見出し画像

ポジティブ・アクションから見えた、4つのインサイト

昨年11月に、ファンドとしてのD&I推進のための取組の一環としてポジティブ・アクションをスタートしてからもうすぐ5ヶ月が経過します。ありがたいことに、女性の起業家の方々はもちろんのこと、同じように業界のD&Iの課題を感じていた・方針に共感したと属性を問わず様々な起業家の方々からご連絡を頂く機会が増加しました。これまで長らく見過ごされてきた問題に対し風穴を開けるのは容易ではないものの、必要なイニシアチブであることを日々実感しています。

今回は、ポジティブ・アクションをはじめとしたこれまでのD&Iへの取り組みの中で見えてきたインサイトについてまとめてみます。

①意識しなければ、投資先の属性は必然的に偏る。

ポジティブ・アクションの発表に際しては、社内で「現状がここだから、目標達成のためには、だいたいこんな感じで進める必要があるね」という大枠の方向性を確認しました。発表後は、業界内外から本当に様々な反応が届き、やる意義を再認識できたと考えています。

と、ここまでは良かったのですが、約一ヶ月後、再度目標への進捗確認をしたところ、全員苦笑いをする結果に。当然ですが、「意識して頑張ろう!」では不十分だったのです。女性の起業家からの投資検討依頼の増加と、宣言を出し一つ波風を立てた事実に心のどこかで甘んじていたのかもしれない、積極的にリーチを広げ新しい戦略を立てることを怠っていたのかもしれない、と痛感させられる出来事でした。

ANRIは、キャピタリストに絞ってみるとまだまだ男性が多い組織です。自分の好みや慣れ親しんでいるものを人は評価しがちになる「親和性バイアス」という無意識バイアスがありますが、投資家も同様で、自分と似た人や共通項のある人に投資する傾向があると言われます。このバイアスの影響を極力小さくし、アウトプットの偏りを是正するには、(i)無意識バイアス等の日頃意識しない思考のベースに意識的になり必要であれば正すこと、(ii)従来のやり方とは別軸の新しいリーチの戦略を立てること、の2軸に加えて、改めて(iii)ギャップを是正したい対象と同じ属性の人(今回であれば、投資家サイドにおける女性)を全体として増やす必要性 を身を持って感じています。

②でも、意識して動くと、ちゃんと変わる。

上記を踏まえ、社内で無意識バイアス勉強会を実施したり、全メンバー参加でD&Iオフィスアワーを実施しタッチポイントを増やしたりと、個人レベル・組織レベル両方から新たな戦略に着手しました。

新たな戦略の下、従来とは違うアクションを起こすことで、実際に社数も増えているだけでなく、社内ではD&Iに関する記事やイベントのシェアが活発になったほか、各キャピタリストが今どれくらいこの目標に向かえているか(既存の担当者数に加え、検討中の社数等)について、積極的かつ高頻度でディスカッションする土壌が固まってきました。今では毎週の社内定例でこの話題が出るほど。遠慮したり、引け目を感じることなくこのテーマを日常レベルでディスカッションできること自体、かなり大きな前進だと考えています。

先にも述べたとおり、当然ですが「やるぞー!」と思っているだけでは、あまり変わりません。意識面・実践面・認知面など複数のレイヤーを行き来しながら新しい挑戦に着手して、従来と違う動き方をする時に初めて変化が起こると改めて感じています。アインシュタインは、"Insanity is doing the same thing, over and over again, but expecting different results." (狂気とは同じことを何度も何度も繰り返し、異なる結果を期待することである。) と言ったそうですが、端的に、同じやり方を続けて違う結果を求めていた自分を心から恥じました。(勿論、マインドセットの大切さを軽視しているわけではなく、「やるぞー!」が大事な一歩であることは同意です。)

③マイノリティの起業家が陥りがちなポイント

新たな取り組みや発信の効果もあり、これまで相当数の女性の起業家の方と事業に関する壁打ち・ディスカッションをさせていただきました。その中で、いくつかシードステージ前後の方々に共通している点が見えてきました。全員が全員そうだと言いたいわけでもなければ、当てはまる人を糾弾する意図は全くないことは言うまでもありませんが、考えられる原因とともに大きく2つ挙げてみます。

===

◎中長期の事業計画・将来展望・EXIT時のビジョンが単線的になりがち

→会社の青写真を野心を持って描かない(描くのが苦手、慣れていない)人が多いのかもしれないと感じます。『WORK DESIGN』では、好感度や能力、ステレオタイプの衝突について「男性なら、立派な起業家精神、称賛に値する自信、スケールの大きなビジョンとして評価される要素も、女性の場合は、高慢で出しゃばりとみなされる。」と指摘。まさにこのステレオタイプをわれわれが内面化した結果として、大きなビジョンを描くことに対し「高慢でビッグマウスで、嫌なやつと思われるんじゃないか?」という不安を起業家自身が感じているのかもしれません。

また、ロールモデルの不在ももう一つの大きな原因でしょう。事例がなければ、野心的な構想を持つことについて「これはちょっと無理かな、ありえないかな」と考えてしまうのは自然ですし、そもそも選択肢にすら上がってこないかもしれません。

ここで強調したいのは、「野心的ではないからダメ」でも「だから皆どんどん極端な計画を作りましょう!」という話ではなくて、この傾向の背後にある構造や社会の問題に目を向けたいということです。投資家側からすると、これは惜しい要素に映ってしまうかもしれません。一朝一夕に解決するわけでも、一気に事態を解決する魔法もないけれど、これを無視して過ごせるのは「特権」であることは間違いないでしょう。

もしここまで読んでも、「いやいや。大きく描くべきってことは知ってて当然でしょ。知らないのは勉強不足。」と思う人がいるとしたら、自分の勉強不足も疑ってみてください。

◎情報格差はたしかに存在する

スタートアップ・起業・資金調達に関する情報はこの数年でも急激に増えました。何を隠そう私自身も、色々なコンテンツで日々勉強させていただいているうちの一人です。それもあって私は少し前まで、「これだけ色んな情報が日々登場する中で、情報格差は埋まってきている」と感じていました。しかし、いろいろな人と話す中でこの考えを改めるに至っています。

私が「情報格差は埋まってきている」と感じた背景には、大きな理由として①そもそもスタートアップコミュニティの内部に一定期間身を置いていること、②それゆえ、「誰が詳しいか」「誰をフォローすべきか」「どんなサイトやメルマガを見るべきか」をずっと教えてもらってきたこと、がありました。

でも、起業したてであれば、まだコミュニティにも入れていないどころか、”エコシステム”として機能していることも知らないかもしれません。そもそも男性がマジョリティであるスタートアップコミュニティに入っていくことや、そこから"自然に友達を作る"ことは、母数の関係もあり、困難がつきまといます。当然「どこに情報がまとまっているのか」や「誰に相談するべきか」などの我々が今当たり前のように持っている情報にありつくまでに、何重ものハードルがあることになります。

とくに資本政策の情報格差や、それに起因する起業家・投資家双方の意思決定への影響はクリティカルです。これまで、特に一度資金調達を経た女性の起業家の会社の資本政策で、いわゆるシードラウンドに比べて個人投資家の名前がズラッと並ぶケースや、珍しい座組のケースが多いなと感じていました。だからダメというわけでも、それがマイナスに響くわけでもないことは改めて強調しますが、なぜこれが女性に特に多いのだろうかと常々不思議でした。

現状考えている理由としては、情報格差やアンコンシャス・バイアス、先に上げた傾向などが絡み合った結果、(調達したかったとしても)VCからの調達を諦めたか、そもそもそれが選択肢に上がってこなかったのではないかと感じています。(※前者については、もちろんすべての起業家がVCから調達したいわけでもなければ、そうするべきだと私が考えているわけでもありません。あくまで、ありえた選択肢である状況下に置いて、それが起こらなかった場合の話をしています。)では、これを紐解いた時に、わたしたちに何が出来るかというと、先に述べたような要素にまずは意識的になること・学ぶこと、そして、それぞれの立場から何が出来るか考えることだと思っています。例えば、一部の投資家サイドからすると、いわゆる教科書的なスタートアップの資本政策にそぐわないものは、ちょっと不思議に映ったり「勉強不足」に思えるかもしれません。でも、私はこれまでの経験から、「勉強不足」であるケースはかなり稀だと思います。むしろ、投資家サイドとしてできることとしては、例えば、まず資本政策の相談なら「調べたら出てくるじゃん」と切り捨てないことや、いわゆるモデル的なラウンドの進み方でなくてもその背景に目を凝らすことから始まると思っています。

④ポジティブアクションは弱者救済でも、過度なプッシュ戦略でもない

最後に、このポジティブ・アクションに対して最も多く寄せられた反応は、「ファンドなんだから、リターンを損なうような真似をするな」でした。

まず第一に、ダイバーシティおよびインクルージョンが組織・事業のサステナビリティや収益に貢献することは今や周知の事実です。(もはや、差別を含有した社会構造の改善や、それが"皆"にとってメリットであることを提示してあげなければいけない事自体、もちろん戦略的には正しいと理解している一方、正直ナンセンスだとも感じています。)

第二に、過去にも繰り返していますが、これはいわゆる弱者救済的な文脈でありません。わたしたちは今までより良い投資検討を追求しますし、「かわいそうだから」みたいな理由で上下関係を再生産するつもりは毛頭ないわけです。リターンを損なうな、という方々とはもしかするとこの前提が共有できていないのかもしれませんが、熱を持っていて考える力がありながらも現状ではスポットライトがあたってこなかった方々にリーチを広げたいと考えています。

実際にこれは起こっていることですし、一見すると「これまでだったら投資しなかった層に無理をして投資をする」ように思われるのかもしれませんが、そうではなく先に述べたような方々に、積極的に選んでもらうための戦略であるとも言えます。

こちらの記事でも、クオータ制について、"政官民問わず、「要職に登用しようにも、要件を満たす女性がいない」という主張がよく聞かれるが、これも疑わしい。" と指摘しています。この手の論法にはしばし、「性別を問わず優秀な人は優秀」といった主張が続きます。これなぜ詭弁なのかは過去に色々書いたり話したりしているのでそちらを参照いただけると嬉しいです。

おわりに

ここで述べた、過去数ヶ月で見つけたインサイトは追加されたり更新されたりしていくでしょう。正解がない中で、トライアンドエラーで進めていくしかないし、出来る限りこの過程を楽しんでいけたら良いなと思っています。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
江原ニーナ

ワーイありがとうございます!

ありがとうございます!
1997年熊本生まれ。ANRIでベンチャーキャピタリストとして主にtoCサービスや女性の起業家への投資に注力する傍ら、スタートアップ業界のジェンダーギャップ是正に向けてあれこれ活動しています。ダイバーシティ&インクルージョン、SDGs、テクノロジーと倫理