消費者にどのような行動変化を促したいかを考えるー顧客も知らない「本音」 消費者インサイトを探る仕組み
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消費者にどのような行動変化を促したいかを考えるー顧客も知らない「本音」 消費者インサイトを探る仕組み

2021年11月16日(火)に開催したNIKKEI LIVE「顧客も知らない「本音」~消費者インサイトを探る仕組み」では、長く支持される商品やヒット商品には「消費者インサイトを捉えているという共通点がある」と言われる中、マーケティングに限らずあらゆる仕事にとって重要な人の心を理解する方法について議論しました。イベント内容の一部をご紹介します。

P&Gをはじめ、資生堂などでマーケティング担当副社長やCMOとしてマーケティング組織の強化・指導を手がけてきた、クー・マーケティング・カンパニー代表取締役の音部大輔さん、キャラクターを使ったCM戦略やスーパーの入口付近の一等地を獲得してキウイを山積みするなど、今、注目を集めているニュージーランドのキウイフルーツ販売会社ゼスプリインターナショナルジャパンマーケティング部APACマーケティング本部長の猪股可奈子さんをゲストにお招きしてお話を伺いました。聞き手は、大岩佐和子編集委員が務めました。

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ー大岩編集委員
まずは、参加者の皆さんにクイズに参加していただこうと思います。「キウイブラザーズを生み出す際に、猪股さんたちがやらなかったことは何でしょうか?」回答が多いのは「競合が成功した企画を参考にした」でした。猪股さんから答えを教えていただけますか?

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ー猪股さん
競合を参考にしませんでした。皆さんすばらしいです。理由として、競合でマーケティング活動をしていたり、テレビCMをやっていたりする会社が、ほとんどないということもありました。

他のカテゴリであれば、同じようなマーケティング活動や様々なタッチポイントで活動している企業やブランドを参考にしたほうがいいと思いますが、果物の場合は、テレビCMまでやっている会社はそれほどないので、競合の分析にはあまり時間を使っていません。

ー大岩編集委員
消費者インサイトを捉えるために、どのような調査をしましたか?

ー猪股さん
量的調査も質的調査も、どちらもやりました。量的調査で言えば、どれくらいの人が果物を食べていて、どれくらいの人がキウイを食べていて、どの世代の人がどのような食べ方をしているのか、一般的なユーザー理解の調査を行いました。それと同時に、「それはなぜか?」という質的調査での深掘りを行いました。

食べていない人はなぜ食べていないのか、食べていない人たちに話を聞いて、逆に、すごく食べている人はどんなイメージをキウイにもっていて、そのイメージはどのようにして確立されたのかを調査しました。

ー大岩編集委員
そのような調査の結果、何が浮かび上がってきましたか?

ー猪股さん
例えば、毎日食べるヘビーユーザがキウイを食べているのは、味が好きというよりも健康効果を実感しているからだとわかりました。「ヘルスベネフィット」と呼んでいますが、キウイの栄養や健康効果に対する知識が豊富でした。

一方、週に1、2回食べているライトユーザは、「果物を切らさずに食べたい」という程度に思っていて、バナナやリンゴなどの他の果物の中の1つとしてキウイを消費していました。

そして、まったく食べない人は、「給食で出て酸っぱかった」など、味に対する理解もほとんどありませんでした。食べ物ですから、味やフレーバーのイメージが出てこない時点で、定期的に食べるような関係性ができていないとわかります。

ステージによって、まったく違うキウイのイメージや理解のされ方をしていることがわかりました。

ー音部さん
競合はどんなふうに認識されていますか?

ー猪股さん
先ほどお話しした「競合を参考にしません」というのは事実ですが、消費者がキウイを食べようと思ったときのコミュニケーション開発における生活者視点での競合は捉えています。

例えば、「朝、簡単に栄養が取りたい」という場合の競合ならば、シリアルやヨーグルトなどの果物とは違うカテゴリのものも入ってくるかもしれませんし、加工品の果物ジュースなども競合になるかもしれません。そのような競合の分析はしています。

消費者が満たされたいと思っている欲求を考えれば、必ずしもスーパーの果物売り場の果物だけが競合なわけではないと認識しています。

ー大岩編集委員
定量調査や定性調査から、どんなインサイトが発見できましたか?

ー猪股さん
キャラクター「キウイブラザーズ」の誕生のきっかけに関わるインサイトならば、「そもそも果物のことを考えていない」「果物に期待していない」「キウイは見た目が美味しくなさそう」「見た目が踊る果物が食べたい」などです。

それらを組み合わせたときに、桃やスイカのように、お店で見たときに皆さんが「この季節がきた!食べたい!」という気持ちになるにはどうすればいいのかを考えました。それが、キウイを日本人が大好きなキャラクターとして仕上げようというアイデアにつながった感じです。

生鮮は「モノ」は変えられません。これが工業製品ならば、パッケージの絵柄や形を変えるなどできますが、生鮮食品の難しいところはイノベーションがまったくできないところにあります。その周辺でできることで、特出できる何かが必要になってきます。

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ー音部さん
ちなみに、猪俣さんの背景の壁紙には、キウイに加えてリンゴとバナナが入っていますが、それはなぜですか?

ー猪股さん
真ん中にオレンジもいます。これは実は緻密な計算をしていて、キウイがキウイのことだけを話していても「嘘くさくなる」ということが1つにはあります。

果物の世界のA・B・Cは「アップル・バナナ・シトラス」と言われています。皆さんが「果物」と言って思い浮かべるものはこういった大先輩の方々で、その土壌を借りることで、私たち(キウイ)の存在感をスムーズに受け入れてもらえるようにしています。

ー音部さん
これだと子供にも何の仲間かすぐにわかります。「こういうグループに入っているのがキウイなんだ」と認識させる効果がありますよね。浅くマーケティングを見ていると、「なんで競合の宣伝をするのか」となってしまいますが、そういうことではありません。

そしてもう1つ重要なポイントは、昨今の情報氾濫以降、私たちは興味のないものに注意を払うことがなくなりました。果物の記号性の高いもので両側をおさえてグルーピングを示すことで、キウイをわかりやすくして、他の果物への関心をうまく使っているということです。

消費者というよりも、人間のインサイトをうまく使っていると思います。

ー大岩編集委員
ここで改めて、インサイトの定義を音部さんからご説明いただけますか?

ー音部さん
インサイトとは、自発的に自分からは言いにくい想念や、言われてみればそうだけれど自分では認識できていない無意識・本音のことです。マーケティングやブランディングの議論の中では、現在の消費者の購買行動・消費行動を促しているもの、あるいは、未来の消費者の購買行動・消費行動を促しそうな支配的な動機を言い表したもの、と定義できると思います。

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ー大岩編集委員
消費者インサイトを体系的に知りたいという声も多く聞かれます。ここで音部さんから「パーセプションフロー・モデル」について解説していただきたいと思います。

ー音部さん
今回のようなディスカッションを聞いたり、マーケティングカンファレンスに行ったり、様々な雑誌や記事を読んだりすると、断片的に知識が入ってくると思います。すると、「顧客のリサーチをすればいいのか!」「キャラクターを作ればいいのか!」となってしまう人がいます。

マーケティングは料理に例えることができるのですが、例えば、肉を炒めている人に「何をしているんですか?」と聞くと「料理」と答えますし、野菜を洗っている人に「何をしているんですか?」と聞くと、やはり「料理」と答えます。しかし「料理って何?」と聞かれたら、それは肉を焼くことでも野菜を洗うことでもなく「食べ物をこしらえること」です。

同じように「マーケティングって何?」と聞かれたとき、広告や新商品開発、消費者理解、インサイトを捉える、など断片的にはいろいろ出てくると思いますが、それは肉を焼くとか野菜を洗うことに近いものです。トータルでは何をしたいかと言えば「市場創造」です。これがマーケティングです。

猪股さんたちがやったことは、果物市場を創造したか、キウイ市場を創造したか、朝食市場を再創造したか、ということだと思います。

1コンポーネントだけではなく、全体の最適化をしなければなりません。これがマーケティングの難しいところです。価格1つにしてもメッセージですし、広告を作るだけとかステッカーを作るだけという断片的なことではなく、いろいろなタッチポイントを操って全体を最適化することでうまくいくと思います。

この図は「パーセプションフロー・モデル」と言います。

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マーケティングの4P(Product:製品、Place:流通、Price:価格、Promotion:広告施策)がありますが、マーケティング活動の全体をこのように図で示すと共有しやすくなります。交響楽団を指揮するときには楽譜が必要であるように、リサーチする人、広告を作る人、店頭を担当する人など様々なタッチポイントの担当者が1枚の設計図で動けるようになるので、全体最適化しやすくなります。

ー猪股さん
ターゲットの消費者に「どのような行動変化を促したいか?」だと思っています。キャラクターを作る、テレビCMをうつ、広告を作るなどはあくまでも手段です。

どんなカテゴリでも、どんなブランドでも、自分自身がそれで行動を変えるだろうかと想像したときに、「本当にこのタッチポイントで合っているのか?」「本当にこのフレームでいいのか?」を常に消費者目線で考えてチャレンジし続けることが一番大事だと思っています。

ー大岩編集委員
デジタル化が進めば進むほど、消費者インサイトは取りやすくなると思いますか?

ー猪股さん
取りやすくなると思います。インサイトとは、消費者行動の裏にある「なぜ?」のことなので、例えば、難しいデータオートメーションがなくても、YouTubeやSNSのコメント欄に書かれていることを見てフィードバックを得ることもできます。

昔だったらまったく見えなかった消費者のリアルな声が、リアルタイムで取れる時代になってきています。それをいかにうまく可視化して次のアクションに進めていくか、その形を模索するステージにすでに入っていると思います。

ー音部さん
そもそも、デジタルトランスフォーメーションも含めたデジタル化に対してはいろいろな考え方があると思いますが、重要なことは計測可能性を高めることだと思います。つまり、デジタルは計測がしやすいということです。計測がしやすくなることで、当然、消費者理解もしやすくなります。

デジタル化のつらいところは、データ量が非常に増えることです。データ量が増えると、何を見たらいいのかわからなくなってしまいます。ですから、「まずはデータを分析して……」というのは、やめたほうがいいです。データ分析をする前にしっかりと仮説をもっておかないと、どのデータをどう分析したらいいかわからなくなります。目的を明確にして、仮説をしっかりもっておくことは、デジタルを使うときにとても大事なことです。

「消費者」という言葉を使っていると、まるで「消費者」という生物がいるような感覚になってしまうものですが、消費者は人間なんです。「自分ならばどうなのか?」ということを振り返れば、わかることがあると思います。

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音部大輔さん
クー・マーケティング・カンパニー
代表取締役

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17年間のP&G日本法人、米P&Gを経て、欧州系消費財メーカーや資生堂などでマーケティング担当副社長やCMOとしてマーケティング対策を主導。2018年より独立し、現職。消費財や化粧品をはじめ、輸送機器、家電、放送局、電力、D2Cなど国内外の多様なクライアントのマーケティング組織強化やブランド戦略を支援。博士(経営学神戸大学)。


猪股可奈子さん
ゼスプリインターナショナル ジャパン
マーケティング部APACマーケティング本部長

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1981年福島県生まれ。2004年一橋大学商学部を卒業後、日本リーバ(現ユニリーバ・ジャパン)入社。2008年南アフリカ赴任などを経てブランドマネージャーに昇格、「ダヴ」「ラックス」などのブランドを担当する。2015年マーケティング部長としてゼスプリインターナショナル ジャパン入社、翌年キウイブラザーズのキャンペーンを日本発で立ち上げる。2020年4月より現職。


大岩佐和子
日本経済新聞編集委員

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1996年入社し、流通業の取材を5年間した後、地方行政の担当に。2013年から再び流通業を取材。日経MJデスクを経て、2018年4月より現職。


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