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シリア人は、「数」でしかないのか

――シリア人とは単なる数字に過ぎない。夢見ることは許されていない。

ページをめくって最初に、そんな衝撃的な言葉が目に留まりました。

先日、ウェンディ・パールマン著「シリア 震える橋を渡って: 人々は語る 」の翻訳を佐藤慧と共に手がけました。表紙は昨年渡航したシリア北部の写真です。

この本はシリアからの避難生活を送る人々の声を、年代別にたどっていく証言集です。父ハフェズ・アサド時代から今に至るまでの克明な記録が、一人一人の声だからこそ、心に深く刻まれていきます。「シリア人は数でしかない」という最初の証言に、まるで抗うように。

とりわけ印象的だったのは、4人の女性についての証言でした。彼女たちは真っ白なドレスで広場に立ち、プラカードを掲げて政権に抗議します。そしてあっという間に、連行されてしまいました。翌日、路上のおもちゃ売りの老人が、並べていた商品を全て撤去し、代わりにドレスを着た4人の女の子の人形だけをそこに置いたのだそうです。

そして私が特に共感したのは、サミという女性でした。彼女はイデオロギーによってではなく、あらゆる非人道的な行為に「NO」と言える人でした。

ただし、「政権も反体制派、どちらも非道だ」ということを言いたいのではありません。この本全体が投げかけているように、政権側とそれに抗う人々の間には、圧倒的な力の差が存在します。その構造的な暴力にこそ、目をむかなければならないのでしょう。

シリア取材については先日、布施祐仁さん、矢部宏治さんが聞き手となって下さった「いまこの本を読め」でもお話をさせて頂きました。

「NEWS」は文字通り、新しく起きたことを伝えていきます。「爆撃があった」「〇〇人亡くなった」、と。それは情報としては大切なものです。

けれども「まだ避難生活を送っている人がいる」「まだ故郷に帰れない人々がいる」と、長期化している問題は「NEW」Sにはなりにくくなります。ただ、こうした生活が長引くほどに、問題の根は深くなるはずです。

だからこそ今伝える必要があるのは、数字だけでは決して伝えられない感情の揺れ動きや生活実感ではないでしょうか。どうか「難民」という一くくりのレッテルを超えた、一人一人の生きた証に触れてみて下さい。

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安田菜津紀(フォトジャーナリスト)

フォトジャーナリスト。東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で貧困や災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。J-WAVE「JAM THE WORLD」水曜日ニューススーパーバイザー。TBS「サンデーモーニング」コメンテーター。

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