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自分と向き合う「多拠点移動」の意義~多動人材はDoingの過程でBeingを見直そう!~

  Potage代表 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずです。地方出張もそれなりにある東京都文京区在住のビジネスパーソンです。

 非常事態宣言下、周囲からはこんな言葉がたくさん聞かれました。「東京に住んでいる意味がなくなってきたのかもしれない」……他聞に漏れず、自分自身もそんなことをオンライン会議などで口にしていましたし、引っ越すならどこがいいかなあ、なんということを夢想したりもしていました。

 実際、こちらの記事の例にあるように、たとえばエンジニアは、場所の制約がほぼない状態なので、移住がしやすい状況にあります。専門職という意味では私の仕事も同様なわけで、他人事ではないわけです。

 一方で、自分自身がより魅力に感じているのが「東京を拠点としつつ、地方にもサブ拠点を構えて行き来する」、つまり「多拠点移動」「多拠点生活」です。実はこちらのほうが自分の性質をみるに、フィットする気がしているし、忙しく生きている都市のビジネスパーソンにとってみると、実は有効な気がしているのです。

 なぜかというと、日々の行動の連鎖からいったん思考を切り離し、時間の余白をつくりだし、自分自身の内省を半強制的に促すことで、自分の感情に向き合う時間を生み出し、自己認識を強めることにつながるからです。

 移住が進んでいるからといって、普通のビジネスパーソンがいきなりえいやっと所在を100%移すのは難しいし、だったら並行していろんな場所に移動し、ワーケーション的に働いてみるのはどうかという提案です。(※)

 以下、解説していくので、忙しい手をとめて、お茶でも飲みながら読んでいただけると幸いです。

 (※)この記事の下書きはGoToトラベル感染地域除外報道より前にドラフトが執筆されたものです。この後も変わることが想定されるので公開しますが、最新の動向を注視しながら参考にして下さい。

ビジネスパーソンの行動が加速する「圧倒的多動社会」

 なぜ忙しい都市のビジネスパーソンにとって多拠点生活がフィットするのか。その理由は現代の日本の都市部が「圧倒的多動社会」なことにあります。これはぼくの造語ですが、とにかく行動に行動を重ねる――Doを繰り返す――ことでアウトプットを創り続けることが奨励される社会のことを指します。この「圧倒的多動社会」の申し子である、とにかく行動を優先する多動人材を「Doer」と当記事では呼ぶことにします。私自身も典型的なDoerですし、DoerはDoerを呼ぶのか、大半の知人ビジネスパーソンは「Doer」です。

 ぼくはビジネスパーソン向けに感情知能指数であるEQをベースとした「EQPI」というパーソナリティ分析を提供しているのですが、そのクライアントの実に8割を占めるDoerには下記の共通傾向がみられます。

・じっとしているのが不安で仕方ない(結果仕事したりする)
・ランニングやアウトドアなどの活動的な趣味を持っている
・イライラすると自分で考える前に友達とあって話をして晴らす
・仕事のストレス解消で別の仕事をつくりがち
・土日休日もセミナーやイベントに参加しスキルアップに励む
・煮つまると部屋の掃除をはじめがち
・仕事に没頭して気が付いたら深夜になっていたり、食事をとり損ねることがある
・場当たり的に行動していることに後から気づく
・いつも締め切りに追われている感覚
・体調の変容に、じんましんや脱毛など体に兆候があらわれてから気づく
などなど

 いかがでしょう。けっこう当てはまっている人も多いのではないかと思います。

 特にこの数年、終身雇用の維持がかなり怪しいことになり、世の中の新自由主義的な兆候が強まる中で、この「Doer」はどんどん増えてきたように思います。「仕事をすればするほど評価される」「取り残されると生存リスクが上がる」「ドロップアウトが許されないがゆえに、自己研鑽をし続ける必要がある」という社会の傾向変化のためです。

 そしてコロナ禍は、この傾向を加速させているように見えます。大手企業もジョブ型に移行したり、複業人材を受け入れたりして社内の人材の競争を加速させている傾向にあります。ますます先行きが不透明な中で、生き残りのための自己研鑽をあおる啓発系セミナーも多数登場しています。少し煽りがちな表現をするなら、社会全体が、一定の圧力でもって「Do or Die(行動せよ、さもなくば死す)」というビジネスパーソンへのメッセージを暗黙に広めているのが現状なわけです。

 これが健全な世の中なのか?という問いについてはここでは脇に置きますが、好むと好まざるとにかかわらず「Doerが増加しやすい状況」「Doerが更に行動を加速させやすい状況」になっていることは頭に入れておいた方がいい気がしています。

※こちらEQPI分析に興味のある方の参考に、関連記事です。下の画像はオリジナルのEQPI分析レポートの抜粋です。

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Doerがぶつかる壁

 しかし、EQPIの分析とフィードバックをする中で、一定の割合のDoerの方が壁にぶつかっていることに気づかされます。結果、コーチングをお引き受けすることも多いのですが、例えば下記のような傾向が見受けられます。

・自分の軸が見えない
・自信をもって仕事について語れない
・結果を出しても正当な評価を得られず迷いとストレスが生じている
・仕事をしてもしてもパフォーマンスに結び付かない
・公私で周囲とのコミュニケーションに不和が生じている
・自分の強みが見えない
・まわりへの嫉妬心や不満な気持ちに振り回される
・転職が繰り返されて地に足がついた感じがしない
・何をしていても不安
・身体やメンタルに影響が出ている

 これらは特別な状況ではなく、一見、力強い起業家の方や、新規事業をバリバリ進めている方、一見順風満帆な大企業のマネジメントの方などなどでも、同様の言葉が出てくることがあります。それなりの実績があったり、社会的な影響力がある方でもそうなのだから、いわゆる一般のビジネスパーソンの方が同様の状況を抱えていても、何も不思議ではありません。

 Doerの方は、多大なプレッシャーを日々抱えながら、さまざまなものを背負いながら日々行動しています。人間である以上、バランスが上手にとれない瞬間があるのはむしろ自然なことです。

 そしてDoerの方は、このアンバランスを、更に行動を上書きすることによって解消しようとします。しかし人間のキャパシティには必ず限界があります。身体的な不調、メンタルの不調、仕事での取りこぼしなどが散発されるようになります。結果、パフォーマンスが下降線をたどることになるのです。

自分のありかた「Being」を見つめなおす意義

 このような行き詰まりを感じるDoerの方へのコーチングで実施するのは、平たくいうと、その方の「ありかた」つまり「Being」の見直しです。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO31211970R30C18A500000

 こちらの記事にはまさに「Doing」と「Being」の違いと扱い方についてわかりやすく記載されています。シンプルにいうと「ありのまま/あるがまま」の状態のことを指しますが、もうちょっと広げると「自身の個(これがなければ自分ではないという固有価値)」や「生きていく上での目的(ビジョン)」「大事にしている価値観」を指すこともあります。

 行き詰まりを感じているDoerにとって大事なのは、この「Being」を判断基準にして、適切な行動を選択していくことです。つまり、自分自身が無理なくパフォーマンスを上げ続けられる得意なスタイルや、譲れない価値観を元にして、行動の優先順位を決めるのです。(この辺は、あまり長く書くと、より抽象的になり、ちょっとうさん臭くなるので、石川善樹さんの「フルライフ」という本を読んで整理してみるのをお勧めします。)

 Doerがパフォーマンスが上がらない壁にあたるのは、一言で言うと「行動の精度が落ちているため」です。やみくもに行動したり、人に言われたままの行動をしていると、モチベーションと精度は下がりますし、行動を重ねることでその傾向は加速します。自分自身の価値観や得意なスタイルを元に「やりたいこと/(進んでやりたいとは思わないものの必要という信念のもと)今やると決めたこと/やらないこと」を決めると、行動の無駄打ちがなくなり、投資した時間が成果として跳ね返ってきます。

「移動」と「対話」は行動しながら自分を見直す手段

 自身も一人のDoerとして、Doer目線のコーチングをしたり、自身もコーチングを受けたりしています。

 何が役立つかというと、強制的に自分自身のことを顧みる時間がとれる点です。メンタリングやカウンセリングとは違い、コーチとの壁打ちを通じて、自身の価値観や得意なスタイルを見直したり、それらが生きた行動をできているかを見直せることにコーチングの価値があるのです。

 いわゆる「マインドフルネス」や「瞑想」がビジネスパーソンの生産性を上げると言われているのは、習慣として「自身を見直す時間」をとることで、自身の行動や価値観を適宜見直せるためです。しかし、Doerはそもそもじっとしていられないので、マインドフルネスが苦手な傾向があります。一度習慣化すると強いのですが、とにかく導入ハードルが高いのです。コーチングはその点「コーチングをうける」という行動(Do)の選択を自身から行うので、比較的スムーズにDoerに導入できる利点があります。(もちろん、上手にマインドフルネスを習慣化できているDoerの方もいらっしゃいますし、ぼくの観察による一般論的な話です。念のため)

 しかし、コーチングを受けることもハードルが高いものです。そんなものにお金を払う意味はあるのか?とDoerが思う気持ちもDoerとしてよく分かります。なのでどんどん後回しになり、結局、比較的、不安や違和感がピークになって、にっちもさっちもいかなくなりかけたときに依頼してくださるクライアントの方が多いわけですが、本来はそうなる手前で自分自身を見直せるにこしたことはないのです。ではどうしたらいいのか。

 いろんな方法がありますが、ここでお勧めしたいのが「移動」と「対話」です。具体的には「アウェイの土地に行って、人と話す」ことが、Doerにとっては、自分を見直すための手っ取り早い手段として、作用するのです。

 ※ちなみに「サウナ」や「筋トレ」が多動ビジネスパーソンに流行るのも、この行動的な自己との対話の時間として作用するからと考えられます。両方とも、目に見える効果が出やすいところが多動人材(特に男性)の性に合うようです。

限界集落を鏡にして自身のありかたを見直す「破壊の学校」

 ウィズグループ代表取締役の奥田浩美さんが主宰している「破壊の学校」というコミュニティがあります。人を募り、限界集落に一緒にいき、そこの住民の方に案内してもらったり、食事をとったりしながら、いろんなことを参加者同士語り合うという場です。

https://www.okudahiromi.com/school

 先日イベントで奥田さんとたっぷりコミュニティについて対話したのですが、それを通じて「なぜ限界集落を行先に選ぶのか」というもともと持っていたぼくの問いの答えがわかったのです。奥田さんは次のような趣旨で語っていました。

「限界集落」は、参加者自身を映す鏡であり、メタファーである。来訪者が魅力的に思う対象も、現地の人は「なんにもない」と語る。その姿が、「自分はなんにもない」と考えていた参加者自身の姿とダブって映る。そして参加者同士の対話を通じて、自分自身の持っている固有の価値や価値観に気づく。

 限界集落に移動すると、否応なく自分の日常や肩書――つまりDoのリストと、その結果の成果をもとにした自己紹介――から解放され、「何が好きで、何が嫌いか」という自分の価値観の本質を語るようになります。これが、自分自身との壁打ち対話につながり、いわば「セルフコーチング」状態が発動するのです。

 「破壊の学校」は一つの例ですが、自身で旅の機会をつくり、旅先で人とあって対話する機会をつくることは、「セルフコーチング」状態に自身を移行させるのに有効に作用します。

 もともと落ち着かない志向を持つ「Doer」は、出張や移動を歓迎します。面白いと思うきっかけがあれば電車にも飛行機にも飛び乗る、もともとそういう人種なのです。これは立派な「Doing」なわけですが、Doingの過程で発生する移動時間や何もしない時間(つまり余白の時間)は、自分自身の内省(Beingの見つめなおし)を促します。

 (ぼくは新幹線でうたたねして、仕事して、起きて、ぼーっとするという繰り返しの時間が好きなのですが、「内省」が捗るのが理由にあります。トンネルが多い路線はWifiも切れて仕事もできないので、その点でいうと内省状態に強制移行させるには最高です)

 そして、その土地の人との対話を通じて、自身の現在位置のようなものが見えることがあります。この場合お薦めなのは、自身のやっていること(Do)を軸に話すのではなく、自分の好き嫌いや、土地にきてよかったこと、感じたこと(Be)を素直に語ることです。そこから生まれる対話が、自身の見直しに効果的に作用します。

※奥田浩美さんとの対話の映像はこちらよりぜひ!

定期的「多拠点移動」というDoingがうながすBeingの見直し

 そして自分自身の見直しに更に効果的なのは「定期的に移動する土地を定めて、移動を繰り返すこと」です。都市在住者であるならば、地方に拠点を構え、2拠点以上を行き来する「多拠点移動」「多拠点生活」をすると、このBeingの見直しにとってプラスに働くと考えています。いろんな自治体はワーケーション施策を実施しているので、受け入れ先を調べてあたってみると、発見があるかもしれません。

 繰り返し同じ土地に行くと、行先の人のつながりが広がり、更に多様な人々に出会えますし、彼ら彼女らとの対話が、自分自身の価値観の見直しに、更なる深みを与えてくれます。土地への理解も深まり、土地を鏡とした内省も更に精度が増してきます。土地との交流は、自分自身の内面との交流につながります。時間の流れもゆったりしている中で、都市でせわしなく働くDoerとしての自分の姿を、相対化して眺めることもできます。

 ぼくの場合、まだ拠点は構えておらず「多拠点生活」にはなっていませんが、自身にとって内省を促す「多拠点移動」の行先となる土地はいくつかあります。

 サンフランシスコ・シリコンバレー。2013年から3年間滞在した第二の故郷であり、自身の成長を促してくれた、価値観のよりどころになる土地の一つです。

 北海道札幌市と兵庫県神戸市。毎年おなじ時期にカンファレンスがあり、呼ばれることが多いので(札幌はNoMaps、神戸は078)、自分の現在地点を内省しながら確認するのにいい機会になっています。両都市とも、東京との移動時間がほどよいのも魅力です。

 石川県金沢市にはぼくの元上司の金沢工業大学教授の松井くにおさんを訪ねに、年に1~2回訪問しています。松井さんとの対話は、自身の現在位置の確認も兼ねていて、自分にとっては、実家に帰るような気持ちにもなっています。

 他にも長崎県長崎市、長野県諏訪市などなど、仕事で複数回行き来し、土地とのつながりが増しつつある場所もあります。それぞれに良さがあり、それぞれが自分の違う一面を見つめる「鏡」にもなっています。

 第二の家を構えて、移動しながら働く「多拠点生活」に移行するのが今の夢です。どの土地にするのか……あそこもいいここもいい、と、妄想を広げる日々です。

 人によって、定住が向いている人もいれば、移動を繰り返し、旅するように働くのが向いている人もいます。タイプはさまざまですが、この圧倒的多動社会に増える一方のDoerのビジネスパーソンにとっては、複数拠点を行き来する「Doing」を習慣化することが、自身の価値観や本質である「Being」の見直しを積極的に促し、パフォーマンスにプラスの影響を与えるのではないかなと考えています。複業、テレワーク、ワーケーションなどの働き方の選択肢が増える中で、実践してみるのも、自身の生き方を一段上げていく、ひとつの大きなきっかけになるかもしれません。一度、ぜひ(もちろん新型コロナウイルスなどの情勢は意識しつつ)試してみて下さい。

 ※こちらは「余白」時間の大事さを書いている関連記事です。興味ありましたらぜひ。NHKラジオでも取り上げられました。

 ※EQPIに興味がわいた方はぜひこちらをチェックください。

 ※当記事は、下記の日経COMEMOの意見募集テーマで執筆されました。遅筆ゆえに、締め切りは1週間超過しています。忙しさに日々追われるDoerのある種の宿命として、笑ってやりすごしていただけると幸いです。

#日経COMEMO #ずっと都会で働きますか

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