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マクロン大統領の経済政策と仏スタートアップの行方

フランスで、マクロン大統領への支持の低下が止まらず、暴動がおさまらない。

他の欧州諸国に比べて高いフランスの失業率が一向に改善しないことも、要因の一つとされている。その対策の一つとして、起業を促進し、新興企業が成長することで特に若年層の雇用を確保していくということが、マクロン大統領の目論見なのだと理解している。こうした起業・スタートアップ重視の姿勢の表明の一つとして、パリでVIVA Technologyを開催し、自らもそこに足を運んでアピールにつとめてきた。また、フランス国内に限らず、世界の主要なテック系の展示会・カンファレンスでは、赤いニワトリをトレードマークにフランスの政府機関が音頭をとって「French Tech」のアピールにつとめ、その存在感は他の欧州諸国を上回るものがあり、さすがフランスは政治の国だな、と思って見ていた。

しかし、スタートアップの成功は「千三つ」と言われるように、非常に限られた成功の裏に多数の失敗を抱える多産多死なもの。また、多くのVCファンドが運用期間を10年と定めていることからも、数年といった短期で「成功」が確定するようなものではないことが読み取れる。実際問題としても、短くて5年程度、長ければ10年ないしそれ以上の年月を経なければ、目に見える形でのスタートアップによる雇用の安定的増加を期待することには無理がある。

一方で、フランス大統領の任期は5年と短い。2017年に就任したマクロンの任期は2022年まで。再選を目指すなら、任期前半の3年間ほどで成果を出さなければならない。2014年から経済相をつとめ、いわば助走期間があったマクロン大統領ですら思うようには行かない、ということなのだと思う。

また、記事によると富裕層と低所得層の格差が暴動の一因である、と言う。暴徒が身につけている黄色い蛍光色のジャケットは、現場作業員の人たちなどが視認性を高めて安全を確保するために身につけるものなので、おそらくそういうことなのだろう。

一方で、スタートアップ企業を起こすのは、一般的に一定以上の学歴やそれに相当する能力・スキルを身につけた人たち。こうした人が起業することで、まずは「高学歴層」から雇用が生まれ、その企業が成長することによって雇用の裾野が広がって、社会全体の雇用状況が改善する、というのが従来の経済発展だった。このストーリーで進むとするなら、広く社会全体に雇用が生まれていくのは、5-10年よりも、さらに長い時間がかかることになる。

さらなる不確定要素は、社会全体の変革、主にデジタルトランスフォーメーションによって、従来の中間層の仕事が細ってきていること。日本でも、人手不足と言いながら、ハーローワークに行くと、いわゆる事務職ならいくらでも求人応募があり、人手が余っている。言い換えれば事務職の求人は非常に少ない。こうした人たちが、諦めて現業系の仕事に就くようになれば、これまで現業系の仕事をしていた人たちが玉突き的に職を失う可能性が高い。こうした構造変化は、日本よりも、むしろ海外の方が先行して起こっている印象がある。そうであるなら、上に書いたようなこれまでの雇用拡大のシナリオが今後も通用するかどうかも、微妙なところだと思う。

このような状況の中、来年のVIVA Technologyがどのような様相を見せるのか。注目しておきたい。

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