
新しい旅の形の模索
新型コロナウイルス感染者数の増大が、比較的低い状態に抑えられていることを受けてか、この9月の4連休では多くの人が旅行に出たようだ。
また東京以外の地域を対象としてスタートしていた Go To トラベルキャンペーンも、10月からは東京発着の旅行についても対象になった。
一方で東京都の感染者数はやや増加する傾向にあるといい、また国外に目を向ければ、ヨーロッパでは再び感染の急拡大が見られ、一時的に緩められていた規制が再び強化される方向にあるようだ。
日本でどうなるかは分からないが、予断は許さない状況にあるとみておくべきであろうし、いわゆる「コロナ前」の形の旅行が再び可能になるまでにはまだまだ時間がかかるのだと思う。
そうであるならば、やはり新しい旅の姿というものを考えていかなければならないのだろう。この点で、新たな動きが出てきていることを非常に興味深く思って見ている。
たとえば、オンラインツアーの取り組みが始まっている。ポイントは、有料でも参加者がいること、つまり、金額は小さいかもしれないが、ビジネスとして成立している、ということだ。京都のように国際的に知名度が高い観光地であれば、言語と時差の問題をクリアすれば、海外からの参加もみこめるのではないだろうか。
さらに、この記事に紹介されているように、語学の勉強とセットになったホームステイ気分を味わえるバーチャル旅行は興味深い試みのひとつだと思う。語学サービスという異業種の会社を巻き込んだ取り組みであることは注目したいポイントだ。
また、感染拡大の懸念がほぼ収束している台湾では、九州や沖縄の上空まで航空機で来て、遊覧飛行のように上空から日本の風景を楽しんだ後再び台湾に戻る、疑似的な海外旅行ツアーが人気だと聞いた。
こうした取り組みに共通することは、今の状況の中で楽しめる旅のスタイルであるというだけではなく、コロナの問題が収まった時に、参加者は必ずリアルに旅行したいという気持ちにさせられるだろう、と思われることだ。
オンラインだからこそじっくりとガイドの話を聞けたり、実際に現地の人とオンラインで交流したり、あるいは上空から観光地を眺めたり、という経験をすれば、普通に旅行できるようになったら、ぜひその地に足を運びたい、その人に会いたい、という気持ちになるのが普通だろう。
こうして、コロナの問題がある程度落ち着いた時に向けて、「見込み客」を今のうちに確保しておく、しかも有料のサービスとして提供する動きは、長い目で見た時にはもちろん、今の売り上げにも繋がるという意味でも非常に有益な手段であると思う。
そして、実際に観光客が戻ってきた時に、どのようなサービスを提供するのか、そのレベルを今から高めておくこと、高める方法を考えておくことも大切な取り組みであると思う。
例えばこの記事にある取りくみは、旅行者として評価できるものなのだが、冷静に考えてみると、これまでなぜ実施されていなかったのだろうか、とも思う。厳しいことを言ってしまうと、コロナ前はインバウンド需要にあぐらをかいてしまっていた部分が、なかったとは言えないのではないだろうか。
インバウンド客の数をこなすことに目が行ってしまい、旅本来の質を高めることを怠っていた部分があるとすれば、いまはその反省をし、それを踏まえた、本来日本が得意とする「おもてなし」の中身を一層高める好機でもあるのではないだろうか。
オンライン旅行や実際に着地しない観光にどんな意義があるのか、という疑問を持つ方もあると思う。また、旅行関連業界は生き延びることが精いっぱい、ということも本音であると理解しているつもりだ。ただ、時期は不明ながら将来訪れる、コロナ前の姿に近い状態でお客様を迎えることができるようになった時に、お客様があそこに行きたい、こんな旅行がしたいという気持ちを高めておいてもらえるサービスを今のうちにしておくことがとても重要なのではないかと、こうした一連の取り組みを見て感じている。