスに捉えていることを社内外に発信したり、あるいはOIチームでの経験を評価して、しかるべきポジションにメンバーを昇格させていくことでモチベーションの維持を図っていく。その間に収益といった数字の面でも成果が追いつきはじめていくなら理想的だ。ただ、まだこの問題に上手く対処できている組織の事例を私は知らない。


3つ目の「若さ」は、物理的な年齢の問題ではなく、新しい物事に対する吸収力や、発想の柔軟性のことを指している。過去の経験に照らし合わせるだけでなく、既存のパターンに当てはまるものとそうでないものを見極め、新しい事態に対しては、ゼロから発想して試行錯誤をしていける可塑性が、個人としてもチームとしても必要になる。その意味合いで「若さ」が必要なのだが、2つ目のダイバーシティとの関連でいうと、年齢の若い人もそうでない人も混成で「若い」チームが組めれば最高だ。年齢を重ねた人の経験も、それが昔話や惰性に基づく繰返しではなく、今役に立つところとすでに役立たないところを峻別して前者だけを活かすことができるなら、年齢的に若いだけのチームよりも、不要な試行錯誤をしなくて良くなる分だけ、スピードが上がるはずなのだ。


そして、4つ目の「組織としてのOI体験」は、成功も失敗も含めた経験値を高めていくことで、目の前にある課題への解像度を上げ、適切な対処の可能性を積み重ねて成功確率を引き上げていく、ということである。この体験は、自社内に限らず外部の「体験」もオープンに取り込んでいく。少なくても、まだOIに関して成功の「定石」があるとはいえない段階では、自社の経験・体験だけでは量的に不足し、成功へのスピードを高めにくい。今回発表されたリポートは、社会に共有されたナレッジであり、これを有効に取り込んで活用できるかどうかは、OIを成功に導き組織に定着させる上で、重要なポイントになるはずだ。とりわけOIに対する取り組みが始まってまもない組織にとっては、貴重な資料になる。こうしたリポートが継続的に発表されていくことで、少しづつ日本の企業・組織にもOIが浸透していくのではないだろうか。

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