見出し画像

大切なことは、ぜんぶPOPが教えてくれた。 〜POPスターと呼ばれて〜

社会人1年目。
僕は広告会社に入った。

学生時代、深津絵里さん主演の「恋のチカラ」というドラマに憧れた僕は、営業職を目指した。
ドラマは大手広告会社の営業が、一流クリエーターと二人三脚でクライアントの課題解決に取り組む物語だった。

配属発表で、僕は希望通り営業に配属された。

これからドラマのような日々がはじまるのか。
クリエーターとクライアントの間に立って、うまく調整できるだろうか。

そんな期待と不安を抱えて臨んだ社会人生活。

実際は少し違った。

気がついたら僕は、社内で「POPスター」というあだ名で呼ばれるようになっていた。

今日はそんな話。

■購買の手前のプロデューサー

当時、広告会社の営業といえば、クライアントと社内スタッフの調整役だった。

社内の気難しいクリエーターやプランナーを仕切り、担当するクライアントに貢献する広告をつくる。そのプロデューサー的な側面が営業の醍醐味だ。

中でも、社内外で大勢のスタッフが関わるテレビCMは花形で、僕もそんなCM制作に携わることを楽しみにしていた。

しかし結果的に、僕がテレビCMに携わることはなかった。

代わりに携わったのが、POPだ。

僕が営業として配属されたのはコンビニ・スーパーの販促チーム

販促とは、いわゆる「マスメディア以外」を領域としており、制作するのはメーカーのテレビCMやバナー、新聞広告ではない。

コンビニのPOP制作が、僕の担当になった。

POP広告(通称:ピーオーピー)とは、point of purchaseの略称。
つまり購買の手間にある広告のことだ。

そんなPOP広告は、目まぐるしいスピードでつくられる。制作側にとっては「短納期の広告」だ。また、種類が膨大にあるため、社内のクリエーターでは追いつかない。

「これがデザインチームだよ」

と先輩に紹介されたのは、クライアント本社から徒歩3分の場所にある、5人程度の小さなデザイン事務所。そこでは専門学校を出たばかりの若手デザイナーが日々Macと格闘していた。

それから3年間、僕はこのデザイン事務所に通うことになる。

■POPが教えてくれたこと

正直なことを言えば「思ってたんと違う」配属だった。

クリエーターに刺激を受けたい、と志望して入った広告会社の営業職。

しかし最初の3年間は、社内のクリエーターやプランナーと仕事をすることはなかった。デザイン事務所とクライアントの往復ばかりで、自分の会社の本社より、デザイン事務所にいる時間の方が長かった。

「クリエーターと仕事ができなくても、小島くんはPOPのクリエーターじゃん!立派なPOPスターだよ!」

そんな冗談で、いつも先輩たちが慰めてくれた。(いじられていた)

予期せず「POPスター」としてはじまった僕の社会人生活。ただ、今も大切にしていることは、この時代に学んだことが多い。

先日、少しだけ話題になったこのツイートがまさにそうだ。

これはPOP制作の経験から学んだこと。

POP制作の過程には「2大修正指示」がある。

1.大きくして
2.赤くして

だ。

要するに「もっと目立たせて」という戻し(クライアントからの指示)だ。

最初の半年は指示通りにつくったが、そのPOPが店頭に並んだ時「目立っているな」と感じたことがなかった。

「なぜだろう」新入社員の僕は考えた。

まず、大きいものが目立つことは間違いない。

ただ一度大きなPOPをつくってしまうと、次につくるPOPも大きくしたくなる。

色も同じだ。

赤い色は確かに目立つ。
しかし一度赤くしてしまうと、次も赤くしたくなる。

・大きくする
・赤くする

この2つは中毒性が高かった

また、Macの画面でそのPOPだけ見ていると「目立っている」と感じるが、実際店頭で見るとこんな見え方になっていることが多い。

それに気付いてから、僕はデザインしたPOPを(紙の印刷ではなく)切り抜いて持っていくようになった。

そして悩んだ時はいつも「店頭で見てみましょうか?」と声をかけるようになった。

店頭でPOPを並べてみると、赤ではなく「意外と緑の方が目立ちますね」という現象が起きた。

なぜ緑なのか。その時は理由がわからなかったが、後に赤の反対色(補色)は緑であることを知った。

つまり「目立つ」とは「赤だから目立つ」という絶対評価ではなく、相対的なバランスで決まる。

そして全体像をコントロールさえできれば、大きくしなくても、赤くしなくても「目立つ」はつくれることがわかった。

デザインを勉強したことのない自分だったが、現場から学んだ。

■ルールと、ルールを破るルール

こうして赤1色のPOPを抜け出したPOPスターの僕だったが、正直、毎回色んなデザインパターンを作って、毎回店頭で検証している暇はなかった。

前述の通り、POPは目まぐるしいスピードで入れ替わっていく。次から次へとデザインしなければ追いつかない。また、POPをつくる商品=注力商品だから、すべてのデザインを全力でやらなければいけない。

一方で、前述の通り「目立つ」をつくるには「揃える」が必要になる。

営業を離れた今、当時の自分をコンサルするとしたら2つの指示を出すだろう。

1.ルールをつくる
2.脱ルールのルールをつくる

膨大な種類のPOPを、毎回ゼロからデザインするのは効率が悪い。ネタ切れにもなるし、毎回ゼロから考えるから「揃える」ことが難しい。

まずは現状のPOPを棚卸して、3種類程度のフォーマットを決める。つまり「基本形」をつくる。
これによって、デザイン作業が効率化され、毎回現場で検証する時間も確保できるだろう。

とは言え、これでは「目立つ」がつくれない。
そこで「脱ルールのルール」をつくるつまり特例のルールだ。

例えば、全体の10%は色をつけていい

というルールだ。

このルール、実は僕が今、企画書制作に取り入れているルールの1つだ。

企画書制作はPOPスターの後、同じクライアントでキャンペーンプランナーをしている時に学んだ。

POPと同じように「アレもコレも大事だ」となりがちな企画書のデザイン。

その結果、全部赤文字でつくられた企画書は非常に読みづらい。これはPOPが置かれる店頭でも同じことだ。

「脱ルールのルール」があることで「本当の注力商品」が社内で合意形成されることになるだろう。それはつまり戦略性が生まれるということだ。

当時の僕には、この考えが必要だった。

この会議が行われないまま、バラバラと、矢継ぎ早に、新しいPOPのデザインをデザイン事務所に発注していた。その結果、デザイナーさんたちを疲弊させたかもしれない。

この整理ができれば「目立つ」を意図的にコントロールでき、クライアントにとっても、クライアントの顧客にとっても、いい売り場づくりができただろう。

デザイン作業に入る前に、仕組みをデザインすること。体制をデザインすることが必要だった。

POPスターを引退した今でも、POPに教えてもらうことは多い。

■興味のない領域なら、深い理解を。

今日は、3月末日。
来週にはまた新入社員が入ってくる。

配属先は今も昔も、新入社員にとって1番の関心ゴトだ。

最近は「配属先保証」や「ジョブ型採用」を導入する企業も増えてきたが、

・希望の部署に配属される新入社員
・真逆の部署に配属される新入社員

中には僕と同じように
・希望とは少しズレた部署に配属される新入社員

もいるだろう。

最後に、そんな新入社員に少しだけ偉そうなアドバイスを送りたい。

僕は仕事で得られる力には、2つの階層があると捉えている。

1つ目はその部署・領域でしか使えない力。
2つ目がどの部署・領域でも使える力だ。

僕の例で言えば、

・POP(通称:ピーオーピー)が、point of purchaseの略称
・赤の補色は緑


というのが浅い階層の話。この領域でしか役に立たないだろう。

それが、
・「目立つ」の前提には「揃える」が必要
・機能する顧客体験は「仕組みのデザイン」からはじまる


という深さまで到達すれば、どの領域でも応用できる学びになる。

実はこの「深い理解」、興味のない領域の方が辿り着き易い

浅い知識を得ても仕方ないなら「他の領域でも使える学び」はなんだろう、と考え出せばいいのだ。

興味のある領域だと、つい浅い知識で満足してしまう。

そうでなければ「他の領域でも役立つ学びを得てやろう!」と意気込みが必要だ。その姿勢が深い理解、本質的な学びを生むことになる。

来週以降、希望じゃない部署に配属された人は、是非この話を思い出してほしい。

POPスターより。

サポートいただけたらグリーンラベルを買います。飲むと筆が進みます。