見出し画像

モビリティ分野で日本が存在感を出せるとしたら

一般的に、日本の交通関連産業とサービスのレベルは、世界でもトップクラスの部類にある、と言って差し支えないのではないかと思う。面積は決して大きくないが南北に長く、山間部も多ければ地震や台風といった厳しい自然条件があるという国土の特徴もあって、耐候性・信頼性の高い車両や交通システムが開発・構築され、たとえば新幹線の技術やトヨタをはじめとする日本車は世界的にも知られ、輸出されるものとなった。

だが、東海道新幹線が開業したのは1964年だから、半世紀以上前の55年も前のこと。自動車メーカーとしてのトヨタがはじめて販売台数世界一になったのも2008年とこちらも10年以上前のことだし、現在は1位の座を明け渡している。

その後、世界では、たとえば低床トラムの導入による路面電車の復活や、シェアサイクルやライドシェアの普及など、この10~20年ほどで新たな動きが生まれ加速してきているが、そこに日本の存在感があるかといえば、残念ながらそうとは言えない状況である。先にレベルの高い交通システムが出来上がってしまっていたが故のイノベーションのジレンマである、という捉え方もできるだろう。

そして、ここ数年の注目される動きにMaaSがある。モビリティー・アズ・ア・サービスの略称だが、要は、バラバラに存在している交通サービスを、ITによって有機的に結び付け、一元的に(象徴的には手元のスマートフォンで)必要な時に必要なだけ利用できるようにすることで、利用者側にも事業者側にも、さらには都市を運営する行政側にも、それぞれに効率を高め、ベネフィットを提供しようという流れである、と理解している。

そのMaaSだが、日本はなかなか身動きが取れていないという指摘だ。

日本が今後、モビリティの分野で、なんらかの貢献ができる、別な言い方をするならビジネス的に勝算があるとすれば、こうしたMaaSの分野、そしてMaaSの概念をさらに押し広げた、MaaSを活用した新しいサービスのほかにはないのではないだろうかと思う。

販売台数だけが指標ではないものの、トヨタは販売台数では首位から脱落しているし、そもそも内燃機関自動車の優位性が、今後の電気自動車の時代にどの程度活かせるのか、という点は未知数だ。電気自動車は、そのメカニズムが比較的単純であるため、電気自動車の時代がくれば、ライバルはこれまでの自動車メーカーに限られないし、現にテスラはこの分野で先行している事例だといえるだろう。

そして、アメリカはGAFAをはじめとしたIT産業の集積があり、交通機関としては実質的に航空機と自動車しか機能しておらず、日本や欧州からみれば未発達なレベルにあるが、自動車の自動運転に必要なデータの収集・分析においては、圧倒的に優位に立っていると考えられる。先日もGoogleのグループ企業Waymoがこれまでに実際に自動運転で収集したデータを研究者向けに公開したし、厳しい自然条件での自動運転に関するノウハウもデータも着々と収集・蓄積している。

一方で、欧州は、日本にも似て、航空機のほか、鉄道(都市内・都市間)や河川をふくめた水運もあり、自動車交通も、自家用車に限らずタクシーやバス(都市内・都市間)と、多岐にわたる交通手段が実用的に存在している。そして、その多くが、国境をまたいで利用できることも大きな特徴だ。比較的小さな国が多数陸続きに存在しているという特徴を活かして、自動運転車が国境をまたいで走行するためのテストが始まっている。これはアメリカや日本が持ちえない強みになるだろう。

そういう中で日本のモビリティが持ちうる独自の強みはなんだろうか。

可能性があるのは、欧州と同様の多様な交通手段を前提に、高齢化を筆頭とした「課題先進国」の課題を、モビリティを活用して解決するサービスを開発することではないかと思う。日本の要求の厳しい消費者の存在や「おもてなし」に象徴されるホスピタリティも、過剰になりすぎてはいけないが、そうしたサービスを高いレベルで実現していくために必要な要素であり、それを日本は持ち合わせている、活用できるポジションにある、と考えられる。

そのためには、「縦割り」という言葉に象徴されるような、旧来の産業構造に最適化されている行政の監督・規制が横断的なものとなり、柔軟に新しい産業を生み出しうるものとして再編されなければ、可能性は閉ざされてしまうだろうし、冒頭の記事に表れているのもその危機感だ。

モビリティに関していえば、その主な監督官庁は国土交通省(国交省)ということになるが、かつてタクシーの配車サービス(タクシー版ウーバー)の日本導入を働きかける立場にあった経験からしても、その動きは遅く、既存の業界構造を温存することを志向していると感じられ、それゆえに既存業界にも革新の機運が起こらず、現状維持(とみえる衰退)に固執してしまう。

こうしたモビリティの分野を切り開いていくプレーヤーとして、スタートアップの重要性は言うまでもないと思うし、経産省や総務省はスタートアップ振興を掲げているのだが、これも縦割りで、他の省庁が自分たちは関係ない、という姿勢であるなら、日本が世界に対して「売れる」モビリティ関連サービスを開発していくことはおぼつかない。

たとえば、自動運転車両と5Gを活用し、高度な救急車ないしは移動病院のような、新しい医療の仕組みを作りだすとしたら、それには少なくても国交省と厚労省の理解と連携による規制の見直しが必要になるだろう。

そして、古い規制があるままでは新しいサービスを生み出しようがなく、それを志向する優秀な人材が日本に来ることは期待できないし、さらには日本からそうした人材が出て行ってしまうことにさえつながりかねない。これは何もモビリティ分野に限った話ではないのだ。

また、交通の分野のすべてをスタートアップなどの新興企業がになうということも非現実的で、鉄道会社をはじめとする既存の交通運輸関連企業と新興企業が連携して新しいサービスを開発していく必要性も大きい。企業一般としても、なかなかそうした新興企業との連携やいわゆるオープンイノベーションが進まないなか、安全第一を旨とするがゆえに保守的な面をもつ交通運輸関連企業との連携は、なおさら困難なものになるであろうことは、想像に難くない。「100%の安全性・確実性」を求める国民性が、さらにその難しさを増してしまう。

もちろん、安全は間違いなく大切だし、それをおろそかにすることをよしとするつもりはない。ただ、散見されるのは、それを直接安全性に関わらない「すべての面」において適用しようとする傾向だ。まずは、人命の安全性に直接関わらないところから、外部のアイディアを受け入れ、連携してサービス開発を積み重ねていくことで、イノベーションに対する「慣れ」と「勘」が企業内に蓄積されれば、次第に安全を保ちながら新しいことを取り入れる方法が見い出せるようになるのではないか。

残された時間は、モビリティ関連についても多くはないと思うが、まずは一歩を踏み出すところから始め、せっかくの日本のこれまでの蓄積を未来に向かって活かしたい。それが日本の未来を創ることになると同時に、日本の世界に対する貢献でもあると思う。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

これからもがんばります。
13

川端 康夫(アクティブビジョン株式会社 代表取締役)

アクティブビジョン株式会社 代表取締役。大手企業とスタートアップ企業双方の事業創造・成長のサポートを手がけ、短期的な戦略コンサルティングの後に必要となる、地に足のついた伴走型の戦術コンサルティングを手がける。 http://www.aktivevision.com

COMEMO by NIKKEI

日経が推す各業界キーオピニオンリーダーたちの知見をシェアします。「書けば、つながる」をスローガンに、より多くのビジネスパーソンが発信し、つながり、ビジネスシーンを活性化する世界を創っていきたいと思います。 はじめての方へ→ https://bit.ly/2DZV0XM 【...
3つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。