
「市場価値」を高めるためには「ユニークさ」を意識しよう
お疲れさまです。メタバースクリエイターズ若宮です。
今日は「市場価値を上げるには?」というテーマで、特にキャリアや人材としての「市場価値」の高め方について書きたいと思います。
市場における価値でだいじなのは「ユニークさ=ひとつっぽさ」
キャリアでも「市場価値」を考えるのがますます大事になってきてます。
終身雇用時代には社内だけを見ていればよかったかもしれませんが、転職を含め人材の流動性が上がる中で、「市場価値」を問われる機会が増えてきますです。仕事を通じてキャリア資産を積み上げ、一つの社内だけでなく人材市場全体の中で自分の価値を上げることが重要になっています。
アート思考やコアバリューについてもよく「ユニークさ」のお話をするのですが、人材市場で価値をあげる上でも「ユニークさ」こそがカギとなると思っています。
「市場価値」とは文字通りにいえば、「市場(いちば)」における価値です。ファーマーズマーケットのような、さまざまな店舗が出店している市場を想像してみましょう。
多種多様な商品があり、訪れた人はその中から興味があるものを選んで購入します。自分の店に「ここにしかない商品」があれば、強い関心が集まり、価格競争に陥らずに価格をつけられますが、隣の店でも同じものを売っていたら価格はその影響を受けます。
つまり「市場」で価値を高めるためには「ユニークさ」、つまり「一つ(uni)っぽいこと」が大切なのです。
箱ティッシュはなぜ覚えてもらえないのか?
「ユニークさ」について話す時、よく「箱ティッシュ」の話をします。
企業で新規事業の講演をしたりする時、「今日家にあるボックスティッシュのブランド名を覚えていますか?」と質問することがあります。すると100人くらいいても数人とか1割も手が上がらないんですよね。大半の人は「ネピアかスコッティか…」とかうるおぼえです。仮に「ネピアです」と答えた方がいても「メーカー分かりますか?」と聞くと、「え…ネピアってメーカーじゃないんですか?」と言われたりする。
一方、「スマホは何を使っていますか?」と聞くと「iPhone14です」みたいに、ブランド名だけでなく世代まで正確に答えられます。そして、メーカーの名前としてAppleが出てこないなんてことはありません。
この違いはなにか?それこそが「ユニークさ=一つっぽさ」です。
箱ティッシュは所謂コモディティーで他の商品との違いがほとんどありません。ネピアでもスコッティでもエリエールでも、中身だけで区別がつけられる人はほとんどいないでしょう。ちがいがないので特定のブランドを意識する必要がなく、ほぼ覚えていない。
ネピアをいつも使ってる人はスーパーで隣に50円安く他のブランドが売っていたら買ってしまうかもしれませんが、iPhoneを買いに行って安かったから、とgalaxyを買って帰ってくるひとはあまりいません。ネピアが売っていないからといって他店舗の在庫を探してもらったり予約して入荷を待つ人はあまりいませんが、iPhoneではそうするでしょう。
そしてさらに重要なのは「価値はニーズの多さでは決まらない」ということです。箱ティッシュはみんなが毎日使っていて、ニーズはとても大きいものです。スマホを使ったことない人はまだいるかもしれないので、ニーズでいえばiPhone以上でしょう。それでも、他との「ちがい」がなければブランド名すら覚えてすらもらえないのです。
これからの時代、ニーズの大きさだけではなく、「ユニークさ」が求められている。それは人材市場においても同じです。人気の大手企業に入ったり資格を取ったりと世の中的なニーズを満たすだけでは必ずしも市場価値は高くなりません。
他との「ちがい」、代替不可能なユニークさがなければ名前すら覚えられない存在になってしまうかもしれません。
工場のパラダイムからアートのパラダイムへ
「ユニークさ」が求められる時代になってきた背景には、価値のパラダイムの変化があります。(これについて僕の一冊目の著書の『ハウ・トゥ・アート・シンキング』でも書いているので良かったらどうぞ)
僕はこれを「工場のパラダイム」から「アートのパラダイム」へ、という言い方をしています。
20世紀と21世紀をまたいで、価値の作り方のパラダイムが変わってきました。産業革命以降20世紀までは「工場のパラダイム」が主流でした。「工場」では、「おなじ」ものを多く生産することが求められ、「ちがい」が混じると不良品や事故の元なので「おなじ」がいいことで「ちがい」は悪いことだという感覚が強化されました。機械の部品や作業マニュアルなど規格化により、「おなじ」を増やすように志向されてきたわけです。
「工場のパラダイム」では勤勉で真面目な日本は、「ジャパンアズナンバーワン」と言われ、世界を駆け上がりました。
しかし、市場が成熟するにつれ価値観が変わりはじめます。モノや情報があふれている時代には「おなじ」ことの価値は相対的に下がってくるからです。
こうした飽和した現代社会における新しい価値のパラダイムを僕は「アートのパラダイム」と呼んでいます。
アートの世界では、これまで誰も作ったことのないオリジナルな作品が評価されます。それに対して、他の人がすでに作っているものを真似ると「モノマネ」や「パクリ」といわれ、歓迎されません。工場のパラダイムでは「おなじ」がよくて「ちがい」が悪いことだったのから一転、「ちがい」が価値となり「おなじ」はあまり価値がない時代になったのです。
価値のパラダイムが変わり「VUCAの時代」とか「イノベーション」と号令をかけながら、かつて「工場のパラダイム」でNo.1となった日本ではそこここにまだ「おなじ志向」が残っています。就活生が全員同じようなリクルートスーツを着ていたり、会社の中でもマニュアルの遵守が最優先になっていたり、教育もまだまだ「工場のパラダイム」から抜け出せていない。「ちがい」の価値を「おなじ」の体質で生もうとしている矛盾があります。
①AまたはBではなく、AかつBのキャリアを
こうした時代の変化の中でこれからますます「ユニークさ(=ひとつっぽさ)」が重視されてきます。ではどうすれば「ユニークさ(=ひとつっぽさ)」を高めることができるでしょうか。
1つ目のポイントは「掛け算」です。
「ベン図」で考えてみます。数学でみたことがあるベンさんのあれです。ベン図では2つの丸、AとBで重なっている部分を示します。
市場価値やキャリア資産を高める上で、「自分にできること」や特徴を考えてみると、きっといくつか思いつくと思います。
ここで注意しなければならないポイント、それは、「AかつB」で考えることです。間違えて「AまたはB」にしてしまうと、「ユニークさ」からむしろ遠ざかってしまいます。

例えば、営業とマーケティングと広報の経験がある人がいるとします。
面接で「私は営業もマーケティングも広報もやったことあるので色々できます」というのはユニークでしょうか。これは上のベン図でいうと左側の「または」の状態で、かえってぼやけてしまうのです。採用担当は、そういう人よりもそれぞれの分野に特化したキラッと光る人に魅力を感じるでしょう。
では、「AかつBかつC」とはどういう感じかというと、
「私はまず営業として顧客のニーズに徹底的に向き合ったのですが、その経験をマーケティングにも活かし、顧客をありありとイメージしながらマーケしました。さらにその後広報にうつってからも、顧客視点から広報ができたんです。1wayで伝えるのでなく受け手の視点からみられる広報はあまりいないんですよね」
ただ「色々できます」というのとはだいぶ印象がちがいます。これが右側の「AかつBかつC」のゾーンです。「何でもできる」ジェネラリストではなく、各分野での経験を重ね、それぞれの視点を活かして業績を上げることができる。絞り込まれていて、「ユニーク=ひとつっぽい」に近づいています。
「または」は「和集合」、「かつ」は「積集合」と言います。「足し算」か「掛け算」か、です。キャリアを積むごとに「足すのではなく掛ける」ことで、絞り込みがきいてユニークさが増え、市場価値が高まるのです。
②ベン図の重なりは少し遠く、でも重なりが大事
ベン図の掛け算、つまり二つの領域を組み合わせるときにも注意点があります。それは「AとBはどれだけ重なるか」ということです。

マーケティングとSNS、のように近い領域を組み合わせた場合、重なり部分は大きすぎて絞り込みは聞きません。逆に、水と油のようなまったく重ならない領域ではそれぞれが別で、全く関連性のないもの(空集合)になってしまいます。
例えば僕は、アート研究とスタートアップ企業の両方を経験したわけですが、これを「掛け算」して「アート思考」したことで、それがユニークバリューになり色々とお声がけをいただいています。
アート界でいえば僕よりアートに詳しい人はたくさんいますし、スタートアップ界や新規事業でも僕よりすぐれた起業家はそれこそごまんといます。しかし、アートとビジネスという、(少なくともこれまでは)遠いと思われていた二つの領域を組み合わせることで、ベン図の絞り込みはより強くなります。
重要なのは、「遠すぎず近すぎない、ちょうど良い距離」で二つの領域を組み合わせ、そこに共通の価値を見つけ出すことです。例えば仕事と介護、これら二つは一見全く関係ないように見えますが、介護の中で学んだコミュニケーションスキルや感情の理解力が、ビジネスの現場で大きな強みとなるかもしれません。
一見無関係なものに思えても、過去のキャリアや選択はなんらか必ず「自分らしさ」に繋がっています。Connecting The Dotsというやつですが、たとえ転職してまったく違うことをやるときでも、過去のキャリアをなかったことにするのではなく、その遠そうなところに共通する点を見つけ出すことが、自分のユニークな価値を高めるポイントとなるわけです。
③「いびつタグ」に「スキルタグ」を掛け算する
そして3つ目のポイントとして、アート思考のワークショップでもよく使う、「スキルタグ」と「いびつタグ」の組み合わせを推奨しています。
スキルタグとは、資格や特技など「身につけたスキル」を示すものです。例えば、海外経験があるので英語ができる、などがそうです。しかし、スキルだけで「ひとつっぽい」になるのはなかなか難しく、「TOEIC満点です」くらいにならないと「ユニーク」にはなれないかもしれません。
僕がより大切だと思うのは「いびつタグ」です。これは、「自分らしさ」を示すタグです。石がすべて異なる形状を持っているように、人はもともと一人ひとり違う形をしています。「いびつ」とは「不正」を一文字にしたものですが、誰もに共通する「正」の形ではなくて、それぞれ異なる「ちがい」の源泉です。
たとえばそれは「スキルタグ」のように一見して役に立ちそうには思えないかもしれません。偏愛やフェチ、「性癖」みたいなものだとよくいうのですが、役に立つかどうかではないし理屈でも説明できないけど、そうなっちゃう、みたいなゾーンです。
いびつタグとスキルタグを掛け合わせると、ユニークになります。逆に、いびつさを抑え、スキルタグだけに頼ってしまうと、他と同じ形になってしまうのです。

例えば、高い偏差値を求め良い大学に行くというのはスキルタグ的な考え方です。しかし、それを追求する中で人とおなじ「正解」を追求する癖がついてしまうとユニークからは遠くなります。
なので僕はどちらかといえば、まず第一義的には自分の「いびつさ」を大切にし、そこに「スキルタグ」を掛け算することで増幅するようなイメージをお勧めしています。いびつさは必ずしも「いい」ことではないし「できる」ことでもなく、自分ではコンプレックスに思っていたり黒歴史だったりするかもしれません。でも、そうとしか「できない」、というそれこそがあなただけのユニークな価値を生み出す源泉なのです。
例えば、ライターを目指す時に「うまい文章がかける」というのはスキルタグとしてあるに越したことはありません。しかし、それ以上に、例えば「プロテインが好きすぎる」「地蔵が可愛すぎて毎週末探す旅をしている」とか『マツコの知らない世界』に出そうな「いびつさ」を活かす方が、拙くてもまちがいなく魅力的な記事を書けるのです。
「市場価値」を高めるために「ユニークさ」がだいじになる時代。
「ユニークさ」を増やすためのポイントは、①「または」ではなく「かつ」の掛け算、②遠いものに共通点を見出す、③いびつタグがだいじ、というお話でした。